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短編小説カレンダー

八月八日はパチパチの日だ!!

作者: 冷暖房完備

スラリと長身に黒縁メガネをかけ、整えられた黒髪を揺らしながら颯爽と歩く僕に羨望の眼差しを向ける女子たち。

末は総理か大臣かと言われた僕の未来は明るいはずだった。

そう、あの男が転校してくるまでは!!

真っ黒に焼いた肌、誰よりも速く走る足。

笑うとエクボができて可愛いなんて言われてるナヨナヨした軟弱な顔!!

時代遅れなガキ大将が物珍しいだけなんだ、きっと皆それに気づくはずだ!!


「おっす、まる夫!!」

ポンと肩を叩いて通り抜けるクラスメート。

「誰がまる夫だ!!僕は正夫だ!!」

「あ、そうだったな。ゴメン、ゴメン」

き、きさま!!

国語の教科書まる暗記できるくせに覚えてない訳ないだろ!!

この屈辱!!この辱しめ!!

いつか必ず倍にして返してやるからな!!



「正夫さん、そろそろ習い事のお時間ですわよ?」

「はい、お母様。もうすでに準備はできております」

「では、しっかりお勉強してくるのですよ」

「はい、お母様」

階段を降りて、メイドがドアを開けると運転手の金光が車のドアを開けて待っていた。

「金光、今日もよろしく頼むぞ」

「はい、お坊っちゃま」

ゆっくりと発進する黒のロールスロイス。

「本日は、これからソロバン塾で一時間ほど過ごされた後、学習塾で国語と英語を学ばれまして、夕食はお父様と懐石となっております」

スケジュールを淡々と語る金光の言葉に耳を傾けておるとソロバン塾の入り口に見慣れた黒い物体がいた。

「…きさま、ここで何をしている?」

まさか闇討ちか?

「あれ?まる夫」

「だから正夫だと言っているだろう!!」

いいか?どんなに その名前でよんでもズバリなんとかでしょう!!なんて言わないからな!?

「で?何をしているんだ」

「あ、いやぁ、母ちゃんがさ、遊んでばっかりいるからってソロバン通えって連れてきたんだよ」

見ると部屋の中に母親らしき女性がいる。

「ソロバンなんてやったことないけどさ、無駄じゃね?そんなのパチパチしなくても頭ん中を数字が踊ってて勝手に答えが出てくるのにな」

さも当たり前のように同意を求めてくる。

す、数字が踊ってるだと〜!?

僕の頭の中にはソロバンが入っててパチパチと弾いているぞ?

「暗算をしてるってことか?」

「暗算?」

暗算も知らんのか!!

ワナワナと震えてきた。

こ、こんな馬鹿者に僕は負けているのか!?

「きさま、早く部屋に入れ!!ソロバンで勝負だ!!」

首根っこを掴まえて強引に席につける。

「俺やり方分からん」

「教えてやる!!」

素人に勝っても意味がないからな!!

「まぁさっそく お友達ができたのね〜」

「正夫くんは優秀ですから安心ですよ、お母さん」

馬鹿者の母親と先生が微笑ましそうに語り合う。

断じて違うが今は こいつにソロバンのなんたるかを叩き込まなきゃいけない。

「そうだ、お母さん。今度の八月八日はパチパチの日と言いましてね、ソロバンの日なんですよ。その日に皆で海に行くんですが良かったら参加されますか?」

「あら素敵ですね。ぜひ参加させてください」



「まる夫、おはよ〜」

海に行く観光バスに乗り込み、さも当たり前のように僕の隣の席に座る。

「誰が座っていいと言った?」

「サキイカ食うか?」

き、きさま本当に僕の話を聞いてないな!!

沸点に達しそうな僕の口にサキイカを放り込む。

「俺さ、本当は不安だったんだよな。転校なんて初めてだし、友達できるのかな?ってさ」

モグモグとサキイカを食べながら僕の顔を見つめる。

「まる夫のおかげでクラスに打ち解けれたし、いつも気にかけてくれて嬉しかった。ありがとう」

「な、なにを言ってるんだ!?」

こいつは本当に勉強以外の事は お花畑だな!!

