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第3話


傷を治すのに3日、とはいかなかったが5日で治したティラン。人間なら、刺され切られの何ヶ月もかかる|(死んでるかもしれない)重傷を5日で治すのだからそれだけでも凄いことだ。

正しく食事もとって体力的にも回復したようで、以前からヘレンの知ってる見た目のティランになった。


「魔力が百%使えたら1日とかからずに治せたよ」


美味(うま)いタダ飯5日も食っときながらよく言うよ」


さっそく旅支度をする。と言ってもヘレンはもう済んでる。ティランは退院届けだの何だのでまだ終わってない。


「あと何分?」


 何かを待つのは好きじゃないヘレンは溜め息混じりにティランをかす。


「あーとー…10分位」


今のところ一時間待った。後十分ならまぁいいか。と思い病院の窓から外を眺めた。この先の旅には相応しくない清々しい天気だった。


「これから行くとこは闇だからな」


ヘレンの気持ちを知ってか知らずか、ティランはそんなことを呟いた。ヘレンはただ黙って外の遠くを眺めていた。


「アンタが死ぬのは是非とも歓迎すべきことだけど、あまり私に面倒かけないでよ」


それは『取り敢えず守ってやる』も同然な言葉だった。ティランは一瞬目を丸くしたが、すぐにふっと笑った。








 ヘレンはロビーで座って待っていた。そこに支度を終えたティランがやって来たが、それを見たヘレンは一瞬言葉を失った。


「・・・何だその格好・・・」


 全体的に黒い印象を受けるが派手だった。上着も中も黒いが、どれもシルクのような輝きに、上着においては腕に赤いラインと魔方陣があり、羽で出来た紫のファーが揺らめいている。中は襟が赤と黒の縦縞の模様が目立つ。更に金の首輪がアクセントになっていて、黒い服で銀髪の髪も目立ち、本当に柄の悪そうな青年になった。


「・・・・・・何だその目は・・・・・。‘身ぐるみ’これしか返されなかったんだよ。俺のセンスじゃねぇよ」


「・・・へぇ。まぁ‘上等なもの’を返してもらえてよかったね。魔力の(とぼ)しいティラン君への配慮かな?ハハッ」


 上級の魔物や魔術師は、気に入った魔物などを‘身につける’ことが出来る。それは‘服’であったり‘物’であったりと様々だ。魔物の色や模様で大体の柄が決まる。一般人にはただの服やものにしか映らないが、上級の魔物や魔術師にはモノか魔物かがわかるのだ。身につけている数が多いほど術師達の力量が大きいことに比例する。強い魔物などは(あるじ)が弱いと舐められてしまい言う事を聞かなくなる。(まれ)に強い魔物でどんな時でも主に忠実なのもいる。それらは契約を重んじる魔物達だ。数が増えれば(まと)められなければならず、その為弱い者には勤まらない。弱い者でも強い魔物を扱いたくば、頑張って契約型の魔物を探すしかない。ヘレンは今、20以上の(しもべ)達を身に(まと)っている。それに比べてティランは標準並の3体だ。しかし2人とも強い者ばかりを身につけている。


「制御されてるだけでまったく弱いわけではないよ。けどやっぱすっげー不便だな」


「さっさと行こう。アンタといると目立つ」


「はいは・・・」


「あと、あまり近くに寄らないで。獣臭い」


 ヘレンが言っているのはティランの魔物の臭いのことだ。当然常人には分らない。


「失っ礼ー。シャンプーのいい匂いしかしねーっつの。‘こいつら’だって洗剤のいい匂い・・・」





「ヘレンさん!」





 ティランの話を遮って聞こえた可愛らしい声。見ると、委員長(おとうさん)と一緒に包帯の取れたグレイシアが笑顔で立っていた。グレイシアは足早にヘレンに駆け寄ってきた。


