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第十二話 少弐追放

さて、怨敵・少弐追討のために出陣したのだが。


この東肥前においては、少弐を主君として推戴する豪族が多い。


これは旧来少弐の勢力圏内であった筑前・筑後に隣接し、その一族が土着した故とも言われる。

少弐一族には横岳、馬場、朝日、筑紫、下村、平井、対馬、筑後、出雲、肥後、能登、吉田の各氏がおり、更に少弐家臣筋として宗、本告、姉川、江上、神代、綾部、小田、多久、高木、執行らがいる。


無論これら全てが、未だに少弐を戴いているという訳ではない。

当家も少弐家臣筋であるが既に敵性であることは間違いないし、当家に仕えて久しい鍋島も少弐との関係が深い時代もあったのだ。


未だに威を張っているのは、横岳・朝日・筑紫・平井・出雲の一族と、江上・神代・小田・多久・高木の家臣筋であろうか。

そして、少弐に従順なのは横岳・朝日・出雲に、江上・神代くらいだ。


今回龍造寺が少弐追討の兵を起こすに辺り、少弐屋形は横岳や江上らの兵を糾合し迎撃の構えをとった。

平井と多久は有馬の侵攻に対処する方が大事として不在。

小田や高木は今のところどちらに付くでもなく、静観の構えだ。

神代と八戸も静観の姿勢を崩していない。

八戸はこちらに付く姿勢を見せて欲しかったのだが…。


大内様と結んだ豊前守様は、その重臣で筑前守護代を務めている杉弾正殿の元へ雅楽頭様と福地長門を派遣し、援軍を得ることが出来た。

さらに杉弾正殿は少弐一族でもある筑紫家との仲介してくれ、こちら側に引き入れてくれた。

これは大きい。

なんせ筑前方面から窺われ、その対処のために神代などを釘付けにすることが出来るからだ。

神代大和は戦上手らしいからな、いないならそれに越したことはない。


また彦法師丸が養子に入った西千葉も同調し、円城寺や平田などの家臣を援軍として派遣してくれた。

さらに少弐屋形に呼応して蠢動し出した東千葉を抑えるなど、こちらへの協力姿勢を明確にしている。

お返しに、徳島や鴨打などを東千葉への抑えとして送っている。


村中を発した豊前守様率いる龍造寺本体は神埼郡に侵攻。

左近将監や越前守などを先遣部隊として、少弐屋形が拠る居城・勢福寺城へ攻め上った。


俺も別働隊として三根郡に侵攻し、待ち構える少弐方の軍勢を対峙した。

この時新次郎を先遣部隊として一手を付けて東進させたのだが、三根郡の主将が少弐屋形の老臣・宗筑後が率いる部隊であり、これと遭遇。

交戦した結果、初陣とも思えぬ活躍を見せた新次郎と、それに奮い立った軍勢により宗筑後を討ち取るという大手柄を上げた。

そして、少弐の老臣を討たれた敵の士気は下がってしまい、各地で敗戦を重ねて行った。


その結果、俺たちは三根郡を平らげ神埼郡に入り、勢福寺城を囲む豊前守様と合流することに成功する。


* * *


「新次郎。初陣ながら誠に天晴れな働き。褒美を取らせようぞ!」


城を囲む陣中にて。

豊前守様により簡易ながら論功行賞が行われており、自慢の弟・新次郎が上機嫌に褒められている。


敵方の上級家臣を一族の若者が、しかも初陣で討ち取ってしまったのだ。

新次郎の通称は豊前守様から賜ったものだ。

喜びも一入なのであろう。


対して俺は、卒なく働き軍勢を率いてここにいる。

一手の大将で、しかも初陣となれば問題ない働きだと思う。

しかし、同じく初陣で年下の新次郎の大活躍のお陰で見事に隠れてしまった。


俺自身は弟の大活躍が我が事のように嬉しく思うし、自分の仕事はしっかり果たしたと思っていた。

しかし、俺の側近である石井尾張や武勇自慢の与力・納富治部などからは慰められてしまった。


「民部。お主も初陣ながら一手の大将を卒なく務めたことは称賛に値する。」


豊前守様が上機嫌のまま褒めてくれるが、そのせいで素直に喜べない。


…ぬぅ。

戦上手の弟とイマイチな兄。

そんな構図が定着しなければ良いが…。


「あ、兄上!」


一人もやもやしていると、件の当人がやって来た。


「兄上のお陰で手柄を上げることが出来ました。ありがとうございます!

 …これで、新五郎兄様の仇を一部でも討てたでしょうか?」


弾ける笑顔、後陰る表情。

新次郎の最後の呟きで全てが吹き飛んだ。


やはり弟は自慢の弟だ。

新五郎兄貴を慕い、共に過ごした大事な弟なのだ。

それでいい。

可愛い弟の言動により我ながら単純なことで、もやもやした気持ちはあっさりと晴れた。


「ああ。よくやったぞ新次郎。」


ちゃんと笑顔で言えたと思う。

俺の返答を聞いた新次郎も、とても嬉しそうな笑顔を見せた。


そうだ。

今はそんな小さなことを考えている暇はない。

自慢の弟は自慢の弟のままに、俺は俺で努力を続ければ良いだけだ。


己の在り方を再確認できたところで、少弐屋形がいるであろう城を睨むのだった。


* * *


その後、少弐屋形が拠る城はあっさり開いた。


各地で敗戦を重ねた上に、頼みの家老を討たれ城を囲まれ援軍の当てもない。

僅かな供廻りを連れ、失意のうちに筑後へ落ちて行ったらしい。


結構しっかり囲んでいたつもりだったが、抜け穴はいくらでもあるということか。

少弐屋形を討取りたいと思っているのは、龍造寺一党と大内くらいだろうしな。

…仕方ない、か。


宿敵を討ち果たすことは出来なかったものの、肥前から追い出すことには成功した。

ひとまず落着と言えようか。

あとは、復権を防ぐために隙を見せないよう努力を続けることが大事だな。


大内様は三根郡や神埼郡などにある少弐領一円を押収し、豊前守様を代官に任じた。

代官とは言え、実質は加増。

実入りの一部は上納するが、それは代官でなくとも同じこと。

このことを知った龍造寺一党は歓喜した。


これで当家一党への加増はもちろん、協力してくれた諸氏へのお礼も大盤振る舞いが可能だ。

まあ余り無茶なことは承認しかねるが、ある程度は必要であることも分かる。


このようなことを言う俺は、いつの間にか家中にて内政大臣にような地位に擬せられていた。


…え?

いや、どうしてこうなった…。


天文十六年(1547年)年齢表

俺(民部):18歳

豊前守様:22歳

新次郎:16歳

孫九郎:11歳

久助君:8歳

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