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第六十五話 不如意

朝駆け気味に姉川を出立した俺たちは、勢いそのままに進軍して勢福寺城を遠巻きに囲んだ。


遠巻きにしたのは、あちらも出城を築き兵を入れていた為である。

少弐方も流石に警戒を密にしていたか。


遠巻きにする分、囲みの層は薄くなるが仕方が無い。

まずは周囲の出城から潰していくしかないな。


そうして徐々に包囲網を狭めて、屋形を逃がさないようにするのだ。


* * *


先手を任せた鍋島孫四郎と千葉左門の兄弟、それに木下伊予が出城に取り掛かった。

二陣の秀島河内が後詰し、俺たちはやや下がって布陣する。


包囲網が広がった結果、敵方に肉薄する面積も広がった。

そのため、二陣とした南里宮内と姉川中務らも別面を受け持つこととなる。


南側から攻め上る小田駿河らの軍勢もあり、各所が激戦となるのに時間はそう掛らないだろう。


軍勢の士気やそれに伴う質、そして数全てが上回っている。

我攻めを続ければ、負ける要素はない。


しかし、無駄に兵を損なうのは上手くないと言える。

逃してはならない一点だけを突き、それ以外は降服を促す。


これが最上。

とは言え、中々そう上手くはいかないもの。


相手が消耗を厭わず仕掛けてくれば、こちらも相応に対応せねば、むしろやられて仕舞いかねない。

そういった輩は多くはないが、少なくもない。


ここが前途と心得ている、天晴れな侍だ。

そう称賛する気持ちは当然あるが、何とも遣る瀬無い気持ちにもある。

我ながら勝手な所感であるが。


まあそういう心得のある相手に対し、無暗矢鱈に降服を促すのもどうかと思うのだ。

あと数を恃みに槍衾で追い込むとかも。


戦略としては間違ってない筈だが、心情としては少々なぁ。


味方にしても、敵方の武者振りに奮って吶喊する者が少なくない。

ならば指揮者としては、余計な被害が出ないよう配慮してやるのが一番だろう。


龍造寺対少弐の図柄でありつつ、同族間で敵味方に分かれて戦っている者も多い。

そう言う者らは、程々の所で切り上げて降服したり逃げ出したりする。


彼らを見逃し、それでいて隙を狙って忍び入って来ないよう警戒も密にしなければならない。

こう言う裏方的な仕事は、やるべきことは存外多くてしかも目立たない。

あまり好まれないが、疎かには出来ない大事なことだ。


指示処方をしていると、どんどん時間が過ぎて行く。

勿論、戦場を俯瞰することも大切だ。


馬渡越後が戸田藤次郎と共に飛び出していくのが見えた。


うん。

まあ、やっぱりな。


戦果を上げて、無事に戻って来ることを祈っておこう。


* * *


太陽が頂きに昇った頃、将兵には適宜交代で中食なかじきを取らせていた。


白湯と握飯、それに少量の味噌のみだが、疲れた体にはよく染みる。

戦場以外では基本的に一日二食だからな。


これを楽しみとする者も多い。

もうちょい豊かになって落ち着いたら、昼食制度を普及させるのも良いかも知れないな。


豊かになる為には、農業以外にも商工業を発展させる必要がある。

佐賀は内海とは言え、海に面している。


干潟なのが欠点だが、上手く浚渫出来れば良い港を作ることも可能だろう。

そして、良い商人を得る必要もある。


信用出来る者。

所謂御用聞き、御用商人といったものが、いずれ必要になる。


松浦、草野、原田ら北方の人物との繋ぎを強く持たねばなるまいな。

あとは、毛利備中か……。


おっと、思考が戦から脱線し過ぎた。

まだ戦いは続いている。


皮算用にならぬよう、今は集中せよ!



* * *


「御注進!!」


ひつじの刻を回った頃、息急き切って使い番が駆け込んで来た。

大分慌てているようだ。


「如何した?」


戦場ではさしたる動きはないように見える。

幾つかの砦が陥落したくらいか。


是と言って将兵に犠牲が出た訳でもなさそうだが……。


「申し上げます。山内地方に軍勢の動き、是有り!」


ふむ?

山内地方と言うと、先に不可侵を結んだ神代大和の領地だが。

どういうことかな。


「なんと!?」


「神代衆め、早速約定を破ったか!」


「やはり神代大和守は少弐を見捨てられませなんだかな?」


周囲で皆が騒いでいるが、まずは確認だ。


「静まれ!

 使いの者、御苦労。」


「は!ではこれにて!」


今の使い番は小河左近の手の者だった。

情報が入り次第、追加がやって来るだろう。


それはそれとして、沿線の将兵に伝令を出しておこう。


「伝令!」


「ははっ」


「沿線の皆には、手出し無用と伝えよ。」


「殿っ?」


「迎撃のみ許可する。

 相手が先を急ぐようなら見送り、その旨を我らに伝えて警備を優先させよ。」


「御意。しからば御免!」


伝令を放ち、様子を見ることにした。

周囲には意味が判らないといった面持ちの皆が。

簡単に説明しておくか。


まず、出てきているのは本当に神代家の者か。

次に、それらは誰の命で動いているのか。

最後に、何を目的としているのか。


これらが判らねば、不用意に動くのは危険だ。

まあ、大凡の予想はつくのだが。


そしてその結果どうなるのかも、大体の目途は立っている。


神代大和。

早まったか?




前話で人名に誤りがありましたので修正しました。失礼しました。

どうも最近、書きたいことが上手くまとまりません。

一体全体どうしたことか…

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