「あなたがヘレンさんだったのね!お父様に聞いたわ!」


 そう言われて委員長を見ると、軽くニコリと会釈した。健康そうな表情は保たれている。


「包帯取れたんだね、グレイシア」


「えぇ!昨日!」


 嬉しそうに緑の目を大きく開けて言う。


明後日(あさって)にあの海へ行くのよ!私もう楽しみで楽しみでじっとしてられないわ!」


 テンションが高い理由の一つだろう。ヘレンはそれを聞くと「そっか。良かったね」とにこやかに笑った。


「ヘレンさんはもう行ってしまうの?」


 ヘレンの持っている小さな荷物を見て寂しそうに言った。


「うん。これからちょっと遠くにね」


「そう・・・。もし怪我とかされたら遠慮なくここに来てね!ヘレンさんなら最優先で治療にかかれますわ!お父様も大変感謝してらっしゃるの」


 元気に話すグレイシアだが、ふっと笑ってヘレンは言った。


「ありがとうグレイシア。でも私、横入りは嫌いなんだ」


 思わぬ返答にただヘレンを見上げていたグレイシアだが、「じゃあまたね」と言って軽く頭をぽんぽんと撫でて笑って去っていくヘレン。グレイシアにとってはいつまでも優しい記憶のヘレンの後ろ姿を、どこか胸が熱くなるような感覚で見送った。そして父のもとに戻ったグレイシアは、嬉しそうに言った。


「私、ヘレンさんみたいな人になりたいわ!」


 その言葉に、委員長は微笑み「そうか」と頭を撫でた。

 そんな一部始終を見ていた王室関係者は、皮肉そうな笑顔を浮かべた。



「知らない方が幸せ、ってやつかな」



その王室関係者は、ヘレン達が今日出発したことを報告すべく病院を後にした。

















 街を歩くと、子供たちや若い術師達が自分の魔物で遊んでいた。殆どが動物の魔物で、小さく可愛らしいペットのようなものだった。

 この王国は魔物と人間が共存している。しかし皆大人しい種類で、人を襲う事はない。

 そんな賑やかな街を歩いていると、1匹のダチョウのような魔物が飛び出してきた。飼い主は懸命にその魔物を追っているが全く足が追いつかない。普段は大人しくても一度興奮すると手のつけられなくなる種類の魔物のようだ。その魔物はヘレン達に向かって直進してきた。まともにぶつかったら大怪我だろう。



「危ない!!!!!!!!」



 飼い主が叫ぶが2人ともどこうとも()けようともしない。周りの人たちも冷や冷やと緊迫気味に見ていた。

 魔物は「グワァ!!」と威嚇しながら突進してきた。ヘレンは余裕気な笑みを漏らし、もう突進してくる魔物に笑いかけた。


「!!」


 何を感じたのか、魔物は血相を変えて急ブレーキした。寸前で止まった・・・。辺りはシンと静まり返っている。

 ヘレンはその笑顔のまま、魔物に手を伸ばす。魔物は反射的に目を(つぶ)った。


「よーしよーし」


 小さな頭を撫でるヘレン。魔物はオドオドと目を開いた。しかしまた感じた威圧感に今度は動けなくなった。その時、やっとバテバテになって汗だくの飼い主がたどり着いた。


「ハァ・・・!ハァ・・っ、だ、・・・大丈・・・ハァ・・!・・夫、ですか?!・・ハァ・・・!」


 今この飼い主が全力で頑張っていることは息をすることだろう・・・。


「平気だけど、アンタ大丈夫?」


 飼い主が来ると、平常心に戻った魔物はそそくさと男の影に隠れた。まだ怯えている・・・。


「ハァ・・・大丈夫です・・・ハァ・・・。それより、すみませんでした!!」


 呼吸が落ち着いて来た飼い主の男は頭を下げた。ヘレンは気に止めることもなく、「いやいいよ」と気さくに返した。


「気をつけなよ」


 それだけ言うとまた歩きだしてしまった。男は息を整えているが、魔物が語り掛けてきた。


「ん?お前何怯えて・・・え?」


 その魔物には、ヘレンの後ろに数十体の威圧感溢れる魔物たちが見えたらしい。そして何より、ヘレンが一番恐ろしかったと言う・・・。

 男はそれを聞いて、たった今通りすぎた少女を振り返った。・・・しかし男は何も感じなかった。

 自分にとって恐ろし過ぎるモノは、防衛反応で感じなくなってしまうのだろう。そんな存在を感じてしまったら、たちまち気が狂ってしまうだろう・・・。









「よく殺さなかったなぁヘレン」


 先ほどの場所からだいぶ離れた所まで歩くとティランが言った。


「飼い主がいたからね」


 待ってる者がいるのに殺してしまうのはあまりにも無慈悲じゃないか・・・。


「へぇ?」


 意味あり気にニヤリと笑うがヘレンは気に止めなかった。


 街の外れまで来て先を見下ろすと、もう歩けるような地形はなくなっていた。所々に深い谷があり、地肌が見え、ビルの屋上と地上位の差のでこぼこ道だった。

 ヘレンは緑の勾玉を取り出し、宙へ投げた。するとたちまち巨大な鳥の魔物になり、羽を大きく広げた。バサァ!っと羽を動かすだけで突風が起こった。それを見たティランはヘレンに言った。


