プロローグ
以前に投稿したヴァルキュリアについて、知人の方から「削りすぎ」とのご指摘を受け、再度推敲した改訂版です。
前作に多少加筆したほか、ラストを変更しています。
好みが分かれると思いますので、もし前作のラストで満足なさった方は、最後の「余韻」は読まないことをおすすめします。
荷馬車は荒野を走っていた。
遠方には点々とそびえる山々、周囲を見渡しても枯れた植物や大小の岩くらいしか目につかない荒涼とした地を、静かに砂煙を上げ、ゆっくりと走っていた。
「兄さん、揺れはきつかねぇか?」
荷馬車を操る中年の男は、空の荷台に乗る若者を気遣って声をかけた。
慣れないものにとって、整地されていない場所を走る馬車の乗り心地は決して楽なものではない。
特に荷馬車は御者台以上に荷台の揺れが大きい。
「大丈夫、こう見えても昔は兵隊やってたんだ。荷台で手荒に運ばれるのは慣れてるよ」
細かく跳ねる自分の体を荷台に押し付け、若者は笑顔で答えた。
「もう半刻も走れば目的の町だ。辛抱してくれや」
御者の言葉を聞くと、ああ、と軽く返し、若者はまた体を荷台に強く押し付けた。
軽い拷問のような振動に嬲られることしばし、ようやく荷馬車が町の入り口に着くと、若者は荷物を先に降ろし、続いて自分も荷台から飛び降りた。
無意識に片手が背中をさする。
「お疲れさん。ようやく目的地にご到着だな」
御者のねぎらいを聞きながら、若者は荷物を拾って肩に背負うと、御者台に歩み寄っていった。
荷袋の下部の張り具合から、荷物は見た目以上に重量があることが分かる。
「ありがとう。ほんとに助かったよ」
御者に礼金を渡しながら、また無意識に背中をさする。
大げさにうやうやしく礼金を額に押し頂くと、御者は少し身を乗り出し、若者に些細な質問をした。
「しかし兄さん、なんだってこんな辺境に来ようなんて考えたんだい?」
実際、御者の質問は当然だった。
この町はすでに誰も住む者のいない廃墟も同然の町。普通に考えればなんら立ち寄る理由の存在しない場所だったからである。
だが、若者には絶対にここへ来る必要があった。
過去の過ちを正すため。
己の信ずる正義を通すため。
そして、自分の人生を清算するため。
御者の質問に無言の苦笑をもって答えると、若者は町の奥へと歩み始めた。