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第五十六話 乱世の女

遅くなりました。

俺の前には土橋加賀と西村美濃が引き据えられ、その傍らには土橋織部が控えている。


色々思う所はあるし、言いたいこともある。

だが、まずは織部に発言を促してみよう。


「此度は我が父の乱行に際し、我が力及ばず留めること出来ず。

 誠に申し訳ございません。

 父と我が命を以て、償いとさせて頂きたい。」


ふむ。

実父の命は諦め、己が功と命を以て子らの命と家名の存続を願うか。


「義兄上!……っ」


孫九郎が何か言いかけるが、目で制す。

助命嘆願だろう。


言われずとも、土橋織部を成敗するつもりはない。

なかなかの器量人だ。


元より、土橋加賀唯一人に全てを背負って貰うつもりだったのだ。

西村美濃に関しても、本人及び一族から詫び状と助命嘆願が来ている。


少し不安だったが、概ね当初の目論見通りになりそうだな。


「では、申し渡す。」


「「「はっ!」」」


「土橋加賀守は斬首!

 西村美濃守は伊賀守に預け、蟄居謹慎。

 土橋織部正に関しては、当人に何ら咎はない。むしろ忠心功大なり。

 土橋家の家督を継ぎ、尚一層励むべし!」


「は、ははーーっ」


さて、土橋加賀の罪を鳴らし裁くことは終わった。

一連の断罪は大事なことだが、それでいて大事の前の小事に過ぎないとも言える。

よって、処罰の現場を見ることもなく次へと向かうことにする。


「土橋加賀守のことは治部、そちに任す。

 終わり次第、小田駿河守殿とともに周囲の撫育にかかれ。」


「御意!」


「我らはこのまま本庄に向かう!

 目指す敵は、八戸下野守。心してかかれ!!」


「「「「おおーーーっ!!」」」」


* * *


土橋織部に罪はないとしつつも、周りの目もある。

何に対する仕置きかは敢えて言わないが、孫九郎に預けることにした。


あと、領地の回復を未だ筑後にいる六郎二郎たちに知らせておこう。


* * *



「殿。お待ちしておりました。」


本庄に着いた俺たちは、鍋島孫四郎に出迎えを受けた。

と、孫四郎の隣に見覚えのある顔が。


「左衛門大夫?」


「は。御無沙汰しております。」


孫四郎の実弟・千葉左門がそこに居た。


「実は、千葉介様との繋ぎに戻っておりましてな。」


鍋島駿河の説明に、なるほどと頷く。

左門の目を見るに、それだけではなさそうだが今は置いておこう。


「簡単にではございますが、膳の支度をしております。どうぞこちらへ。」


確かに挙兵後はまともな食事はしていない。

ここからが本番なのだし、腹ごしらえは必要だな。


「分かった。皆にも良く休むよう伝えよ。」


* * *


本庄の館では、簡単な宴が催されている。

陣中でもあるので、酒は供されていない。


女衆が忙しそうに動き回っている。

そんな中で一人、キビキビと、それでいて華やぐ雰囲気を醸し出す娘がいた。


「孫四郎。あの娘は?」


「はて。当家の者ではございませんな。」


鍋島家の者ではないようだ。

協力者は各地から集まっており、女衆も近隣から集められている。

見知らぬ誰かが居ても可笑しくはない。


しかし、それにしても動きが良い。

ちょっと呼んでみようか。


そんな戯れ心が湧いて出た。


いやいやいや。

今はそんな時じゃない。


「そこな娘さん。そちはよう働くし華やかじゃなー。」


せっかく俺が自制したのに、隣にいた江副安芸がしれっと言葉をかけてしまった。

おいオッサン。


「お誉めに預り恐悦に存じます。

 皆様はこれから大きな戦に赴くとのこと…。

 せめて今、この一時だけでも心安く居て頂きとう思います。」


「おお。見目麗しく、心構えも大変良いとは……。どこの者じゃ?」


「八田より参りました。今泉市佐の娘、藤と申します。」


「殿。こなたは中々の娘ですぞ。」


江副安芸が声をかけてくるが、言われずとも分かる。

当座の褒美を与えて場を盛り上げるのも一興か。


「於藤殿。そなたの心持、大変嬉しく思う。

 何か望むものはあるか?

 俺が叶えられるものであれば、叶えて進ぜるが。」


俺がそう言うと、一気に場が盛り上がった。

ワァァーーっとざわめく空気を横目に、於藤は堂々と答える。


「では、殿さまにお願いしたいことがあります。」


「言ってみよ。」


「戦が終わった後で構いません。

 強くて逞しい殿方を紹介下さいませ!」


於藤の発言に、場が更に盛り上がる。

まだ若いが、良く空気を読めるし肝も座っている。

女傑と言われる素質がありそうだなぁ。


「承知した。

 勝ち戦の後、必ずや我が軍よりつわものを紹介しようぞ。」


「皆、殿の言。確かに聞いたな!?」


「「「おおっ!!」」」


「殿に認められる働きをすれば、この見目麗しき於藤殿を射止めることも叶おうぞ!」


「「「「「おおーーーっ!!!」」」」」


そっちかよ。


いや、良い感じに場が盛り上がったのは良かった。

於藤も「確かに御約束しましたよ」なんて言って微笑んでいる。


間違いない。

あれは女傑だ。


於藤の周りには女衆が集い、何やらとても姦しい。

良く見てみると、孫四郎の妻・於久ら鍋島家中の女もいるな。


緩急逞しく英気を養うべし。


戦場に出る前としては、とても良い空気と言えよう。

江副安芸や孫四郎らと杯を酌み交わす。


次の戦は、恐らく長い戦いになる。

於藤の仲人を務めるのは少し先になるだろうな。


それでも必ず、仲人は務めてみせる。

既に相手の腹案はあるのだから。




野太い声マシマシでお送りしております。


◆前回の後書きにおける注記

親の罪を己の功で相殺させる云々の事例について。

真田信幸を例示しましたが、彼の場合は特殊な事情があり

適切ではないとのご指摘を受けました。

この場を借りてその旨、お知らせ致します。


また、彼以外の事例が思い浮かばなかったため、差替え出来ていません。

今後はこのような不足事例がないよう、精進を重ねる所存です。

宜しくお願い致します。

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