第五十三話 決起前夜
七月は下旬頃まで忙しい為、不定期更新とさせて頂きます。
慶法師丸と久助君の元服の儀は恙無く終わった。
慶法師丸の名乗りは
”龍造寺六郎二郎家信”
久助君は
”龍造寺久右衛門信門”と、それぞれ名乗らせた。
慶法師丸改め、六郎二郎の通称は父上から頂いた。
本当は俺が名乗るべきだったものだが、出家した後に還俗・元服から水ヶ江当主就任で通称を名乗る暇がなかった。
俺に嫡子が居ればまた違ったが、現状いないのだから問題ない。
また、「家」は龍造寺家の由緒正しき通字であり、俺の「信」と組み合わせた立派な名乗りだ。
嫡流であることを示すには、これ以上のものはないだろう。
一方、久助君改め久右衛門の通称は、宝琳院の豪覚和尚の旧名から頂いた。
豪覚和尚には了承を得ている。
使われる当てのない名だったはずが、再び日の目を見ることが出来ると大層喜んでいた。
そして「信」は俺から、「門」は久右衛門の父君より頂戴した。
「二人とも、実に立派だ。」
「「ありがとうございます。」」
うん。
立派な若武者だ。
特に六郎二郎は、年齢的にも初陣を飾っても可笑しくない。
が、ここは堪えてもらおう。
久右衛門と共に、後詰兼留守居役を任じることにする。
「不満もあろうが大切なお役目だ。分かってくれよ?」
「はい。」
「承知しております。」
返事は明朗だが、表情はやはり不満そうだ。
そのことに思わず苦笑が漏れる。
「特に六郎二郎。お前には、もうひとつ大事な役割がある。」
「?」
「俺にもしものことがあった時、家督を継ぐことだ。」
「!!」
「義兄上!」
「戦に絶対はない。分かっているだろう?」
「はい……。」
「………。」
「ははは。そう膨れるな、久右衛門。元服はまだ早かったか?」
「なっ!そ、そんなことありません!」
初々しい姿に頬が緩む。
小さい頃から共に起居しており、随分と立派になったと思ったが、改めて見るとやはりまだ幼い。
俺も、先代様や雅楽頭様らにそう見られていたのだろうか。
そんなことを思い、涙腺が緩みかけるが今はそんな場面ではないと引き締める。
「まあ。ともかくこれで、二人とも大人の仲間入りだ。
まだまだ厳しい日々は続く。しっかり頼むぞ。」
「承知しました。兄上。」
「はい!」
* * *
ひとまず弟たちは大丈夫だろう。
留守居役には念の為、幾人か付ける予定でもあるし。
諸方への根回しも概ね順調だ。
俺たちが決起し肥前に入れば、各地で決起する手筈となっている。
中には、敢えて決起してないように見せかける勢力もあるからな。
油断は禁物だが、神経質になりすぎるのも良くないだろう。
それよりも、母上の心労がな。
母上も承知はしてくれた。
しかしやはりなぁ…。
その点はもう、六郎二郎や奥さんに頼むしかない。
八戸の義兄が大人しく降服してくれれば、それで済むのだが……。
ほぼ間違いなく戦になる。
義兄は土橋の一件以来、神代大和と結んでやりたい放題だ。
孫九郎が保安すべき領域にまで、入り込もうとさえしていた。
現状は高木肥前と孫九郎が掣肘して、事なきを得ているに過ぎない。
少弐屋形も御し切れていない。
それで領民へ善政を敷いているかと言うと、そうでもない。
暴政ではないが、まあ並だな。
我が領地領民を任せるには、その程度の力量では足りてるとは到底言えない。
その上で、我が地を侵した。
ならば、相応の報いを与えねばならない。
例え姉婿であったとしても、だ……。
「兄上様!」
「ん?」
殺伐とした考えに浸っていると、後方から声をかけられる。
聞き覚えのある声に振り替えると、案の定見知った顔があった。
「どうした於辰。新次郎は一緒じゃないのか?」
筑後に来てから顔を合せる機会が増えた妹の於辰だった。
彼女は新次郎に懐くあまり、常に一緒に居る気がする。
「新次郎兄様のことはお慕いしておりますが、常に一緒にいるわけではありません!」
怒られた。
かなり兄弟間も解れてきたな。
良いことだ。
「そうかそうか。それで、どうした。」
「はい。あの、まもなく戦が始まると聞きました……。」
「…ああ。」
「それで、もし兄上様が宜しければ、その……。」
「ん?」
於辰はその出生環境からか、意思表示が苦手な様子を見せている。
新次郎が引き取って以来、随分改善されてはいるようだが。
「あの、於安ちゃんのところに、いても……良いですか!?」
「お?お、おお。」
勢い込んで発する様に少し気圧される。
当家の女である片鱗を見せられた気分になった。
「しかし於与様は、その。まだお身体が……。」
「ああ。大事ない。久万らもついておる故な。」
「はい……。」
「構わぬ。於安を頼むぞ。」
「あ、はい!」
花が咲くような笑顔を見せ、では早速と言い残して凄い早さで駆け去って行った。
思い決めたら一直線。
こういったところは、朧げに覚えのある父上に似ているかも知れない。
妙な所で血の繋がりを確認したところで、踵を返した。
* * *
さて、機は熟した。
今こそ反攻を。
まずは土橋を討ち、次いで少弐を滅ぼし東肥前を平らげよう。
天文二十二年(1553年)生誕武将
尼子勝久、石野氏満、大久保忠隣、衣笠景延、桑山重晴、国分盛重、
佐久間盛政、白石宗実、瀬上景康、新納長住、二本松義継、土方雄久、
一柳直末、平手汎秀、堀秀政、三好長治、村上元吉、毛利輝元
番外:神屋宗湛(前後年間)




