父親
藤原さんの父親は、住所を変更していた。しかし、実家の住所は変更しておらず、連絡は可能だった。
さすがに死んだ人から手紙が来たとは言えないので、ある程度嘘を交えながら、電話で事情を話したところ、由美さんの物は父親の実家にあるとの事だ。
父親は、再婚して第二の人生を歩んでいた。子供もいた。しかし、娘の持っていたものは、捨てることができず、かといって今の家族のことを考えると家にも置けず、父親の実家に預けているとのことだった。
土曜日に、父親の実家で見せてもらえる約束をすることが出来た。
土曜日までの間、宮下は送られてきた手紙の方の指紋を調べていた。
今の時代、お金さえあれば、インターネットで簡易指紋調査キッドを買って調べることが出来る。便利の時代になったものだ。
とは言っても、簡単ではない。慎重に扱い調べなくてはならない。
検出された指紋は3人分。エンジェル様をやった三人分の指紋があった。
手紙が来たことを野村と富田に相談した際、手紙を見せらしい。その際に指紋が付いたしまったようだ。
郵便関係者の指紋がないは、彼らが指や手紙が汚れるのを防ぐために、作業時に手袋などを付けていているためだろう。
結局、手紙の指紋からは、あまり、有益な情報は得られなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
約束の土曜日。
宮下と千堂は、藤原恵美と最寄の駅で待ち合わせて、父親の実家に行くことにした。
わたしと五月の2人だけでは、信用してもらえないので、藤原恵美さんにも一緒に来てもらうことにしたのだ。
「お父さんと会うのは、何年ぶり?」
「離婚以来会っていないので、7年ぶりですね」
家に近づくに連れて、恵美さんは、緊張しているようだった。しかし、それは期待からの緊張というよりも、歯医者に行くような苦手な人と会うときの緊張のように見えた。
恵美さんは、お父さんにはあまり会いたくなさそうだっだ。
お母さんへの配慮だろうか。再婚して、子供が居るからだろうか。それとも、何か別のものがあるのだろうか。
家の前では、父親が待っていた。
一目見て、恵美さんだと認識したようだった。
「由美。由美なのか」
おそらくは反射的に出てしまった言葉なのだろう。しかし、無意識ゆえに、それは父親の本音を現していた。
恵美さんの表情が険しくなった。
「由美ではありません。恵美です」
「・・・そうだったよな。そうだよね」
早速、由美さんの荷物を見せてもらうことにした。
由美さんの荷物は、綺麗にダンボールに入れられていた。若干ほこりを被っているが、何年間も片隅に置かれ、放置されたという感じではない。
ダンボールの中には、いろんなものが入っていた。
洋服、ヌイグルミ、カバン、文房具、写真、その他もろもろ。由美さんの持ち物を全て入れたのだろう。
「この本懐かしいな」と私は、ダンボールの中から一冊の本を取り出した。
小公女セイラ。昔アニメでやっていたやつだ。小公女セイラ以外にも、赤毛のアンや二人のロッテなどがあった。
由美さんの持ち物を見ていると、由美さんの人柄が少し判るような気がしてきた。
探しているとようやく、由美さんが、友達から受け取ったと思われる手紙もあった。
そして、その中に、聞いたことがある名前が。
「野村優」
千堂は思わず声を上げてしまった。
野村優という名前は、依頼者でエンジェル様をやってた一人の野村さんと同じ名前だ。
◇ ◇ ◇ ◇
私たちは、帰りに早速、野村さんの家を伺った。
野村さんは、特に何か言うことなく、わたしたちを家に招きいれた。
「由美さんと知り合いだと、何で教えてくれなかったんですか」
「・・・」
「エンジェル様で、コインを操作したのは、あなたですよね」
「・・・」
「どうして、こんなことをしたんですか」
「恵美が由美を殺したのよ」
「どういうこと?」
「由美は恵美に会いに行った帰りに交通事故に会って死んだのよ。恵美が由美を殺したようなもんじゃない」
「それだけで?」
「それだけじゃないわ。わたしのことを覚えてないからよ。親友だったのに」
「恵美さんと知り合ったのは、高校からじゃないんですか」
「恵美と知り合ったのは、高校からよ」
「それじゃあ、恵美さんが、あなたを知っているわけないじゃないですか」
「判ってるわよ。そんなこと。頭では判っているのよ。でも、悲しかったのよ。私のことを思い出してもらえないのが。だって、彼女、由美と同じように笑うのよ」
野村さんは、二人を同時に見ていない。そのため、双子という実感を持てず、恵美さんを由美さんとしか感じられないのだろう。恵美さんがお葬式に行かなかったことで、恵美さんが、由美さんの死を実感する機会を失ってしまったように、恵美さんがお葬式に行かなかったことで、野村さんは恵美さんの存在を実感する機会を失ってしまった。何とも、皮肉とか言いようがない。
「それにしても、悪戯にも限度ってものがあるでしょ。手紙を出すなんて」
「名前しか出してない」
「えっ」
「わたしは・・・エンジェル様で、由美の名前しか出してない。手紙も出してないし、たすけて、なんてやってない」
「じゃあ、誰がやったのよ」
「判らない。判らないよ」と野村さんは、泣きながら訴える。
「嘘を言っているようには見えないわね」
もう、これ以上、今の野村さんから話を聞けそうもなく、宮下たちは家に帰ることにした。