第六十三話 対少弐
西と南の話が落ち着いたので、東へ向かうこととする。
納富石見を主格とする、こちら方面は引き続き畑を耕すよう指示している。
前田伊予の佐留志城で一泊した俺たちは、朝日が昇ると共に城を出立した。
そして一旦千葉介殿の下に立ち寄り、引継ぎを行い佐賀・神埼・三根方面へ臨む。
* * *
「……と、言う訳なのですが。」
「ふむ!承知した!」
千葉介殿は意に介さず、あっさりと了承してくれた。
いいのかそれで。
いや、嬉しいのだけども。
「本当に宜しいので?」
失礼とは思いつつ、確認してしまう。
「何、構わぬ。他ならぬ山城守殿故な!」
それもアッサリと受け止め、且つ尚更嬉しくなることを言ってくれた。
いやはや、俺は良い人たちに巡り合ったものだ。
「あと、せっかくなので左衛門大夫を連れて行ってくれぬか。」
千葉左門を?
まあ今までも、連絡役を兼ねて帯同していた。
俺の方は問題はないのだが。
「そちらの方は、大丈夫なのですか?」
「大事ない!」
問題ないらしい。
ならば俺がとやかく言うこともないな。
「では、お借りします。」
「ああ。存分に働いてくるが良いぞ!」
「有り難うございます。
殿様。宜しくお願い致します。」
千葉左門が進み出て挨拶をしていた。
養父子の間で、何やら了解があるようだが、流石にそれが何か迄は判らない。
「では、また後日に。」
「うむ。達者でな!」
* * *
道中、千葉左門より軽く報告を受けた。
それによると、東千葉の妻子は千葉介殿が一旦保護しているらしい。
そして、少弐を滅ぼした後に身の振り方を決めたいと言うことだった。
東千葉の血筋を逃すことなく捕えることが出来たのならば、まあ良いか。
細かいことは千葉介殿に任せておけば、大過ないはずだ。
俺はこの先、少弐の屋形らを滅ぼすことを第一に考えればそれで良い。
東千葉が滅んでから丸一日が経過している。
少弐の下にも、そろそろ一報が届いていても可笑しくない。
動揺するだけならまだしも、逃げ出すようなことがないよう新次郎たちには頑張って貰いたい。
ま、なるだけ疾く行軍するよう伝えようか。
* * *
郡境を越えて、山内地方を遠目に望みつつ佐賀郡内を東進する。
各地に使者を放ち、無理のない範囲で神埼・三根郡への進軍を指示した。
三根郡では、重松中務の主導により一揆が頻発。
領主層の少弐離れは加速しているらしい。
特に最近の少弐は大友と親しくしている。
以前に俺が講釈を垂れた、大友当主の謀略を嫌悪する肥前国人は多い。
それがまた、少弐離れを加速させる要因となっている。
そこまで考えていた訳ではないが、何がどう転ぶか判らないものだ。
俺も心せねばならない。
さて、三根郡には新次郎を主格とする別働隊が出張っている。
養父郡などを見張る役目も兼ねているが、基本的には少弐が逃げ出すのを防ぐ目的だ。
肝心の少弐屋形は神埼郡は勢福寺城に居る。
事此処に至り、少弐を守護する譜代の将は、馬場・横岳・宗・筑紫・江上・島・朝日・犬塚・光益がいる。
随分と減った様な気もするし、まだこれだけの者らがいると感心もする。
まあ、神代が抜けただけでも随分違う。
しかも馬場は綾部城にあり、少弐屋形の弟を守護しており此処にはいない。
更に犬塚は、三氏あるうち一氏はこちらに与しているし、もう一氏も既に離れたも同然だ。
残りの一氏は、こちらに与した者との対抗上、少弐側に居るに過ぎない。
やり様は幾らでもある、と言うことだ。
他に少弐譜代の将であった、出雲と姉川は内通済み。
横岳も傍流は当家に仕えていることから、揺さぶりを掛けることが可能。
江上と筑紫すら、現状では弱点足り得ないが、ちょっとした火種を抱えている。
筑紫に関しては、朝日との間でギクシャクしているというものがある。
ここを突いてやれば、ひょっとすればひょっとする可能性は十分あると言えよう。
宗・島・光益は手堅く少弐を支えているが、勢力が強くないので脅威ではない。
特に宗は、宗筑後を新次郎が討取って以来全く冴えない。
いやはや、新次郎は良くやってくれたと改めて思う次第である。
高来の有馬越前も少弐は通じているが、如何せん遠い上に納富石見らが上手く抑えている。
やはり脅威足り得ない。
つい先ほど連絡が入ったのだが、少弐がここまで奮わないのは時の運もあるようだ。
と言うのも、筑後の赤司党から連絡が入った。
どうも、肥後で騒乱が起きているらしい。
* * *
肥後南関城主であり、大友の老臣である小原遠江に逆心の兆しがあると言う。
これを重く見た豊後大友家は、兵を募ろうとしたが、豊後国内でも不穏な動きがありこれを中止。
幾名かの大友老臣が、不満を携えて狼煙を上げようと連絡を交わしているらしい。
詳細はまだ判らないが、大友が混乱すれば肥後も筑後も動けない。
肥前にある親大友派も援軍の見込みがなく、動くに動けないと言ったところか。
* * *
赤司党には、是非とも詳細を掴んで知らせて貰いたい。
動きがあるにせよないにせよ、これは好機だ。
これらのことは、虚実交えて東肥前一帯に流布している。
正に追い風が吹いている状態と言えるだろう。
天佑とも言える。
この機を逃さず、奴らを成敗する。
年内に全てを決する意気込みで臨むとしよう。
8月15日はお盆なので更新出来ないかも知れません。
それ以外は3の倍数の日にちに更新予定です。




