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第十話 内政壱番

手紙を出した小田九郎から早くも返事が来た。


領地が近いからと言っても早すぎないか?

内容は時節の挨拶と当主就任のお祝い。

そして小田駿河守に改名したというものだった。

驚くべきことに直筆らしい。

結構律儀なのか、こちらに好意的と受け取るべきなのか。

少し意識しておこう。


さて、外交はともかくやっかいなのは内政だ。


内政と一口に言っても色々ある。

基本は領地の管理・運営と家臣たちのコントロールになるのかな。


地域別の人口管理・土地管理・土木・公共事業・福利厚生・自治・治安維持・防災・災害救助等と広範に及ぶ。


大雑把に言うと領地運営である。

当然ほとんど経験のない俺や孫九郎、新次郎は家臣たちに手伝って貰いながら学びつつ経営しているのだが。


そんな時にふと思い付いたのだ。

この時代にはまだない、現代的な知識や案などを行えばよいのではないかと。

これは名案だ。


早速色々試そうと意気込んだところで、ハタと気付いた。


頭に思い浮かぶのは先に挙げた内政の用語や富国強兵や殖産興業といった単語ばかり。

具体的な事柄が全く浮かんでこない。


…なんてこった…。


ところで俺たちが治めるこの一帯は、割と肥沃な土地であり取れ高は良好だ。

そして川も流れており海も近い。

海は内海であるが、漁も盛んである。


塩田とかどうだろう。

詳細は?

知らんな…。


わぁー。これは不味い。

「俺」の知識がほとんど役に立たない。

長法師君が培ってきたものと、俺がここで培ってきたものばかりが活躍する今日この頃である。

いや、通常これが普通なのだが…。


戦はこれからも多くあるだろう。

おじい様の遺言もあることだし、戦費は嵩む一方であることは想像に難くない。


ならば、国力を高めるためにも富国強兵・殖産興業が必要であることは間違いない。

肝心のやり方が出てこないわけだが。


ツラツラと考えていると、幾つか浮かんできたのでまとめてみる。


1.専従武士団

  →織田信長が始めたアレ。維持費?ないよ。

2.徳政令の廃止

  →徳政令自体ほとんどやってない。意味なし。

3.田畑の区画整理

  →いけそうに見えるが、生産力が低くないので理解が得られ難いか?

4.鉄砲隊の導入

  →鉄砲部隊を編制するほどの数を揃える伝手も金もない。

5.治水事業

  →知識も金もない。


全部却下だ。

いや、田畑整理なら或いは…。


…まあ、こんなもんだよ。


よし、一人で悩んでいても仕方がない。

他者に協力してもらい、叩いていけば幾らかは搾りとれそうな気もする。


堀江兵部と新次郎、孫九郎に孫四郎を呼ぼう。

あと慶法師丸と久助君も。

三人寄れば文殊の知恵とも言う。

皆で議論すれば何か良い知恵が出るはず。


堀江兵部は宗家の家臣だったけれど、納富治部と一緒に与力してくれることになっていた。

ありがとう、豊前守様…。


* * *


「ふむ、国力増強政策ですか…。」


俺は堀江兵部と弟の新次郎、孫九郎と久助君の兄弟、そして鍋島さんちの孫四郎を呼んだ筈なのだが。

なんか沢山集まってきた。


孫四郎の親父さんである鍋島駿河と、叔父さんである鍋島左近将監。

西千葉に養子に行ってた筈だが、何故かいる孫四郎の弟・彦法師丸と家臣の江里口河内。

宗家の家老であるのに何故かいる納富石見とその嫡子・左馬助。

そして家臣に連なる石井兄弟に、江副・南里・西村兄弟・秀島と徳島・鴨打の一族たち。


軽く車座になって話そうと思っていたが、なんでか軽く普通の会議になってしまっている。

どうしてこうなった。

ともあれ、せっかく色んな人に話を聞ける機会となったのだ。

皆で考えよう!


「殿の御考えは中々に突飛ですな。いや、面白い。」


水ヶ江の当主になったので、家臣たちからは殿と呼ばれている。

まだ慣れないが。

どうも不思議な感覚に陥って呆けることも時折…。


「しかし上手くやれば良い結果が生まれそうですな。」


このように評してくれたのは宗家の家老である納富石見。

先代、先々代からの家老であったが、豊前守様の人柄に惚れ込み此処に来て偏諱を貰い栄房と名乗りを変えた気の良い爺さんだ。

その実、こんな人の好い顔をして若い頃から龍造寺宗家でおじい様と一緒になり、辣腕を揮ってきたというのだから恐ろしいものである。


鍋島親子兄弟は割と真剣な顔であーだこーだと意見を戦わせている。

彦法師丸もしっかり議論に参加している辺り、才気の片鱗が見えている。

孫四郎は武に寄っているが、兄弟でも結構違うものだな。

いやはや、頼もしいことだ。


新次郎と慶法師丸も、久助君と納富左馬や西村兄弟らと活発に議論している。


そういえば与力となった納富治部は西村兄弟の真中らしい。

西村因幡・納富治部・西村新十郎という順で、それぞれ違った方面に優れているとか。

長兄・西村因幡は弁才に、次弟・納富治部は武勇に、末弟・西村新十郎は智勇に優れている。

末弟の新十郎はまだ八歳なのに、すごいな…。


西村家は譜代の臣であり、兄弟の母親は龍造寺宗家の娘であるが上級家臣という訳ではない。

その中で次弟の納富治部は、その武勇が納富石見の目に留まり養子となった。

この歳でこれだけ優秀な新十郎も、そのうちどこぞの名家に養子に行くのじゃないかと噂されている。


江副と南里はおじい様直下の郷士たちであり、俺たちに対しても何かと好意的だ。


石井党は、孫四郎の祖父である鍋島平左衛門とともに、赤熊の笠印で龍造寺家の荒武者として有名な集団だが、これもおじい様直下だった人たちである。

そのせいか俺に対してとても好意的であり、何かを催すと大体一党の誰かが必ずいるという少し不思議な一団だ。

先日、一党の中から石井尾張と言う兄さんが正式に俺の側近となった。


しかし…。

西千葉の養子である彦法師丸とはもかく、宗家の家老である納富石見と左馬助は上級家臣も良い所だ。

それでも公式の場でないとは言え、身分の上下なく意見を交わせている。


このような状態を見て、俺は思わず笑みを浮かべていた。


「良い光景ですな。御家も持ち直すこと間違いなしでしょう。」


俺の隣で同じように見て、笑みを浮かべながら石見爺さんが言う。


全く持って同感だ。

おじい様という巨星は残念ながら墜ちてしまったが、若い力は間違いなく育っている。

もちろん俺がその一角となり、皆を引っ張っていかねばならない。


そう遠くないうちに、おじい様の遺言は果たすことになるだろうと確信している。


その上で、俺たちはより一層羽ばたいていくのだ。

それこそ国を統べる程に…。


結果として、基本にして大事である作物の植え付けに関していくつか試してみようということになった。

何事も基本と種蒔きは大切だ。

流石、皆頼りになる。


すっかり忘れかけていたが、大蒜の作付け推奨は指示して置いた。

天文十五年(1546年)年齢表2

毛利元就:49歳

武田晴信:26歳

長尾景虎:17歳

大友義鎮:17歳

島津義久:14歳

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