第七十話 東肥前統一
少弐への仕置きを終えた俺は、ひとまず佐賀へ帰還することにした。
新次郎へは、硬軟織り交ぜた対応で当たるよう伝えている。
三根郡と養父郡は既に平定し、基肄郡を臨むところらしい。
基肄郡については、国境の緩衝地帯の役割も期待出来ることから、殊更強硬な姿勢で臨む必要はない。
今はまだ、な。
筑後に残留していた六郎二郎たちは、久右衛門を筆頭に順次帰還が進んでいる。
少弐屋形が自刃したという知らせを孫九郎が届けてくれたらしく、皆引揚げてくることになったらしい。
皆それぞれ、立派に育っていて誠に喜ばしい。
ああ、筑後から戻るのは女衆も同じだ。
奥さんや、生まれたばかりの於珠は息災だろうか。
随分長く会ってない気がする。
まだ軍勢を解散するには至らないが、家族とは一度会っておくとしよう。
これもまた、ひとつの大きな区切りとなるだろうし。
論功行賞などは新次郎らが戻ってからだが、そう遠い話でもあるまい。
六郎二郎や孫九郎のことも、その時一緒にするか。
周囲に散っている家臣たちにも、一度戻って来る様伝えて置こう。
特に成松兵庫はよくやってくれた。
恩賞はやはり、直接当人に与えてやる方がお互い良い感じになるからな。
* * *
脱落者を出すこともなく、無事に佐賀へ帰還。
いや、凱旋と言うべきか。
筑後からの帰還者が落ち着くのと、新次郎らが事を為すのを待たねばならない。
その間に行うべき仕事は山積みだ。
それはもうゲンナリする程に。
しかしまあ、大きなことは孫九郎が良い感じに片付けてくれた。
高木能登の助力も大きい。
孫九郎と言えば、嫁を迎えたのだった。
於絃と言ったか。
まだ、ちゃんとは顔を合わせていない。
義兄として、彼ら夫婦を祝福してやらねばなるまい。
正式なものは後日となるが、母上や奥さんたちと一緒に面会だけでもな。
* * *
「孫九郎も、立派な大人になったものだな。」
「ははは。義兄上、どういうことですか。」
孫九郎夫妻を呼び寄せ、軽く歓談。
妻を迎えたせいか、孫九郎はとてもどっしりしているように見受けられる。
元から年の割に落ち着きのある人物だったが、それに風格も備わって来たように思える。
城主として一人切り盛りした経験が昇華されたのだろう。
「そして、於絃殿。
孫九郎を支えてくれたこと、義兄として礼を言う。」
「そ、そんなっ。頭を上げて下さい殿様!」
孫九郎の妻である於絃。
礼を述べて軽くだが頭を下げると、すっかり恐縮してしまった。
あわあわしてる様が実に微笑ましい。
「於絃。落ち着きなさい。ほら、深呼吸して。」
「は、はいぃぃ。…すぅー。はぁー。はい。」
その遣り取りは初々しくて、実に微笑ましい。
そして、非常にお似合いだ。
「両人、これまで苦労をかけた。
今後も色々有ると思うが、頼むぞ?」
「はい。」
「承知しました!」
「披露宴は後日、皆揃ってから執り行う。そのつもりでな?」
「あ、ありがとうございます。」
夫婦になった時に、式自体は既に執り行っている。
しかし、当時は周囲が非常に寂しい状態だったと聞く。
だから家族揃った状態で、華々しく披露宴を行いたい。
そう告げると恐縮した様子だったものの、喜んでくれた。
うむ。
是非とも、目も眩むばかりの華々しい宴を催してやろうじゃないか!
「義兄上。何か悪巧みですか……?」
おっと、悪い笑みが出てしまったようだ。
何でもないとかわして、お開きとする。
戦勝の宴に、披露宴に結婚式。
須く併せて盛大に執り行うつもりだ。
戦勝の宴以外の主役たちには敢えて教えていない。
サプライズと言うのも、悪くないよな。
* * *
ややあって、新次郎たちから基肄郡も平定したとの知らせを受けた。
俺の思惑通り、基肄郡の領主層で降服する者は全て許された。
一部強硬な姿勢を取る者もいたようだが、新次郎の武名の前には紙切れ同然だったと言う。
堀江兵部からの連絡は、常に新次郎を持ち上げることに余念が無い。
彼の娘である凛ちゃんを、新次郎の嫁に宛がう予定であることは既に伝えてある。
だから、そんな必死にアピールする必要はないんだぞ。
言っても聞かないのだが。
別に良いのだけど。
降服した領主層からは人質を取り、佐賀に送ることにしたようだ。
なので彼らには、一緒に帰還するよう伝えた。
東肥前の平定なる。
これを周辺各所へ大いに喧伝させた。
新次郎の武名と合わさって、大いに鳴り響くに相違ない。
中でも杵島郡・藤津郡・松浦郡の豪族たちには、大きな効果が期待出来る。
筑前の原田弾正や石見の吉見大蔵、そして毛利備中にも伝えよう。
更には筑前・筑後・肥後の、明らかな敵性である者を除いた諸将にもな。
周囲がどう動くか、それらを見極めてから次の一手となる。
余程のことが無い限りは、国力を高めることになろうが。
ま、政治面のことは一旦置いておこう。
この大いなる区切りを、皆と楽しみ共感するための準備を進めよう。
論功行賞も勿論だが、それ以上に慶事を以て共感させる。
具体的には、婚姻政策を進める。
政策と付けると何とも味気ないな。
仕方のないことだが。
だからせめて俺が仲人を務め、宴など内容を大々的に且つ華々しいものにするのだ!
抜かりがあってはならない。
粛々と進めよう。
共犯者は江副安芸と鍋島駿河。
実行犯は納富越中や石井尾張などだ。
さあ、楽しくなってきたぞ!
東肥前統一。
あっさり目ですが、一区切りの季節がやって参りました。
何を隠そう、九月の忙しさが予想以上な模様。
宣言した週二回の目途すら、怪しい雲行きに……。
ひょっとすると、来週から週一更新になるかも知れません。




