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第二十九話 計略

まもなく年の瀬を迎えようとしている。


そのような頃合いであるが、俺は活発に動いていた。

明確に守るべきものを抱えたと認識した時、迷いは無くなった。

必ず守りきると決めたのだ。


* * *


「皆、忙しい所にすまない。」


確実に信頼出来る者を呼び出し、密議を講じる。

周囲は厳重に人払いをし、旗本数名に周囲を警戒させてもいる。


参加者は執権の納富石見と小河筑後。

家老の伊賀守に播磨守と福地長門。

一族は新次郎に孫九郎、あと越前守。

他に堀江兵部と鍋島左近・駿河の兄弟、そして徳島土佐と鴨打陸奥を集めた。


「また、呼びかけに応じて頂き感謝致します。」


更に他家からも、千葉介殿・小田駿河と高木能登を招いた。


この一年、各方面と面談・調整したうえでのことだ。

三名は信頼に値すると判断した。

まあ小田駿河については、一連の根源とも言えるから当然ではあるが。


「では始めよう。」


* * *


まずはおさらいから。


先代様の跡を継いだ俺であるが、それに不満を持つ者がいる。

大内様を後ろ盾とするのは先代様からの既定路線であるが、これにも不満を持つ者がいる。

そして、少弐という龍造寺から見て不倶戴天の敵がいる。


これらを一掃する。

そして、そのために炙り出しを行う。


奴らはそれぞれ不満の形が異なるため、通常であれば手を結ぶことはない。

しかし、敵の敵は味方とも言う。

場合によっては手を結び、大きな勢力となることも珍しいことではない。


当家にとっての痛恨事である、馬場の一件もそうだった。


そして特に厄介なところは、普段手を取り合わないような勢力同士が手を結ぶことであり、発露するのが唐突であることが多いことである。


その結果、どうしても対応は後手に回ってしまいタイムオーバーに陥りやすい。

対策も各個撃破くらいしか思いつかない。


しかし、事前に把握していたらどうだろうか。


いくらでも対策を取ることが出来るだろう。

事を起こさせない、未遂で終わらせることも可能となる。


そこから更に、もう一歩踏み込んで考えみよう。


敢えて事を起こさせる。

それも、こちらにとって都合の良いタイミングで。


するとどうなるか。

敵対勢力を、一網打尽にすることも出来るのではないだろうか。


標的は家中の不穏分子。

それに筑後に逼塞中の少弐屋形。

確実に少弐勢力となる東千葉、それに江上や神代も当て嵌まる。


つまり、敵勢力をそれと分からないように操作して一掃する。

そういった、極めて悪辣な計略を講じた訳だ。


通常このような大それた計略は、敢え無く失敗に終わるだろう。

しかし、今回は成功を見込める要件が揃っているのだ。


簡単に言うと大内様の力を背景とした俺と、大友の偏諱を冠した孫九郎がその軸となる。


実際、孫九郎には既に接触があった。

主犯の土橋加賀も、周囲に対して匂わせる行動に出ていることが判明している。


筑後の少弐屋形は帰国の準備を始めているし、東千葉や江上はそれに呼応する気配がある。

神代は今のところ動きがないが、声が掛っていることは間違いない。


敵勢が掲げる目標は、馬場の一件と異なり当家そのものを害するものではない。

俺を排し、孫九郎を立てるというものだ。


孫九郎は皆も知っての通り、若いながらも優秀であるし血統上も何ら問題ない。


大友と結び立つ当主として、仰ぐに不足はない。

そう考えて近づく者もいるだろう。

またその若さゆえに侮り、傀儡とするにもってこいだと判断して近づく者もいるだろう。


…少弐と大友が並び立つのは、現状不可能だと思うのだが。

所詮連中は一時のみの関係となるだろうし、そう考えているのだろう。

敵の敵は味方と言っても、事が終われば敵と成り得る意味も含んでいるものだし。


まあそれは良いか。


* * *


「孫九郎には越前守と播磨守を付ける。両名は孫九郎を補佐してくれ。」


「承知した。」


「御意。」


いずれ事を起させた際、孫九郎の周囲に悪意のみが在るのは避けなければばならない。

奥さんにも釘を刺されたが、孫九郎はまだ十三でしかないのだ。


越前守は、孫九郎と異なり村中が長い上に俺の右腕的な存在でもある。

実務の補佐としては打って付けだ。


「また、播磨守は備後守の監視も引き続き頼む。」


備後守は孫九郎と共に、以前おじい様の施策にて大友との接点作りに使われた一族の者である。

当人は奉行として真っ当に働いているが、周囲がどう見るかには注意が必要だ。

播磨守にとっては甥にあたるので、以前から監視を頼んでいた。


「承知しております。」


家中についてはこのくらいかな。


* * *


「千葉介殿には、土佐や陸奥らと連携して東千葉を抑えて頂きたい。」


「うむ。望むところよ!」


「承知!」


「雑多な者共も抑えなければなりませんね。」


この策が成功すれば、東千葉にも鉄槌を食らわすことが出来る。


その為か、西千葉サイドの意気は非常に高い。

千葉介殿のハイテンションはいつも通りだが、徳島土佐も意気軒昂だ。

鴨打陸奥は冷静さを保っているが、昂る気持ちを抑えようとしているかのようにも見える。


まだ明言してはいないが、一連の流れで少弐と東千葉は滅ぼすつもりにしている。

そのために東千葉の家臣団への切り崩し工作も進めている。


この工作はに、先日元服して”千葉左衛門大夫胤安”と名乗った彦法師丸に任せた。


結局千葉介殿は、彦法師丸を嫡子として扱うことにしたようだ。

ああ、彦法師丸じゃなくて左衛門大夫か。

略して左門。


千葉左門。

いやはや、皆どんどん立派になっていくなぁ。



天文十八年(1549年)主要武将年齢表

毛利元就:52才、隆元:27才(親子)

大内義隆:42才、陶隆房:29才

大友義鑑:47才、義鎮:20才(親子)

島津貴久:36才、義久:17才(親子)

武田信虎:55才、晴信:29才(親子)

長尾晴景:40才、景虎:20才(兄弟)

長宗我部国親:41才、元親:11才(親子)

織田信長:16才、松平竹千代8才

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