『今度は幸せに』
「……ん?」
振り下ろされると思った昊華先輩の腕は、降ってこない。
恐る恐る顔を上げると、腕を振り上げたままの昊華先輩がそこで―泣いていた。
「えっ!?」
これには流石に驚かざる得ない。まさか告白をして泣かれるとは……。
つまり、拒否。
嫌な二文字が頭をよぎって、頭を抱えたくなる。
いや、そんなことよりはまずは昊華先輩だろ、自分。未だに目の前で涙をポロポロと流す昊華先輩。
振り上げられた腕は、勢いは良かったものの、降ろされる気配はなかった。
その腕をそっと掴んで、降ろさせる。昊華先輩は、顔を上げはしなかった。
「……そんなに告白が嫌でしたか」
昊華先輩が、首を振る。
「じゃあ何ですか?」
何も言わない。
「昊華先輩?」
また、何も言わない。
「先輩?」
「……分かんないって言ってるでしょ、愚鈍」
そんなことは一言も言っていない。
そして鈴の物言いが移っていることに関しても、突っ込みたい。
……段々収拾がつかなくなってきているぞ。
「まぁ、打たれなかったんでいいですけど……。ただ、なんでだろうって思っただけですから」
「……っ」
「あーもー……。泣かないでくださいよ、昊華先輩……」
ぽんぽん、と赤ん坊をあやすように背中を軽く叩いたり、さすったりする。
本当は抱き締めたいところだが、「拒否」という二文字が胸中を渦巻いている限り、到底出来そうに無い行為だ。先輩の返事をちゃんと聞いてからでないと、出来ない。
「なんか、よく分かんないけど……」
「……はい」
暫くして落ち着いたのか、昊華先輩はゆっくりと口を開いて声を発した。
「映像がフラッシュバックした。蒼茉とそっくりの男の子が、『ティナ』って呼んで笑うの。それから、今度は私そっくりな女の子が『分かってる。でも、もし仮に死んだとしたら、あの世で一発殴らせなさいよ』って言って、悲しそうに笑った。男の子は、『そりゃ生きて帰ってこなきゃな』って言って空を、飛んだわ。そこでフラッシュバックは終わったけど、そしたら、勝手に殴ろうとしちゃってた」
内容は、とても信じられないようなことだったけど、多分本当なんだと思う。
昊華先輩ほど鮮明ではないけれど、僕にも同じようなことが何回かあったから。
初めての事のはずなのに、デジャヴを感じながら、昊華先輩の後ろにきっと誰かを重ねていた。
信じて予測するなら、きっとその人達は前世の僕と先輩なんだろう。
この現代とは違う世界に生きていた、蒼茉と昊華だ。
記憶の片隅に残ったそれが、今のティナ―昊華先輩―にやらせようとしたんだろう。染み付いた記憶というのは、凄いものだ。
「きっと前世の僕達は、納得出来ない別れ方をしたんでしょうね」
「……こっちの私達は、そんなの嫌だからね」
「当たり前です」
昊華先輩はそれを聞くと、へにゃりと笑った。
「……そういえば昊華先輩」
「ん?」
「返事……、ってどうなるんですかね」
結局前世云々の話でおざなりになっていた返事。その話を持ち出せば、あっと昊華先輩が声を上げた。……どうやら忘れられていたらしい。
「拒否」という二文字がぐるぐると廻っている中、正直聞きたくないような気もしたけれど、聞かなければいけないとも思った。
「蒼茉の事は、好き、だと思う」
「……!」
「でもそれは、友愛なのか恋愛なのか今の段階じゃ分からない」
「……」
「それに、嫉妬だってする」
「それは僕だって」
「我儘だし、〈空〉に関しては煩いよ」
「〈空〉については僕も同じです」
「……それでも、いいわけ」
「嫌だったら、〈空〉を下さいなんて言いませんよ」
笑って、今度こそ先輩を抱きしめようと腕を伸ば―したのだが、後ろにチラつく二つの影を見て、やめた。
何故バレてるんだ。
「……鈴、星先輩」
「……バレた、星の所為」
「俺の所為!? ちがくね」
「星の所為」
「どっちの所為でもいいから、早く出てきて下さい」
まさかの友人の登場に、昊華先輩も驚きを隠せないらしい。……ということは、別に昊華先輩から漏れたわけでは無さそうだ。
「怒る前に一ついいか?」
「何ですか、星先輩。言い訳なら怒りますよ」
「ほら、鈴」
「分かってる」
『おかえり』
『!』
そう笑顔で言ってくれるということは、きっと鈴と星先輩も前世に縁のあった人なんだろうと簡単に推測できた。
きっと二人共、僕達と違って前世の記憶がはっきりしているんだと思う。じゃなきゃ、そう簡単に「おかえり」なんて言えない。
だから揃って僕達もその言葉に返した。
『ただいま!』
今度は納得のいかない終わりなんてさせやしない。四人で、欠けること無くこの世界を楽しんでやる。
この世界で、四重奏を奏でて見せようか!
初めまして、鳳篠 晶來です。
一度書いて部誌に掲載していた小説を、身内以外に意見があればいいなぁ、と思い投稿させて頂きました。
割りとさらっと読める仕様になってればいいなぁ、と思います。
なんだかやっつけ感満載なのは認めてます。締め切り間際に追い込まれて書いた記憶しかないです。
そんなグダグダな小説でしたが、いかがだったでしょうか?