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第四十話 発動

俺の小姓を勤めていた一人の若者が、この度元服を果たした。


彼の父親・戸田藤次左衛門は、馬場の一件で父上と共に討死を遂げた旗本であり忠臣だった。


そして今回、戸田藤次郎兼道と名乗った彼もまた俺の旗本となった。

なかなか感慨深いものがある。


戸田藤次左衛門は武勇に優れた勇士であり、子である戸田藤次郎も武芸に優れた才を見せつつある。

いずれ功名を上げたら、二代併せた恩賞を取らせる予定だ。


その時には嫁も世話してやろう。


明るい未来を夢想すると、心躍るな…。


* * *


さて、年が明けても肥後は落ち着いていない。

すぐに片付くと思っていたが、そうもいかなかった。


一方で、筑後は既に安定している。

赤司党に聞いたところ、少弐の動きがまた活発になっているという。


筑前の杉弾正や原田弾正とは良い関係を続けているが、豊前は少しざわついている模様。

少し前に豊前の城井や長野に書簡を送ったものの、反応は芳しくなかった。


曲がりなりにも大内様に属する者同士であるにも関わらずだ。

些か反応が鈍すぎる。

ひょっとすると、既に陶尾張こと陶隆房の手が伸びているのかも知れない。


長門や周防でも、多かれ少なかれその気配がある。

そろそろ、なのかも知れない。


であるならば、周防にいる七兵衛や右衛門尉はどうしようか。


そうだな。

七兵衛は一時帰国させる伺いを出して戻って来させよう。


しかし右衛門尉は俺の従兄弟だ。

下手に肥前に戻すと危険かも知れない。


暫し留まって貰うか。

有事の際は、杉か毛利の一族を頼れるよう手配して置こう。


さて、国外ばかりを見てはは居られない。

少弐が動き出せば、江上らも動き出すだろう。


最近、西島の横岳讃岐の動きが少し怪しい。

要注意だ。


これらの情勢は全て、計略に関わる面子には知らせてある。

加えて、高木肥前と前田伊予にもそれとなく匂わせている。

また、日向守を高木兄弟との繋がりを所以として、彼らの元へ派遣している。


前田伊予は杵島にあり、高来方面を見てもらっている。

有馬や多久らが動き出さないとも限らない。


小城の千葉介殿は東千葉に注力して貰い、徳島土佐と鴨打陸奥は状況に応じて動いてもらう。


本庄の鍋島には八戸下野を見張って貰っている。

義兄だが、信用ならないものは仕方がない。


家中の造反勢力については納富石見と伊賀守に。

不穏な接触に関しては播磨守と越前守に任せている。


各方面の準備も整ってきている。

俺と孫九郎も、そろそろ覚悟を決めた方が良さそうだ。


* * *


少弐屋形が動いた。


その知らせが、筑後の赤司党より齎された。


ついにきたか。

急ぎ家臣らを招集し、評定を催す。


知らせによると、少弐屋形は筑後において大友の力を借りて兵を集めているという。

当然、向かう先は肥前であろう。


現状で少弐を支援するのは横岳讃岐、そして江上伊豆は確実視されている。

他は、状況次第といったところか。


奴等が実際に肥前に入り込む前に、諸方へ手を配っておかなければならない。

まず、大内様及び筑前守護代へ通報しよう。


少弐を迎えるのは横岳讃岐と江上伊豆、このどちらかである可能性が高い。


よって、三根郡の横岳には備後守に、神埼郡の江上には隠岐守にそれぞれ対応させよう。

彼らは当初、検地奉行という職にあったが、今はそのまま郡奉行を任せている。


少弐が筑後で集めた兵には、赤司党の息が掛った者もいる。

追跡は容易だ。

しかし油断はすまい。


* * *


「少弐が動いた以上、東千葉も動くだろう。」


この評定は、普段よくやる秘密会議ではなく通常の評定だ。

事を起こさせる一番の標的である、土橋加賀も何食わぬ顔で出席している。


それを踏まえて、計略の発動とすることを決めていた。


* * *


俺たちが描いた概略はこうだ。


少弐らの侵攻に対し、三根郡と神埼郡に軍勢を送る。

小城郡と杵島郡の友好勢力には、東千葉と南肥前の有馬らを警戒させる。


俺と新次郎は村中にあり、各地の後詰とする。

孫九郎は越前守と共に水ヶ江に詰めて、主たる政務を行う。


そのような状態で隙を見せた俺に対し、連中が一斉に蜂起する。

これを唆すのは小田駿河。

賛同するのが高木能登。


小田駿河は、その祖父である先代が少弐と昵懇であり、龍造寺とは永く疎遠であった。

その点を鑑み、かなり初期から土橋の一味に誘われていたようなのだ。

これを利用する。


小田駿河に誘導され、蜂起した連中は俺の村中を囲む。

軍勢の大部分は三根郡と神埼郡、そして小城郡へ出払っており籠城するしかない。


小田駿河らは各地から軍勢が戻って来る前に片付けるべきと提唱し、俺を佐賀から追い出すことで落着させる。

孫九郎らは事前の取り決め通り、土橋らの要求を受け入れ、当主に収まる。


こうなると、各地から軍勢が戻って来たとしても時既に遅し。

孫九郎の旗下に集うか、逼塞するか落ち行くしかない。


城を出た俺は、赤司党らの案内で筑後に落ちる。

そこで、蒲池様の庇護を求める予定だ。

受け入れられなかった場合は、船で小城芦刈に向かう。


概ねこのような流れに持っていく。


大内様の動向と、肥後菊池と大友の動きが未定なのが些か不安ではあるが、致し方ない。


時期はもう少し前後するだろうが、城から落ちて筑後への道中など。

不安のないよう整備を続けていた。

そろそろ仕上げの時だ。


* * *


少弐が動いた以上、このうえ大内様の動向に構って居られなくなった。


七兵衛は既に帰国の途に付いている。

右衛門尉はまだ周防にいるが、あとは当人の才覚と事前準備の結果を待つしかない。


一世一代の我が計略、いよいよ発動の時だ。



天文二十年(1551年)生誕武将

青木一重、下間仲孝、穂井田元清、武藤義氏

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