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第六十四話 進軍

肥後で騒乱の兆しがあり、筑後の諸将に戦支度の指示があったという情報が齎された。


赤司党の他にも筑後方面のパイプは幾つかある。

久納平兵衛はその最たるもので、何せ実父が筑後に残っているのだから。


尚、蒲池様からの援軍は、村中を回復した辺りでほとんど戻って貰った。

流石に甘えすぎるのは良くない。

恩と言う借りも、累積赤字になってしまうと問題になる。


まあ一部同行しているが、これもパイプ役となって貰った。

具体的には、原十郎の二男と三男だが。


彼らはどうも、このまま俺に仕えたいと思っているようなのだ。


俺としてはどちらでも構わないのであるが、ふむ。

或いは軍功を立てさせて、一家を興すと言うのもありか?


蒲池様は勿論だが、原十郎にもとても感謝している。

直接俺たちを養ってくれていたのだから。


だからその一族を召抱えて興隆させれば、恩返しの一端になるかも知れない。


* * *


俺たちは佐賀を素通りして神埼郡に入り、姉川城付近に陣を敷いた。

姉川城は少弐家臣であった姉川中務がいるが、既に降りている。


そして、少弐屋形が座する勢福寺城までの案内役を買って出てくれた。


ここで、小田駿河の先遣隊と犬塚伯耆の軍勢が合流。

小田駿河の本体と、本告左馬も近く合流する手筈となっている。


また、綾部備前は出雲民部と共に高木肥前に下り、少弐屋形の舎弟を担ぐ馬場や藤崎らを抑えている。

更に横岳讃岐には横岳下野が当たり、犬塚長門は犬塚播磨と睨み合っている。


朝日近江は日向守が抑えに回っているし、筑紫下野も新次郎に睨まれて動きようが無い。

村中は孫九郎と高木能登に任せているから後詰もバッチリだ。


神代大和とは不可侵の約定を結んでいるので、表立って援軍に来ることはないだろう。

一応、監視の人数は出しているが。


ともかく、少弐屋形を守護する城の人数以外には、現状敵はいない。


ならば。


もう、攻めるか。


* * *


「……と、言う訳で陣立てを決める。何か意見は?」


姉川城外の本陣で、少弐屋形の息の根を止める為の軍議を開いている。


尚、小田駿河と本告左馬はやや南の河口付近を進軍するとのことでここにはいない。

南から廻り込み、逃げ場を更に塞ごうと言う策である。


「殿!某に是非とも先陣を仰せ付け下さい!!」


「なにを貴様!いやいや殿。ここは是非私めに!」


「ふむ、ならば我は遊撃に回ろうではないか。」


「おお、それは良いな。ぐるりと回れば……」


「まあ待て。抜け駆けは感心しないぞ?」


「なななな、何を申すか!我は唯、遊軍として、だな……」


「ささささ左様左様。わわわ我々は迂回の人数として、隙有らば…」


「殿、若が今回が初陣に御座いますれば、是非御側近くに!」


「ワシもまだまだ、若い者には負ける気はありませぬぞ!」


「ほんにあさんはうーばんぎゃーかもんぎぞーんわく!」


喧々諤々。

軍議においては好きに喋らせることが多い俺であるが、グダグダに成り易いのが宜しくない。

俺が一喝すれば大人しくなるのだが、まあ今回は良いだろう。


無論、慢心は良くない。


なので、老臣連中に目配せをして程々で切上げさせる。

自分でやらないのは、勢いを殺したくないからだ。


夜明けと共に進軍し、撃破する。


また、一人足りとも逃がさない。

詳細は省くがその為に手を回し、動いている。


さて、今夜は鍋島周防と堀江筑前、横尾刑部らを夜警に残して安眠だ。

彼らは翌朝は此処に残り、兵站と後詰を担当する。


決戦に参加出来ないことには残念がっていたが、全て大事な役目である。

鍋島周防はその辺りを良く理解してくれ、快く承諾してくれた。


戦の功名が全てではないと、皆が理解してくれれば喜ばしいのであるが。

まあ、追々広めていくしかないな。


* * *


日が昇ると目が覚める。

どうやら夜駆けはなかったようだ。


それでも夜警の皆には良く休むように言っておこう。

何があるか、分からないからな。


さて……。


* * *


俺の目前には、整然と並んだ龍造寺の将兵たち。


「諸君。遂にこの時がやってきた。」


俺が話し始めても、誰も騒がない。

皆、俺を注視している。


「多くは言わぬ。皆、励め!!」


細かな打合せは昨夜終わっている。

今は唯、俺の号令により攻めの一手に入るのみ。


「「「「おおおーーーーーーっっっ!!!!」」」」


それが分かっている皆は、気合いを入れて槍を剣を旗を、そして拳を突き上げる。


「では、進軍!!」


「「「「「おおぉぉぉーーーーーっっっ!!!!」」」」」


因みに昨夜、揉めに揉めた陣立ては結局俺と江副安芸が相談して決めた。

その結果、先陣は鍋島孫四郎と千葉左門、そして木下伊予。


千葉左門などは普段冷静であるのだが、存外熱血なところがある。

旗本衆が声高に先陣を強請って来るのとは対照的に、静かに、されど良く通る声で主張していた。


一応、千葉介殿からの援軍という扱いであるので、千葉左門の先陣は有り得ない。

なのだが、そこは弟大好き兄ちゃんであるところの鍋島孫四郎が声を上げ、こうなった。


木下伊予は普通に主張し、普通に選ばれた。

だが八戸攻めの時も大いに活躍してくれたし、今回も期待している。


馬渡越後と三河の兄弟は密かに抜け駆けを狙っているようだったので、戸田藤次郎と石井三河を組ませた。

今思うと、お目付役にはならない気もする。

まあいいか。


そう言えば、姉川中務は案内役だが先陣ではない。

二陣に配したが、南里宮内や秀島河内らと共に頑張って貰いたい。


少弐屋形の助命はない。


しかし、少弐の旧臣たちへの配慮も必要だ。

姉川と出雲らには、その辺りでも頑張って貰おう。


おっと、戦後のことに感けてはいかんな。

まずは目の前の大事なことを、一歩ずつ踏み締めて進まなければな。




佐賀弁での話し言葉を入れてみました。

地域差や声音差があるので、一概には言い切れないものですが。

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