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第三十三話 二階崩れ

同年二月。

俺の元に、九州全土を大いに揺るがす、その発端となるある知らせが届いた。


その知らせとは、豊後の太守である大友が当主・修理大夫義鑑が横死したというものだ。


届けてくれたのは筑後の赤司党。

おじい様が筑後を頼った時からの縁で、様々な情報を提供してくれている。


第一報はその赤司党からで、その後も続々と他の経路から情報が届いている。

諸事を鑑みても、どうやら大友当主の死亡は間違いないことのようだ。


人によっては驚天動地の知らせとなるだろう。


* * *


早速、例の計略に関わる一族老臣たちを招集し評定を催した。

外の三名には書状にて知らせることにする。


「議題は、言わずと知れた大友当主・修理大夫の横死についてだ。」


「これは殿の計略にも影響しますかな?」


小河筑後の言葉に多くの参加者たちが頷いている。


確かに、俺が構築した謀は大友が大きく関わっている。

だから大友が揺れるようならば、脅威が減る可能性がある。

そのように考えるのは間違いではないのだが。


「だが、影響は少ないと思う。」


「何故ですか?」


あっさり否定したことに対する新次郎の疑問だが、多くの者の心を代弁したものでもあろう。


「恐らく、豊後大友の動揺は一月程度で収まる。」


「仮にも当主の横死、しかも重臣の謀反ですぞ?」


普通に考えれば、当主が重臣の謀反で殺されれば家の動揺は計り知れない。

織田家の本能寺の変など、最たるものだろう。


しかし俺は、この事件は謀略に近いものではないかと思うのだ。


「修理大夫は横死。

 当事者たる謀反人たちも、その場で斬り死に。

 さて、大友の嫡子はどこにいったのか?」


「それは……。」


「聞けば、修理大夫と嫡子の間は随分と冷え込んでいたようではないか。」


大友当主には、三人の男子がいた。

嫡子・五郎、二男・八郎、そして三男・藤妙。


「修理大夫は嫡子を疎み、三男を偏愛していたと聞く。」


そして嫡子・五郎に近い家臣の粛清を行い、人心は離れつつあったとも。


「遂には嫡子を排し、二男を越えて三男に家を継がせようと企んだ。」


血迷ったとしか言いようがない。

因みに、嫡子と二男は先妻の子であり、三男は後妻の子である。


「それを老臣たちに諮ったところ、反対されたそうだ。」


四人の老臣・斎藤播磨、小佐井大和、津久見美作、田口玄蕃に諮り反対された。

思い通りに行かなかった大友修理は恨みに思い、寵臣の入田丹後に指示して斎藤播磨と小佐井大和を謀殺してしまった。


「そして、斎藤と小佐井が殺されたことを知った津久見と田口により、修理大夫は殺された。」


知り得た情報と、俺の私見を皆黙って聞いている。


「津久見はその場で自害。田口は城内で家臣に討たれた。」


一瞬にして大友当主、その妻と三男。

そして家の重臣四人が消えてしまった。


「結果、誰が得をしている?」


「大友の嫡子、ですか……。」


呆然とした様子で伊賀守が呟く。


そう、偶然にしては出来過ぎではないだろうか。

大友五郎は当事者に近い存在であるにも関わらず、事件のどこにも出てこない。


「それに、つい先ほど届いた続報なのだが……。」


津久見美作と田口玄蕃の一族は、謀反人として大友五郎の指図により攻められたらしい。


大友五郎は謀反人一族を討伐し、足下を固める。

さらに老臣四人のうち、二人の所領は没収出来る。


修理大夫の一味は、そもそも仰ぐべき頭が既に無い。

入田丹後は一族を連れて逃亡したらしいが、逃げる先などないだろう。


「大友五郎は労せず実を得た、と言っても過言ではあるまい。」


まあ実際は、真実がどうなのかはどうでも良い。

そのように論説を構築し、皆が納得したならばそれで終わりだ。


どうも最近、悪企みばかりしている気がするなぁ。


* * *


「つまり、今回の事件は大友の嫡子が裏で操ったもの。

 全ては大友五郎の掌の上の出来事であり、混乱は少なく収まる。」


小河筑後が纏めるように呟く。


「そう。だから一月もあれば落ち着くと考えるのだが、どうか?」


ざわめく一座を見回す。

特に反対意見はなさそうだ。


「殿の御意見、承りました。

 ならば、かの策は万事恙無く進めることと致しましょう。」


そして、納富石見が総括した。

鍋島駿河や越前守らも頷いている。


* * *


「まあそうは言っても、影響が何もないことはないだろうな。」


過度に修正する必要はないが、様々な勢力への影響は大きく出るだろう。

筑後は安定していると思うが、肥後とか特に。


「そうですな。

 筑前の守護代様とも連絡を密にせねばなりません。」


福地長門が言う。

ああ、そう言えば。


「ところで、ちょっと相談があるのだが。」


「ふむ。次はどのような謀を?」


納富石見爺さんは俺をどんな目で見ているというのか。

爺さんを無視して福地長門に向き直る。


「はて、なんでしょうか?」


「いやな。ちょっと周防に行ってみたいと思うのだが…。」


「ダメです。」


横合いから爺さんが素早く却下する。

いや、福地長門に聞いているのだが。


「殿。それは些か難しいと存じます。」


頼みの福地長門からもノーを突き付けられた。

いやまあ、流石に無理だろうとは思っていたけど。


「では、筑前はどうだろうか?」


「大宰府ですか?」


そう、筑前ならば隣である。

守護代様に会ったことはあるが、大宰府に行ったことはない。


あと今は言わないけれど、筑前怡土郡の原田弾正にも会ってみたい。

同じ大内様から目を掛けられた仲間で、比較的近い所にいる人だ。


だが……。


「それも、難しいと存じます。」


「左様。先ほど殿が仰られたように、大友の揺らぎが少ないならば尚更。」


ここに来て、まさか自分の論説が己の足枷になるとは。


「ダメか……。」


「大人しく仕事をして下さい。」


爺さんは俺に容赦がない。

今に始まったことではないのだが、うーむ…。


仕方がないので今は大人しくしよう。


評定という名の説明会。

・二階崩れの変

居館の二階に寝ていた修理大夫らが殺された。

そこからその名が付いた説が有力らしいです。

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