「なぁヘレン、2人とも飛ぶ魔物出したら目立つだろ?だから俺をそいつに乗せるんだ」


「ふざけるなよ甘えんな」


 キッパリと言い残すとさっさと飛んでいってしまった。


「相変わらずキッツ。彼氏出来ねーぞ!」


 そう叫びながら仕方なくティランも上着の魔物を召喚させた。こちらは羽毛の魔物で、もはや怪物のような不気味さ満載の外見だ。

 直ぐに追いついたティラン。ふと前を見ると嫌な感じの黒い大きな雲の塊があった。今度は笑いながら話しかけた。


「なぁヘレン、伝説に詳しい俺様がちょいとお話してやるよ」


 「あっそ」と短い言葉だけ漏らして興味無さ気なヘレンだが、ティランは勝手に続けた。


「空には巨人が居るって伝説聞いたことあるだろ?そいつは本当にバカでかい。見上げても顔すら見えないほどにな。そして2種類いて、白と黒だ。空の巨人は、元はランプの精だったらしい。白いのは最後に主人に自由にしてもらえた奴で、黒いのはずっとこき使われてきた奴らだ。白いのに出会うと願いを一つ叶えて貰えるが、黒いのに出会うと殺されるとまで言われている。黒ければ黒いほど凶暴。殺しまくってついた血が黒く変色した黒なんだ。元は限りなく白に近い灰色なんだって。でも皆すぐ黒に染まっていくらしいよ。何でか分かる?」


 そろそろ雲の塊が近くなってきた。


「空の下って必ず何かいるでしょ?黒として生まれた巨人の下にいた者達が真っ先に犠牲になるからだよ。だから黒の下には何もない」


 言った直後、大きな雷鳴が聞こえた。黒い雲の塊の真下に来ていた。


「ティラン、その黒、まさかこの上の?」


「ご名答♪」


 ニコリと返した直後、雷と思っていた音が声に変わった。


「獲物が来おったァァア!!!ワシに血を置いて行けェエ!!」


 すると何かが降りて来た、と思ったらバカでかい手だった。真っ黒な手が2人を掴もうと・・・いや、にぎり潰そうとしてくる。しかし動きが遅い。


「何だ随分とノロマだなァ。このまま突破出来・・・」





ピシャァァアン!!!!!!!





 雷が矢の如く降ってきた。


「動きが鈍い分、技が速いんだよね」


 ティランは随分と余裕気だ。


「そんな余裕ぶっこいてて私にやられた時の二の舞になるよ?」


 雷鳴に負けないような音量で会話する2人だが、ティランは本当に余裕そうだ。


「大丈夫だよ?だって俺のこの魔物、電気通さないもん」


 魔物の羽毛で鎌倉のように丸いものを作りその中に入って笑ってる。


「俺はここでは絶対安全だ」


 コイツ・・・、と引つったような睨み気味の笑いを見せるヘレンだが、ヘレンは防御魔法を使った。魔物を含め、柔らかい光で包まれた。するとまた嫌に頭に響く声が聞こえた。


「貴様ら術師かァ!!なんと忌々(いまいま)しい!!!!」


 怒号と共に今度は足が出てきた。しかしやはり遅い。・・・と思ったら、地に足をついて走って追ってきた。


「待たんかチビどもォォオ!!!!!!」


 「アンタより大きいのはいないよ」と言いながら、明らかに俊足のヘレンの魔物はどんどん距離をはなしてゆく。ティランもまさか地上に降りて来るとは思ってなかったようで少し慌てて急いだ。

