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第二十八話 誓い

さてお待ちかね、奥さんと二人きりの夜である。


いや、今後のことを考えると喜んでばかりはいられない。

真面目な話もしなければならない。

小河筑後の説得がどういったものだったのかも、知りたいような知りたくないような。


それでは、気合いを入れて戸を開けよう。


* * *


「お疲れ様です、旦那様。」


「ああ。於与も、今日は色々あって疲れただろう。」


布団を挟んで二人正座で向き合っている。

何故俺まで正座しているかと言うと、テンパったからだ。

それ以外に理由はない。


奥さんもちょっと不思議そうにしたものの、特に何も言わずに迎えてくれた。


「まぁ諸々は昼間話した通りだな。あとは追々付いてくるだろう。」


「そうですね。」


何を話せば良いか分からない。

上手く頭が回らない。

そして何故か緊張してきた。


「旦那様?」


「お、おう?」


どう見ても挙動不審な俺。

小首を傾げて不思議がる奥さんの様子も可愛いなぁ。


そんな自然な様子の奥さんを見ていると、落ち着いてきた。


自然な様子を見せてくれたことが、嬉しくて堪らない。

決して奥さんを愛でることで落ち着いた訳ではない。


「少し、落ち着きませんね…。」


ジッと見詰めていると、頬を染めて微かに俯く奥さん。

これは堪らん。


「於与。」


「はい。…あっ」


そっと胸に抱き寄た。


もう、真面目な話とか後日で良いよね。


* * *


優しく致しました。


* * *


朝起きると、隣には奥さんが……いない。


「あ、旦那様。起きられましたか?」


まさか全て夢だったのでは、と青褪めかけたところで奥さんの声が。

反対側からだ。

急いで振り返ると、内掛けを羽織った奥さんがいた。


「ああ、おはよう。於与。」


「おはようございます、旦那様。」


俺は幸せを噛締めた。

そして、これを逃すまいと決意する。


………。


よし、ふやけるのはここまでだ。


「於与。」


「はい。」


真面目な空気に気付いたのか、奥さんの背筋が伸びる。


「当家は未だ完全に落ち着いてはいない。」


そう言うと奥さんの表情に影が差す。

図らずも、その一端を担っていたという自覚はあるようだ。


多少慰めたところで事実は変わらない。

それでも何も言わないことなど出来なかった。


「於与。気にせずとも良い。」


「ですがっ…。…いえ、はい。」


「続けるぞ?」


奥さんが頷いたことを確認して続ける。

伝えなければならないことがあるのだから。


「そして、遠からず何か事が起こるだろう。」


これは確実だ。

大内様が斃れることは、まだ誰も知らないことだ。

それでも、大友と結んだ一派は何か仕掛けてくる可能性が高い。


「その時、俺と孫九郎は別れることになる。」


「孫九郎と、ですか?」


「ああ。表向きは、だがな。」


「それはどういう…?」


まあこれだけじゃ何が何やら解らないよな。

そこで、昨日孫九郎たちに話したことを聞かせた。


「そう、ですか…。」


「ああ。無論、危険がない訳ではない。

 於与にとっては実の弟だから気になるかm」


「旦那様!」


「ハイ。」


暫く俯いたまま話を聞いていただった奥さんだが、孫九郎に危険が及ぶ可能性を示唆するとピクリと身体を強張らせた。

だから慰めではないが、フォローをしておこうと話を続けようとしたのだが制された。


「孫九郎もまた一人の武士。

 多少の危険は承知のことと思います。

 ですから、旦那様もそこまでお気になさらないで結構です。」


そう言って手を重ねて来た。

ちょっと冷たい。


「ですがっ!」


「ッ!」


重ねられた手の甲を、結構な力で抓られた。


「孫九郎はしっかりしていますが、まだ十と三!

 あれの姉として、旦那様には釘を刺しておかねばなりません。」


「お、おお。」


強い眼差しを向けてくる奥さん。


いや、言われてみれば確かにそうだ。

孫九郎はその気質と優秀さから、実年齢以上に見てしまうことが多い。

当人もそれを是としているように見受けられる。


「わたくしとて武士の妻。

 必要であることは、十分承知しております。

 しかし皆が皆、それを当然のことと受け止められるのは困ります。」


だからせめて、身内に一人くらいは否と言う者が必要か。

……ああ、本来は俺の役目だよな。


「そうだな。……於与の言う通りだ。」


「はい……。」


敢えて強く言ってくれたお陰で心に刻むことが出来た。

奥さんに感謝しなければ。


「すまなかった。そして、ありがとう。」


手の甲を見ると赤くなっていた。


「あ…。」


それを見た奥さんが縮こまる。

でも謝らない。

それで良い。


これでまたひとつ、俺は強くなれたと思う。


* * *


と、部屋の外からパタパタと足音が聞こえてきた。


「ははうえ~。ちちうえ~。」


どうやら於安が起きてきたようだ。

奥さんと顔を合わせて笑みを交わし、於安むすめを迎えることにした。


遠慮なく物を言うことが出来て、しかも暖かい。

家族とは良いものだ。


これを必ず守り通すと、今ここで誓いを立てよう。



昨夜はお楽しみでしたね。

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