エンジェル様
■エンジェル様
オレンジ色の夕日が射し込む放課後の教室。
数人の女生徒が教室の一角で机を囲み集まっている。
今週は、試験期間中で、部活動は活動中止。
ある生徒は、試験に備え勉強する一方で、ある生徒たちは勉強に飽きたのか、教室の隅で何やら呪術めいたことを行おうとしていた。
「恵美。ありがとう。後は一人で出来るよ」
前田菜々美はそういうと今度は深川さんに国語を聞きに行った。
前田さんから解放された私が帰る準備をしていると、「ねぇ、恵美もやろうよ」と教室の隅に居た野村優が私、藤田恵美を誘ってきた。野村優はショートカットで快活な体育会系女子だ。
野村優の机の上には、ハートと五十音の文字が書かれた紙があった。
「野村は試験前なのに余裕ね」
「気分転換よ。気分転換」
野村は力強く答えた。
「気分転換ってほど、勉強したの?」
「固いこと言わないの、恵美。早く座って」と野村の前に座る富田美紀が、藤田に参加するように急かした。
藤田美紀は野村とは対照的な腰までの長髪で落ち着いた知的な感じの少女だ。成績も野村とは対照的で上位の方だ。
そう言う私は、英語はトップだけど、それ以外の科目は並と言ったところ。
「しょうがないな。でもさぁ、コックリさんて危ないんじゃないの」。
「コックリさんじゃないよ。エンジェル様だよ。あれっ? 恵美はこういうのやるの初めてだっけ」
「見たことはあるけど。参加するのは初めてかな」
「恵美、大丈夫よ。コックリさんは、動物の霊だけど。エンジェル様は、人間の霊だから」と富田美紀。
富田がせつみするには、エンジェル様もコックリさんも、同じ降霊術の一種であり、女子学生に人気の占いらしい。コックリさんが狐やヘビなどの動物霊を降ろすのに対して、エンジェル様は、人間の霊であり、優しくて安全だという話だ。
「でも、やっちゃいけないことがあるのよ。指を途中で離しちゃ駄目。後、終わるときは、ちゃんと帰ってもらわないと駄目よ。ルールを破って、エンジェル様を怒らせると呪われるんだって」と野村。
「呪わるって・・・・」
「大丈夫だって、もう心配性だな恵美は」
「さて、何について占うかな」
「野村のテストの結果」
「嫌だよ。そんなの。じゃあ、初参加の恵美の恋愛運とテストの結果について占おう」
「え~、ズルい~。自分の嫌だって言ったじゃない」
「他人のは別腹よ。さぁ、やるわよ」
野村は、十円玉をハートの上に置き、その上に人差し指を置いた。藤田も十円玉に人差し指を添えた。
「恵美も早く」
私はしぶしぶ皆と同じように人差し指を置く。
「エンジェル様、エンジェル様、出てきてください」と皆で声を合わせて詠唱。
何も起きない。
そして、少しして、「エンジェル様、エンジェル様、いらっしゃいましたら「はい」へ進んでください。」と詠唱。
何も起きない。
「エンジェル様、エンジェル様、出てきてください」
何も起きない。
「エンジェル様、エンジェル様、いらっしゃいましたら「はい」へ進んでください。」
何も起きない。
「エンジェル様、エンジェル様、出てきてください」
何も起きない。
突如、突風が教室の窓から吹き込み、教室のカーテンが激しく揺れる。
「エンジェル様、エンジェル様、いらっしゃいましたら「はい」へ進んでください。」
スーと十円玉が、「はい」の上に移動する。
「来た」と周囲を囲んでいる観客の生徒たちから歓声が上げる。
「エンジェル様は、人間の霊なんでしょ。まず、名前を聞いてみようよ」と野村。
「エンジェル様、エンジェル様。名前を教えてください」
再び、十円玉が動き始める。
「ゆ・・・み」
「日本人ね」と野村。
「苗字も聞いてみようよ」と富田が提案する。
「エンジェル様、エンジェル様。苗字を教えてください」
「た・・・け・・・だ」
たけだゆみ。
なぜ、私の知り合いの名前が出るのだろうか。私しか知らないはずなのに。なぜ。
「たけだ、ゆみ。そんな・・・何で・・・」
私は動揺を抑えようとしたが、声は突如震え初め、驚きの表情を隠しきれなかった。
そして、鏡を見たわけではないが、顔色は、どんどん血の気が引いて、青白くなって行くのが判った。
頭がくらくらして、意識がどんどん遠退いて行く。
「どうしたの恵美。大丈夫?」と観客の生徒の一人が声をかける。
「辞めようよ」と富田
「辞めよう。でも、指を話しちゃ駄目よ。ルールだから。もう少し頑張ろう。由美」
途中で辞めると呪われる。信じているわけじゃないけど、途中で辞めて野村と富田を不安がらせるのが嫌だったので、気持ちを振り絞った。
「判った。もう少し頑張る」
突如、何も問いかけていないのに10円玉が動き出した。
「た・・・す・・・け・・・て」
たけだゆみは、たすけを求めるている。
なぜ?
どうして?
頭がくらくらする。もう意識を保てない。
その直後、私の意識は切れた。
そして、机の上に崩れるように倒れこんだらしい。