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第三十五話 唐突

四月。

肥後にて騒乱が起こっているらしい。


大友の御家騒動を聞いた菊池左京だが、蟄居していた筑後から脱出して隈本城に入ったようだ。

それが中旬頃で、菊池譜代の田島伊勢と鹿子木三河らが従っているらしい。


無謀だな。


既に豊後大友は新当主の下に纏まっている。

入田一族はまだ捕まっていないが、遠からず終焉を迎えるだろう。


大友の力は強大だ。

肥後の乱も、すぐに征討されて終わるだろう。


そう思っていたのだが、予想外なことが起こった。

筑後でも騒乱が発生したのだ。


どうやら、菊池に近い南筑後の諸将が兵を挙げたらしい。

西牟田弥次郎とその一族である田河中務・民部兄弟。

そして小山山城に三池上総、溝口丹後と安武安房が大友に反抗の気勢を挙げている。


これに対し、大友五郎改め左衛門督は筑後の諸将に鎮圧を命じた。


ここで、少しおかしなことがあった。


挙兵した一味に安武安房がいるのだが、大友から鎮圧を命じられた中にも安武安房がいたのだ。

どうも、安武安房は早々に降参してしまったようだ。


これでは挙兵した一味の先は見えたも同然だ。

後はどのくらい続くのか、ということだが……。


* * *


御家騒動の繋がりでもう一件。


松浦郡に成松という家がある。

以前、新五郎兄貴の嫁さんを迎えようとしていた家なのだが。


そこでも御家騒動が発生し、敗れた成松兵庫が一族郎党を連れて佐賀にやってきた。

新五郎兄貴の嫁さん候補の父親にあたる人物だ。


そして、その縁を以て仕官したいと言ってきた。


「私には娘しかおりません。

 いずれ、家中のどなたかを婿養子としてお迎え致したく…。」


面会した時にそう言った成松兵庫は、年齢以上に老けて見えた。


松浦から佐賀まで結構離れている。

それでもここを目指したということは、他に行き場がなかったのだろう。

相当苦労したことが見て取れる。


元より助けを求めてくる者を拒むつもりはない。

それが、新五郎兄貴の縁者と言える者であった。

ただそれだけのこと。


しかし、どうにも俺は兄貴関係となると弱い。

何とか力になってやりたいと思ってしまった。


為政者として、贔屓は良くない。

しかし情も大切だ。

まあ、適切な範囲であれば良いのだろう。


「まずは仕官して居場所を作って、婿の話はそれからということで。」


「承知しました。御厚情、感謝致します。」


実際、成松兵庫の娘はまだ幼い。

婿養子と言っても、まだ先の話になるだろう。

それまで、この新天地で頑張って貰いたい。


* * *


唐突に、大内様の外様縁戚に近付いておこうと思い立った。


筑前の原田弾正と会ってみたいと思っていたが、果たせなかった。

これが発端。


会えないならば、せめて書状を送って繋ぎを取っておこうと思った所でふと気付いた。

他の気になっている方々にも書状を送ってみよう、と。

これが結論。


基本的に伝手の構築は、周防に派遣している七兵衛と右衛門尉に。

あとは、全体の外交を任せている雅楽頭様と福地長門が行っている。


そこに直接俺の肝入りでやってみても良いのではないか、と思ったのだ。


相手は、筑前の原田弾正は当然として、安芸の毛利備中もだ。

彼らは大内様の娘婿だ。

娘と言っても養女だが、十分厚遇されていると見て間違いない。


あとは大内様の姉婿である石見の吉見大蔵かな。

こちらは完全に親族と言える。


この三名に的を絞り、関係を構築していく。

思い付くのが些か遅かった気もするが、仕方がないな。


今後の為に必要なことだ。

遅蒔きながらも気付けたのだから、まあ良かったのだろう。


* * *


更に突然だが、最近奥さんがとても可愛い。


いや、和解したあの日の夜も可愛いと思っていた。

そしてその後、どんどん可愛さが増しているような気がしている。


これはあれか。

俺、奥さんに惚れたのか。


ある時、偶々時間が出来たので於安の戯れに付き合っていたのだ。

そうしたら、何やら奥さんの機嫌が宜しくない。


話しかけても、言葉少なに反応も悪く、視線も外された。


また何か心の傷が開いたのかと戦々恐々とした俺は、夜にかけて奥さんを構い倒した。

気付いたら奥さんの機嫌は直っていた。

その日は安心して一緒に眠り、終わったのだが。


その後も於安と長く遊んだ時、姉上の話をした時、凛ちゃんの話題が出た時などに奥さんの機嫌は降下していた。


奥さん、ひょっとして嫉妬して拗ねている?


そのことに気付いた時、俺は……。


* * *


「あの、如何しました?」


目の前に座る小柄な美少女が、おずおずと上目遣いでこちらを見上げてくる。

勿論奥さんである。


何も言わずに胸元に引き寄せる。


「あっ……。」


温かく柔らかな感触が腕と胸から伝わり、仄かに香る匂いも、その声色も俺の中の何かを刺激して来る。

軽く力を入れて抱きしめると、抵抗せずに寄りかかって来るのが分かる。


結婚し、和解し、初夜を迎えた時に感じた胸の動悸。

それは、俺の初恋だった。


初恋の相手は奥さんである。


「旦那様…?」


「俺にとっては、於与が常に一番だから。」


「えっ!?」


突然のことに目を丸くして驚く奥さん。

その全てが愛おしい。


「……はい。わたくしも、旦那様をお慕い申し上げております。」


以前と異なり、俺の顔は赤くなっていないだろう。

真顔で恥ずかしいことを言えるようになった、成長したと言って良いのかどうなのか。


それはともかく。


何も取り繕う必要はないと思い至ったのだ。


俺の初恋は結婚後、奥さんに対してだった。

そして今も続いている。

これは、とても素晴らしいことなのではないだろうか。


俺は奥さんに恋をして、奥さんも俺を慕ってくれている。


守るべきもの、その根幹となるもの。

立てた誓いを再度確認し、宜しく致すのだった。


唐突に何かが舞い降り、そして飛び立った。しかし私は謝らない。

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