 ある程度距離を離すともう追って来なくなった。それを見てティランは言った。


「黒は自由じゃないからな。ランプがあの雲なのさ」


 雲の塊が本来のランプのようだ。そこから離れることは出来ない定めらしい。

 ヘレンはそれを聞くと、何を思ったのか引き返した。


「え?!おい!」


 ティランは予想外の行動に目を丸くするが、何も言わずに行ってしまった。


「・・・馬鹿じゃねぇのか・・・?」




 再び戻って来ると、また怒号が聞こえた。ヘレンは巨人がギリギリ届かない所で止まっている。


「何だ貴様ァ・・・!なぜ戻って来る。ワシに血を捧げに来たのかァ?」


 しかしヘレンはその問いかけには答えず、一方的に話し出した。


「アンタのそのでかい声じゃ私の声は届かないかもしれないけど、アンタが怒り狂ってる原因が伝説の通りだとしたら、今日で終わりにしてあげるよ」


「何だとォオ?!何を言うか小娘ェエ!!」


 声は届くようだ。

 ヘレンは雲の塊へと入って行った。そして巨人の顔の前まで飛んで来た。遥か雲の高く上だ。不思議と寒くない。雲の上だから雷は落とせない。巨人も初めて見ただろう、ここまでやって来た者を。少し戸惑っている。だがやはり殺そうとしてくるので、魔法は解いてない。触れたらバチッ!となる、そんな魔法であり巨人は悔しそうに歯を(きし)める。


「今から私が主人だ」


 巨人の目の前であぐらをかいて挑戦的に笑うヘレン。まるで極道の女・・・。


「何だと?!何を言って・・・!!ランプが・・・!!」


 雲がシュルシュルと集まり、ランプの形を表した。ヘレンはそれを手に取ると、また笑う。


「じゃあ言うよ?」


 巨人になってからもこき使われるのか・・・!!!?と益々(ますます)怒りがこみ上げてくる・・・。しかし主人は殺せない。殺意溢れる血走った目でヘレンをこれでもかと言うほど睨む。そしてヘレンは口を開いた。




「アンタを自由にする」




 未だに睨んでいる巨人だったが、数秒経ってふと平常心に戻った。言葉を理解するのに数秒固まっていたが、その間に全身の黒が弾き()んだ。遠くで見ていたティランは「お?」とちょっと身を乗り出した。

 翔んだ黒は赤い血になり荒れ果てた大地に降り(そそ)いだ。恵みの雨かのように、みるみる大地が潤ってゆく。あっと言う間に植物園のように変化したが、ただ1つ違うのはどれもこれも真っ赤だということだ。

 汚れなき白に変わった巨人はヘレンを凝視していた。


「これで終わり。にしても随分と降ったねー。」


 禍々(まがまが)しい黒い雲は消え、澄んだ白にヘレンは深呼吸をした。「あぁ」と思い出した風に続けた。


「願いを1つ叶えてくれるんだっけ?何がいいかなー・・・」


 巨人は今までの怒りが全く消えたことに驚いていた。自分の白くなった手を見たり、目の前のヘレンを見たりしている。


「そうだ、1回分取っておこう。私の名前はヘレン・ルートフィア。1回分とっといてね」


 そう言って手を降って行ってしまった。ヘレンが行った後に、呟いた。



「ヘレン・・・・ルートフィア・・・」



 戻って来たヘレンにティランは愉快そうに笑って言った。


「まっさか開放しに行くとはなぁ!そんな奴いねぇぞ?」


「帰りが不便だからね」


 ヘレンは少し恥ずかしがり屋。素直になれない性格だ。だから何かと理由をつけるのだ。


「アヴェルダンへの道のりの第一関門のようなものだったのになぁ、黒は。っとその前に空飛べないとだめか。でもヘレン、次のはそうもいかねぇぞ?」


 実はヘレン、アヴェルダンには長らく|(数百年)来ていないため道を忘れている。どんな障害があったかも全部・・・。しかし先ほどの黒はここ数百年、と言ってもティランが封印される前だが、ヘレンが知らない間に出来たものだから真新しい存在だった。


「・・・次ねぇ・・・」


 懸命に思い出そうとするが何も思い出せない。もどかしいものだ。場面場面でしか思い出せない。




 やっと歩ける道が出てきた。2人は魔物をしまって再び歩き出した。この先は深い森になっていて、入り口から魔物達の威圧的な殺気が渦巻いていた。



 伝説もフィクションです。これからも色々と出てきますが、全てフィクションです。

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