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ヴァルキュリア -改訂版-  作者: 花街ナズナ
14/16

幕切れ


今まさに目の前で起きた出来事に、バルタは声を失った。


それはあまりにも非現実的な、

いや、この戦い自体がすでに非現実ではあったが、そんなことすら忘れさせるほど、その光景は不可思議だった。


猛烈な白炎にさいなまれながら剣の柄を破壊したその瞬間、爆ぜ砕けた破片とともに柄の中から無数の光の粒が躍り出たかと思うと、それらはまるでひとつひとつが意思を持つもののように、うねりながら遙か上空へと向かって飛散していった。


この世ならざる光景に、しばし目を奪われていたその時、ふと、柄を砕かれ炎を上げる剣に目をやると、何故か一粒の光がそこへ留まっている。


自分でも奇妙に思えるほど、何も聞かずとも、何も考えずとも、バルタにはそれがグラドであると確信できた。

「ようグラド。調子はどうだ?」

かすれた声で光に声をかけると、それは瞬く間に膨張し、大きな光の影となって、生前のグラドの姿を形作った。

「変わらないみたいで何よりだ」

それは言葉を発することは無かったが、その表情の穏やかさがバルタの知りたかった全てを物語っていた。

「エダが待ってる。寄り道しねぇで真っ直ぐ会いに行けよ」

グラドの姿をした光が静かにうなずくのを見ると、バルタはさっさと行けとでもいうように、左手に残された指でそれを払うしぐさをして見せた。

バルタの意思を理解してか、光は再び粒のように収束すると、他の無数の光と同様、天へと昇っていった。

バルタは光が完全に見えなくなるまで、ただじっと空を見上げていた。


と、突然左肩の辺りに激痛が走った。


あまりの痛みに息を詰まらせて前を見ると、スカルモールドが柄を破壊された剣の刀身を無造作に掴んでいた。

剣はバルタが空を眺めている間に引き抜かれていたのである。


途端に痛みと同時に大きな出血を始めた肩口を一瞥すると、非難するような目つきでスカルモールドを睨んだ。

だが、当のスカルモールドはそれ以上に憤懣やるかたないといった体でバルタを激しく睨みつけている。


その時、偶然吹きつけた横風に髪を散らされたおかげで、バルタは初めてスカルモールドの顔をまともに見ることが出来た。

整った顔立ちで怒りもあらわに睨みつけてくる女の顔は、なぜだがどこかエダの面影を感じさせ、さらにバルタを混乱させた。


すると、混乱するバルタに回復する間さえ与えず、スカルモールドは破壊された自身の剣を持ったまま、踵を返して元来た道を帰り始めた。


その先をよく見ると、いつのまにか鎮火した様子の馬がこちらを向いている。

しかし、その姿は黒く焼けただれ、一見するととても生きた馬の姿には見えなかった。

が、スカルモールドはそんなことには気も留めず、馬具の焼け落ちた、というより馬自体が焼け焦げた不気味な物体にまたがると、反転して再びこちらへ向かってきた。


バルタは彼女から最後の一撃を受ける覚悟を固めると、もはやほとんど力の入らなくなった足を精神力で支え、まるで泥酔した老人のような調子でなんとか立ち上がった。


馬が近づくにつれ、その姿の異様さがさらに細かく伝わってくる。

右目は潰れ、左目は白濁し、焼け落ちた頬の間から剥き出しの歯が覗く。


いよいよ目の前に迫ったとき、さて、目は開けたままでいようか、それとも閉じたほうがよいだろうかと考えているうちに、なぜか馬はバルタの横を通り過ぎ、そのまま道の先へと向かってしまった。


立っていることさえやっとの状態へさらに鞭打ち、首だけで振り返ると、

「おい、留めは刺していかないのか?」

大声を張り上げるつもりが、喉まで込み上げてきた血に勢いを殺がれ、まるでささやくように言い放った言葉を意にも介さず、スカルモールドは馬とともに遠ざかっていった。


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