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第五十四話 援軍

もうしばらく不定期更新となりますが、宜しくお願いします。

俺たちは機が熟したと判断し、反攻を開始することにした。


基本的に秘密裏に事を進めねばならない。

しかしながら、義と情を示してくれた蒲池様への報告はすべきだろう。


と、いうわけで。


「この度、肥前に帰る準備が整いました。

 つきましては、そのご報告に罷り越しました。」


「二年近くも滞在を許して頂き、誠に忝く思っております。」


俺と六郎二郎は、蒲池様の居城・柳川城に挨拶しに来ていた。


俺は当主なので当然ながら、六郎二郎は嫡弟としてのお披露目も兼ねている。

併せて、留守居役として暫時留まることも報告した。


「そうか、遂に起たれるか。いや、実に目出度い!」


そう言って、蒲池様は大いに喜んでくれた。


「ならば祝儀を渡そう。左馬助。」


「はい。」


蒲池様の庶長子・蒲池左馬が応じ、こちらに向き直る。

そして、こう言い放った。


「筑後衆から、渡辺上総ら二百騎をお付け致す。

 また、久納平兵衛の転仕を認めましょう。」


「は……」


思わぬことに言葉が出ない。

敢えて言うが、蒲池様は大友の傘下に属している。


そして、俺たちの敵は土橋加賀であり少弐屋形である。

その背後にいるのは、間違いなく大友だ。


更に言うと、俺は大友の宿敵とも言える大内様の閥と未だに繋がっている。

蒲池様がこれを知らぬ訳がない。


尚も言い募ると、久納平兵衛は己から俺に出仕を決めた。

蒲池様はそれを追認しただけに過ぎないのだが、傍流とは言え蒲池一族を俺に付けると言う。

通常ならば有り得ない、ことはなくともそう多いことでもない。


これらを加味した上で、かくの如き処置を取ってくれると言う。

全て、純然たる蒲池様の好意に他ならない。


その好意に唯々頭が下がる。

とりあえず、今後は足を向けて寝ることが出来ないことは確定した。


「有難く、お受け致します。」


「うむ。成就を願っておる。」


蒲池様は最後まで笑みを絶やさず、俺たちを送り出してくれた。


* * *


一木村に戻ると、俺たちが起居する屋敷の持ち主で、俺たちの世話人という立場にある原十郎殿が迎えてくれた。


「山城守殿。柳川の殿への挨拶は済まされたようですな。」


「十郎殿。この度は何かとお世話になりました。」


うむうむと、好々爺然としている原十郎。

彼の横には、その息子たちが控えている。


「殿は山城殿へ加勢を申し出なされたかな?」


「あ、はい。二百名も加勢頂けることになりました。」


俺たちは蒲池様に目通りしてから、真直ぐ戻ってきた。

なんで知っているんだ。


「なに。殿ならば、そのようになされると思ったまでよ。」


疑問に思っていることが顔に出たのか、事も無げに回答された。

しかしまあ、なるほどな。

流石は蒲池様だ。


「そこでよ。我が子息らも、山城守殿の壮挙に同行させて貰いたい。」


そう言って、原十郎は横に控える若者を指し示す。


「原十郎が二男・左馬助です。こちらは弟の権兵衛。」


「流石に嫡子は出せぬがな。こいつらで良ければ使って欲しい。」


「……申し出は有難いのですが、真に宜しいので?」


「構わぬよ。のう?」


原十郎の発言に対し、左馬助と権兵衛が頷いて応える。


「そうですか。……では、宜しく頼む。」


「「はっ!」」


「うむ。妻子らは残すのであろう?

 彼らの警護は任せよ。

 息子らを率い、存分に事を成して来ると良い。」


「なんとも……。

 いえ、宜しくお頼み申し上げます。」


宿居だけでも有難いことなのだが、蒲池様が蒲池様ならその家人も家人か。

好意のオンパレードだ。


恩は余り積み上げ過ぎない方が良いのだが、まずは仕方ない。

原親子に見送られ、左馬助と権兵衛と伴い本陣に戻った。


* * *


さて、最後に陣立ての確認を行おう。

ここから出立する軍勢は、肥前に上陸した後は二手に別れる予定だ。


一手は当然佐賀に向かう。

これの大将は、勿論俺こと龍造寺山城守。

従う将は江副安芸を筆頭に、鍋島駿河や石井刑部ら。

首魁を討ち果たす本軍と言えるものだな。


もう一手は三根に向かう。

こちらは新次郎を大将に、播磨守や堀江兵部を付ける。

現地の協力者と共に、少弐屋形の知行領域を平定する役割を担って貰う。

新次郎は少弐勢に対して戦の相性が良いからな。

裏周り的な役割ではあるが、是非頑張って欲しい。


他にも小城の千葉介殿や、各地に散った家臣らが動く手筈である。

彼らとの連携は事前にちゃんと確認をしてある。

だから後は彼らを信じ、俺は己がすべきことをやり抜くことだろう。


まあ、とは言え。

必勝の手管を取っているが、何が起こるか分からないのが戦場の常。

念のために遺書も認め、留守居役に任じた六郎二郎と久右衛門に託しておいた。


うん、大体こんなものかな。

あとは皆が皆、己の役割をしっかり果たして、最後は笑顔で合流出来るようにしたいものだ。


* * *


「殿!柳川より援軍が到着しました。」


「分かった。お通ししろ。」


「は!」


今現在、俺の手元にある人数は一千人程度。

筑後に常駐した者は五十人ばかりだったが、石井党が兵船を設えて来てくれた。


ここから分散して出立するのだが、上陸時にはそれぞれ三千人程に増える予定だ。

蒲池様の援軍は、俺が率いることとなる。


ややあって壮年の武将が三名やってきた。


「蒲池近江守様が家人、渡邊上総介殿。横田大膳亮殿。萩原志摩守殿にございます。」


「龍造寺山城守です。この度は援軍の段、誠に有難く。」


石井刑部の紹介に軽く頭を下げた三名に対し、俺も名乗り目礼する。


「我が主・蒲池近江守に命じられ、山城守様をお援け致す。

 我ら三名、存分にお使い下され。」


「左馬助様も来たがっていたのですがな、流石に押し留め申した。」


渡邊上総が口上を述べると、横田大膳も続く。

しかし内容が内容だけに、思わず苦笑が浮かんでしまった。


「若は龍造寺の皆様に格別な思いを抱いているようでしてな。

 よくよく仰せつかっております。」


「返す返すも忝い。ご期待に添えるよう、頑張ります。」


何か特別なことをした記憶はないのだが、今は悪いことではない。

期待を裏切ることが無いように努力するとしよう。


「御三方には、我らにご同行願います。」


「うむ。承知した。」


「承知じゃ。」


「承ってござる!」


さて、人数は揃ったな。

仕切り役の石井刑部に目で合図する。


刑部は軽く頷き、声を張り上げる。


「各々方!我らはこれより境を越えて、肥前国へ立ち戻る。

 憎き土橋らを討ち果たし、愚かにも奴に与した者共に誅罰を与えようぞ!!」


「「「おおーーー!!」」」


「では殿。」


俺は軽く頷き、号令をかけた。


「では、出立!!」


「「「「「おおーーーっっ!!!」」」」」



反攻の狼煙が今、ここに上がる。

天文二十二年(1553年)死去した武将

伊丹総堅、一万田鑑相、内藤国貞、長尾晴景、平手政秀、細川持隆

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