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第四十四話 熱愛発覚

女衆への説明と依頼を終えて退出。

奥さんや於安らと過ごしたい衝動もあったが、時間もないし我慢だ。


暫くすると、久助君と慶法師丸が駆け寄ってきた。


「義兄上!」


「兄上!」


「どうした?」


二人もあと数年すれば元服に相応しい年齢となる。

久助君は以前、元服を見送られた経緯がある。

あれは、筑後にいた折のことだったか。


「暫し、ご一緒して良いですか?」


何となく思い出に浸っていると、そのような申し出があった。


「準備は良いのか?」


「大したものもありませぬし、大丈夫です。」


「そうか。じゃあ共に城内を点検するか。」


「「はい!」」


弟たちの元気な声に頬を緩め、共に城内の見分に繰り出すのだった。


* * *


身の回りの物を再度確かめ、城内を隈なく点検。


決まっていた着地点であるので準備は滞りなく進めていた。

それでも、見直す点は幾らでもあるようだ。


恐らく孫九郎は村中城主にはならないだろう。

なれないと言うべきか。

それはそれで仕方がない。


しかし、土橋加賀や少弐屋形の意を受けた輩が我が物顔で城内を闊歩する様を想像すると…。

やはり気分の良いものではない。


だがこれも計略の一環。

全て、呑み込まなければならない。


武具や兵糧の類の持ち出しは、必要最低限にした。

余り多く連中に渡るのは面白くない為、結構な数を事前に持ち出してはいる。


しかし、全く残さないのも不自然に過ぎる。

よって、少なくない量を残さざるを得ないのだが……。


考えても仕方がないことが、幾らでも浮かんでくる。

佐賀に残る者たちを信じるしかないのは、従前承知のことであったのだが。

どうも、感傷的になっているなぁ。


とりあえず、鉄砲と火薬だけは全て持ち出した。


……さて、そろそろ時間になるかな。


「あ、兄上。あそこに誰かいます。」


と、慶法師丸が一角を指し示して言った。

ん?


あの柱の陰にいるのは新次郎、か?

誰かと向き合っている。


「新次郎兄さまと…?」


こそこそしてるってことは、何かそういった理由があるのだろう。


なので、俺たちもこそこそと近寄り様子を伺うことにした。


* * *


「……新次郎様……。」


「……凛殿……。」


* * *


まさかの密会現場。

しかも新次郎と凛ちゃんだった。


彼らは何やら熱っぽい視線を交わしている。


先ほど感じた感傷的な彼是は吹き飛んでしまった。

それは良いことなのかどうなのか。

しかしこれ。

どうしよう。


「…ッ」


あわあわする弟二人の口を塞ぎ、肩を抑えて落ち着かせる。

こそこそしてるのに物音を立てる訳にはいかない。


いや、凛ちゃんが新次郎に惚れてるのは知っていた。


しかし相思相愛だとは思ってもみなかった。

知らぬ間に、新次郎もしっかり大人の男になっていたらしい。


先代様がこれを見たらどう思うだろうか。

……きっと大いに喜ぶに違いない。


ならば、俺も兄として祝福してやらねばなるまい。


しかしだ。

それは今ではない。


今は全てに蓋をして、見なかったことにせねばならない。


俺は一旦心を落ちつけ、弟たちと音を立てない様に気を付けながらこの場を立ち去るのだった。


* * *


思わぬ出来事があったが、それ以外は順調に動いている。


「皆揃ったか?」


「皆さま、お揃いでございます。」


城内に居る者、皆が共に落ちるわけではない。

孫九郎の元へ降る者、近隣に散って時機を窺う者、敢えて他国へ回遊し見識を高めることを目指す者、様々だ。


共に落ちる者は、家老級では江副安芸に福地長門と鍋島駿河のみ。

納富石見の嫡子・左馬助と小河筑後の弟・左近も同行する。

小河筑後は同行せず、納富石見と同じく下野して策を弄する手筈になっている。


あとは新次郎や鍋島伊豆、それに旗本・側近衆は大半が同行する。

但し、その家族は同行しない者が多い。


女衆は俺の一族がメインとなり、江副安芸と堀江兵部の一家も同行することになり、結局百名近くになった。

それでも考え絞った結果だ。

ギリギリ身軽に動ける人数、だと思う。


落ち行く先は筑後の一木村。

既に赤司党には物資を揃え送り、川副の郷士らに経路の整地をさせている。

また、石井刑部を先触れとして蒲池様の元へ送りもした。


「では、深町殿。」


「承知。先導致します。」


深町入道の先導により小田駿河の陣へ向かう俺たち一行。

小田駿河から全体へ連絡は行ったのだろう。

周囲が動く気配はなかった。


* * *


「山城守殿。一瞥以来であるな。婿殿もとい新次郎殿も息災そうで何よりじゃ。」


開口一番何をほざくかこのオッサン。

見ろ、後ろで凛ちゃんが物凄い形相で睨んでるぞ。


「小田殿。……言いたいことは色々ありますが、省きます。良しなに頼み入ります。」


「承知した。深町の手勢をつけるので、ご案じ召されるな。

 あと、高木殿も警護を買って出たので合流されるが良い。」


「高木、能登守殿ですか?」


「おお、そうじゃ。高木能登殿じゃ。同族の誼で、とな。」


「……承知しました。では、頼みます。」


「うむ。任せよ。」


基本的に頼りになるオッサンなのだがな。

そこはかとない不安があるのは、冒頭の発言のせいだろう。


新次郎をオッサンの婿に据えるつもりは毛頭ない。

サッサと凛ちゃんとくっ付けてしまうべきだろうか。


悩みながらもその場を辞去し、深町入道の手勢と共に南へ向かった。

途中、高木能登が合流してきた。


「山城守殿。」


「ああ、能登守殿。此度は忝い。」


「いや、なに。」


ここで高木能登は声を潜め、囁くように呟いた。


「少弐屋形と土橋加賀の求心力は、思いの外弱い。

 付け入る隙は、いくらでもありそうですぞ。」


中々重要な情報を伝えてくれた。

重要であるがゆえに、態々メッセンジャーを勤めてくれたのか。

ありがたいことだ。


「…能登守殿。承知致した。」


「うむ。では、既定の場所まで警護致そう。」


こうして深町入道の手勢と高木能登の手勢に守られ、俺たちは無事に川副に辿りついた。

ここから船で筑後に入るのだが、さて蒲池様は受け入れてくれるかな?



◆隆信が音信を交わした義隆の三寵(その1)

毛利備中守隆元(29歳)

大内介義隆の姪婿(内藤下野守興盛の娘、義隆養女)

※内藤興盛について

彼は厳島の戦い前に病死しますが、陶隆房の謀反は黙認の立場でした。

その後、彼の一族は陶派と毛利派に分裂し衰退してしまいました。

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