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たけだゆみ

■たけだゆみ


 目を覚ますと、目の前には見慣れない白い天井、白い壁、カーテン。そして、少し薬臭い部屋。

 私は、自分が保健室のベットの上にいることに気づいた。そして、少しはなれたところには自分を心配そうに見つめてる友人たちの姿があった。

 慌てて体を起こそうとしたが、体にほとんど力が入らなかった。

「あ、まだ無理に動かないで。もうしばらく休んでいた方がいいよ」と野村。

 私のことを心配してくれていたのだろう、野村の目は少し涙目だった。

 私は軽く頭を振って、それまでにあったことを思い出そうとした。


 そうだ。エンジェル様をしていたんだ。そして、たけだゆみ。私はエンジェル様の名前を聞いた後、気絶したんだ。

 たけだゆみという名前は私の知っている名前だった。

 決して、忘れることが出来ない名前。


     ◇     ◇     ◇     ◇


「ごめんね、恵美。私が強引に恵美を誘ったから..」と野村は涙ながらに藤原恵美に謝罪した。

 野村は藤原恵美が倒れ以降ずっと、自分を責めていた。

 それなら、私も同罪だと説得したが、一番私が悪いと、自分を責め続けていた。

「泣かないでよ、優。私も悪いんだから・・・それより、私のせいで、途中で終わらせちゃってごめん。確か途中で終わらせちゃうと呪われちゃうんだよね」

「何言っているのよ。呪いなんて、そんなことあるわけないでしょ」と白衣を着た保険の田村先生。

「いい。私も、あなたたちぐらいの年の頃に、ブームがあって、散々やったけど。呪いなんてなかったわ。でも、危険性がないわけじゃないの。コックリさんもエンジェル様も集団催眠の一種でとっても危険なのよ。暗示にかかって鬱病になったり、自殺する子も居るんだから。特に皆みたいな思春期の女の子は、暗示にかかりやすいからね。もう二度と絶対やらないでね。判った!!」

「判りました!!」と野村。

「先生。こっくりさんって・・・本当に霊が降りてこないんですか。本当に集団催眠の一種なんですか」と私は田中先生に尋ねた。

「そうよ。どうしたの、藤原さん。」

「なんでも、ありません」

 藤原さんは何か隠していると私、富田は思った。

 藤原は、自分の知っていることを話そうと思ったが、より皆を不安にさせるのかと思い、言い止めたのではないだろうか。

「そういう風に気にするのが一番いけないのよ。第一、私は今まで散々途中で止めたけど、何の呪いもないんだから」と田村先生。

「もしかしたら、結婚できないのは呪いのせいかもしれませんよ」と私。

「・・・」と痛いところを突かれたのか田村先生は返答に困っている。

「そうなんですか。それは困ります」と藤原が追い討ちをかける。

 一同、笑いに包まれる。

 しかし、藤原の表情には、何かを隠しているような影があるように、富田には感じられた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


 それから数週間後。

 朝の登校途中。

「おはよう、恵美!」「おはよう!」と野村と私、富田は、背後から藤原に元気よく声をかけてた。

 返事をするが、藤原の表情は、どこか暗い。

 朝だけじゃなく、エンジェル様以降、藤原の表情は、明るく振舞ってはいるが、どこか冴えなかった。

「どうしたの恵美?近頃、暗いよ」と野村。

「一人で抱えてないで、話した方が楽になるよ」。

「妹から手紙が来るの」

「それが、どうかしたの」

 藤原には一卵性双生児の妹が居て、両親が離婚した今は別々に暮らしていると依然聞いたことがある。

 電子メール全盛の現代だけど、妹と手紙のやり取りをしてもおかしいことではないと思うのだが。

「以前言ったでしょ。私には、一卵性双生児の妹が居るって」

「聞いた。確か、両親が別れて以降、手紙のやり取りだけで会ってないって、言ってたよね」

「それ嘘なのよ・・・手紙のやり取りなんてしてないのよ。私嘘をついていたの」

 私には、なぜ彼女がそん嘘をついたのか判らなかった。

 一方、藤原は話すべきかどうか、まだ迷っていた。そして、少し間を空けて、覚悟を決めて言った。

「たけだゆみは・・・妹の名前なのよ」

「えっ?」

 エンジェル様は、死んだ人間の霊。エンジェル様が『たけだゆみ』を名乗るということは・・・おそらく野村も同じことを考えたのだろう。表情が険しくなっていた。

「妹は、6年前に、小学校4年生のときに死んだのよ。自動車事故で」

 死んだ妹から手紙が来るはずがないのは、誰の目に明らかだった。

「誰かが、悪戯しているのよ」

「私は、最初、悪戯だと思ったの。でも、家族しか知らないことや、妹と私しか、知らないことが書かれているのよ」

 藤原がエンジェル様をやっていて教室で倒れたことは、学校中の人間が知っている。その経緯を知っている人間が、悪戯の手紙を出すことは十分に考えられた。しかし、藤原とその家族しか知らないことを手紙に書いているとしたら、手が込みすぎている。

 そして、正直、自分達の手では手に負えないと思った。


「霊能者に頼むしかないか・・・」と野村。

「でも、田村先生が、エンジェル様は暗示だって言っていたじゃない。第一、幽霊が手紙を出すわけないでしょ」

 霊だったら、わざわざ手紙を出すなんてことはしないし、出せるとは思えない。人間の仕業と考えて良いだろう。

「だったら、探偵を雇うしかないかな。お金なら三人で割り勘にすれば何とか出せるんじゃないの」と野村。

 藤原の家が、母子家庭で、金銭的に苦労しており、母親に迷惑を懸けれないことは、野村も富田も知っていた。

「そんなの皆に悪いよ」

「気にするな。友達じゃないの。なぁ、美紀」と野村。

「探偵か・・・.」

 私には思い当たる人物が居た。こういう奇怪な事件を相談できる人物が。

「美紀の知り合いに探偵でも居るの?」と藤原。

「本物の探偵の知り合いは居ないけど・・・私、頼りになりそうな人を知っているの」


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