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第二十話 理解者

お宅訪問第二回は、お隣神埼郡蓮池城主・小田駿河と決定した。


俺としては直接あちらの居城に乗り込んでも良かったのだが、老臣や先方の遠慮も有り、中間地点にある江上館で会見することとなった。

江上館は当家の所管であるので、小田家側が配慮したとも言える。

なお、少弐家臣の江上は筑後の江上であるのでこの館とは関係ない。


出席したのは俺と新次郎、そして家老の江副安芸。

あとは側近というか旗本の石井党も当然のように控えている。


先方は当主の小田駿河に家老の深町や江口らが連なっている。


「初めまして。龍造寺山城守です。」


「小田駿河守じゃ。御会い出来て嬉しく思う。」


今回は完全に初顔合わせとして、口火を切った。


「そして、弟の新次郎です。」


「はじめまして。龍造寺新次郎と申します。」


「おお、お主があの宗筑後を討ち取った若武者か。会えて嬉しいぞ!」


新次郎の武名はあちこちに広がっているらしい。

まあ戦果を喧伝するのは常套手段だし、そうなるか。

そして小田駿河のテンションが一気に上がった。


「嫁はまだおらぬであろう?我が娘とかどうじゃな?」


「え。あ、はい。いえ、その…。」


おいオッサン。

一気に上がったテンションのまま新次郎に畳み掛けるオッサンもとい小田駿河。


「殿、その辺で…。」


「む?おお、すまんの。つい熱が入ってしまった。」


見かねた深町が小田駿河を窘める。

なんだ、存外愉快なオッサンだな。


しかし新次郎もまだまだだな。

予想外なことを畳み掛けられて狼狽している。

俺?

納富石見爺さん辺りと常にやり取りしてればこれくらい日常茶飯事よ。

…ちゃんと対応出来ているかはともかくな。


しかし場の緊張は良い塩梅に解れた様だ。


「では駿河守殿。会談を始めましょう。」


「ふむ。そうじゃな。新次郎殿、詳しくはまた後程な。」


食いつき過ぎだと思う。


* * *


軽く政治や情勢の話をしてきたが、悪くない感触だ。

むしろ好印象?

そんな感じがする。

特に、内政というか農政について色々質問を受けた。


内政に俺と、武勇の新次郎。

良い組み合わせだとも褒められた。

場の雰囲気も良い感じに温まってきた。

さて、そろそろ切り込んでみるか…。


「時に駿河守殿。少弐屋形についてはどうお考えで?」


「む…。」


ストレートに踏み込み過ぎたか?

しかしせっかくの機会だ。

上手く生かしたい。


「我々龍造寺は、最早少弐屋形とは相容れません。」


「ふむ。馬場の一件か。」


「はい。馬場の企てに諸将が参加したのは、少弐屋形の指図があったためです。」


「………。」


「そして、我らは大内様の力を借りて筑後へ追放しました。」


「だから、もう関係の修復は不可能であると?」


「そうです。」


おじい様の遺言もあるしな。

少なくとも、今代の少弐屋形を許すことは有り得ない。


「…そうよな。少弐屋形はもうダメじゃろうて。」


おっと、存外あっさり溢したな。

先日の少弐追討で静観を貫いたから、目はあると思っていたが。


と、ここで小田駿河は居住まいを正し俺を真直ぐ見た。


「ワシはお主に期待しておる。内向きで力を振うお主にこそ、な。」


「私にこそ、ですか。」


「左様。」


ここで少し表情を和らげ


「昨今は勢力を拡大すべく、小競り合いや戦が絶え間ない。

 今は乱世、これは仕方がない。

 だが、人は飯を食わねば生きられぬ。

 領土を拡大しようと、戦が続けば田畑は荒れ果てるのみ。

 勢力を広げることにしか目が行っておらぬ者がほとんどである中、お主は違った。」


工夫を凝らし、生産力を高めるために動いていたことが知られていたようだ。

代官として神埼郡や三根郡の旧少弐領を差配する際、出来るところでは都度新たな方式を試験し導入していっていた。


「勢力拡大が悪いとは言わぬ。それも一つのやり方故な。

 しかし、両立できるお主らならば、もっと良い方策になるのではないか。

 そう、思うようになったのじゃ。

 馬場らのやり方と、少弐屋形の節操の無さに愛想が尽きかけたというのもあるが。」


おおう、最大限の賛辞じゃなかろうか。


「しかし注意せよ。闇は常に蠢くもの。既に陰謀は進んでいる。」


「っ、殿!!」


突然大きな爆弾を落とした小田駿河に対し、あちらの家老である江口が慌てたように声を上げた。

小田駿河はそれを手で制し、穏やかに続けた。


「ワシが今言えるのはここまでじゃ。足元もちゃんと見るが良いぞ。」


「御忠言、感謝致します。」


具体的にどういった陰謀があるのかは分からなかったが、あるのが分かっただけでも僥倖だ。

先代様が亡くなり、ちょっと変わった相続をした俺に対して不満とか、そういったものが出るのは十分有り得ることだ。

これは帰ってから、色々確認しなければならないな。


「それでじゃ、新次郎殿をワシの婿にするという件についてじゃが…。」


おいオッサン。

前後の温度差が大きすぎて新次郎がまた狼狽えている。


その後、お互いの老臣たちがオッサンもとい小田駿河を宥め、いずれ両家に橋渡しが出来ると良いね。

というふわっとした結論に落ち着いた。


しかし陰謀ね……。

いやそれよりも、それを知らせてくれる程に好意を寄せてくれたことに感謝せねば。

小田とは本気で縁付ける必要性が出てきたなぁ。


あちらの嫡男へうちの一族から誰か嫁がせるか…。

しかし嫡男だから適当な娘じゃいけないし。


於安?

娘はやらん。


うむ、考えることが増えたな。

帰ったら早速評定だ。



<天文十八年>

小田駿河守政光:40歳

龍造寺山城守隆信:20歳

龍造寺新次郎周光:18歳

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