気にかけた事など一度もないわ!!

「大人になっても ずっと友達でいような!!」

断る!!


しかし、ソロバンをヤツに教えたのは間違いだったか?

僕の教え方が上手いせいでメキメキと頭角を現し、先日の塾内の大会で準優勝してきた。

気を抜けば、塾での立場も危うくなる。

「頭の中にソロバンがあるのって面白いな!!でも踊ってるの拾う方が早いけどな〜」

だから、なんなんだ数字が踊るってのは!!

そこが天才と秀才の違いか!?

て、誰が天才だ!!

「なぁなぁ、まる夫は中学どこ受けるんだ?」

「そんなの〇〇附属に決まってるだろう!!」

あそこは両親の母校でもあるからな!!

「じゃあ俺もそこにしよっと」

「ま、待て!!」

倍率が上がるじゃないか!!

「ん?なに?」

「い、いや。き、きさまが入れるなら入るがイイ」

「なら入る。あそこ制服 可愛いよな〜」

可愛い?ただの学ランだぞ?

「なぁなぁ、海についたら一緒に沖まで競争しようぜ?ほら、なんか浮いてるだろ?丸いの」

「くだらん」

「いいじゃん、いいじゃん」

なんだって、いちいち こいつは子供っぽいんだ!!

今時の六年生はもう少し落ち着いてるぞ!?

「まる夫くん達って本当に仲がいいよね〜」

僕たちのやり取りを微笑ましく見つめる女子たち。

「誰がまる夫だ!!」

勘弁してくれ……。



「水着に着替えたら準備運動しっかりして海に入れよ〜」

「は〜い」

ちゃっかり水着を服の下に着ている男子は ささっと脱いで飛び出していく。

かくゆう僕もその一人だ。

「僕たちも行くぞ」

「待ってよ。俺も着替えてくるから」

そう言って更衣室の方に歩いていく。

なんだ?中に着てきてないのか?

「これでは僕の方が海で大ハシャギしている子供のようじゃないか」

まんまと策略にハメられたな!!

この屈辱、倍返しだ!!

イライラしながら待つ。

何人もの生徒が着替えを済ませ出てくるのにヤツは なかなか出てこない。

く、くそ。遅すぎる!!

これは巌流島の戦いを模しているのか!?

小次郎 破れたり!!か!?


着替えを終えて出てくる女子たちの意味深な笑顔が更にイライラさせる。

もう置いていくか!!

そう思った時、

「お、お待たせ……」

遅いわ!!

振り返って睨み付けると、そこには頬を赤く染めた一人の少女がいた。

「ん?」

あやつの声がしたと思ったが気のせいか?

キョロキョロと辺りを見渡すが、ヤツはまだ出て来ていない。

「か、母ちゃんがス、スクール水着じゃないの、入れたみたいで、さ……」

モジモジと恥ずかしがる少女。

「そ、その声、ま、まさか……」

ピンクの小さな花が散りばめられたセパレーツの水着を着た少女が顔をあげた。

「に、似合わないだろ?」

どっか〜ん!!

頭の中が大噴火だ!!

え、え、え〜!?

こ、こいつ女だったの!?

「へ、変かな?」

「い、いや。へ、変ではない!!よ、よく似合ってる」

「あ、ありがとう……」

「う、うむ」

照れながら笑う顔を凝視してしまう。

こいつ、本当に あいつなのか?

ドッキリ?双子の妹?

キョロキョロと挙動不審に動く僕の手をキュッと握ってきた。

「まる夫、早く泳ごう?」

「あ、ああ……」


世界で一番 大嫌いなアイツは、ドンピシャに僕好みの美少女だった。



僕はこいつに一生勝てない気がする…………



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