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いろいろ巡る縁


「おい――って、あれ?」

 千裕が物陰に顔を出した時、見た光景に思わず間抜けな声を出してしまった。

 そこにいたのは、確かにスーツを着た怪しい男と、猿轡を噛まされた紫紺の色の髪を持つ少女。

 しかし、男はアタッシュケースの様な鞄を抱えているだけで、少女は猿轡の他に手と足を縛られながら地面に転がっている。しかも、必死で男の足元でもがきながら男の行く手を邪魔しているように見えた。

 あまりに当初の予想と違ったため、どうしていいのか分からずに、ぽかーんとなる。

「ん、なんだ? 子供に見せる見世物じゃねーぞ」

「んー! んー!」

 思わぬ乱入者にめんどくさそうな顔をする男。

 地面に転がった少女は好機とばかりに、千裕達を見て必死で何かを訴えかけてくる。が、

「んー! ん? ん!!!」

 少女がアルを見た瞬間、何か今までと違った感じで騒ぎ出す。それはハタから見るとおびえているように見えた。

「あぁ……気がついたか」

 ぽつりとアルは隣でつぶやく言葉が気になったが、とりあえず今は状況を一つずつ整理するため、まずは男の方の話しを聴くことにした。

「えっと、なんか売る売らないの話しが聞こえたんだけど、アンタ、人身売買の人攫いじゃない――よな?」

「おいおい、俺の顔が強面だからって犯罪者にするんじゃねーよ。こちとら由緒正しい金取りだっつーの」

「金、取り?」

「そう、借りたものを取り返しに来ただけだ」

 思わぬ返しに千裕の視線があっちこっちに飛ぶ。

 具体的にはアルと縛られた少女視線を向けたら二人とも逸らしやがった。

 この行き場の無い思いはどこにやればいいのか、完全に見失ってしまった千裕。

「まぁ、この状況じゃぁ勘違いも仕方がねーけど。だけどな、このお嬢さん、約束を破った挙句に、殴るわ蹴るわ、手足を縛っても噛み付くわで、いい根性してるんだよ」

「んんんん!」

 何か必死で訴えている様子の少女だが、否定しないところを見ると事実らしい。

「そうか、ならば彼女はワシらが引き取ろう」

 あきれるようにアルが少女の引き取りを申し出た。

 率先してアルがかかわろうとすることに、思わず千裕はおや? と思う。

「おぉ、そうしてくれ。つーわけでコレは返済金の利子としていただいていくからな」

「んー!!」

 喰らいつくように男にタックルを仕掛けようとしたが、アルに踏まれ止められる。

 そして、完全にスーツの男が立ち去った後で、少女の猿轡を外してやると、

「ちょっと! 何しやがるのよ、このアホ竜!」

 開口一番アルに向かっての罵倒。

 だが、千裕は思わず驚いた。今まで獣人と見間違えられていたことは数多かったが、いきなり竜と言い当てたのは彼女が初めてだったからだ。

 だが、アルは然も当然だと言うように、彼女に向かってこう言う。

「ふん、半妖精が。生意気に借金などするからだ。人の世界で生きているのなら、そのルールぐらい守るのは当然だろう」

「わ、私だってそのぐらい分かってるわ! でも問答無用で『あの子』を持っていかれたのよ!」

 多分この時、千裕とアルの目は本当かよ、といったまったく信用無しの目だったに違いない。

 すると、確かに返済期限過ぎても借りたまま逃げてたけどさ、と小声で自白。やっぱり少女の方が悪かった。

「ふん、何をとられたかは知らんが、半妖精のお前が持っていかれるよりはマシだったのではないか? 半妖精などと言う存在が売りに出されれば、金持ち達のよい玩具になるのが目に見えているだろう」

「た、たしかにそうだけど、持っていかれた子だって妖精なのよ! あの子が売られたって大変なことになるだから!」

 少女のその訴えは、あまりに切実で鬼気迫るものだった。



 イギナと名乗った少女はに詳しい話しを聞けば――というより聞かされた。

 人が暮らす世界と妖精が暮らす世界は、過去に起こった事件によって分かたれて、互いに干渉できないようになっているのが現状だが、その分かたれる事件の際に人の暮らす世界に残った妖精も居る。それがナナイナの親であり、ナナイナの連れだと言う。

 ある日、二人(主にイギナ)は妖精の暮らす世界に行きたい思っていた時、この竜都『ヴァラノワシル』に妖精に詳しい魔女が居ると聞き旅に出ることにしたらしい。そしてその旅の資金を金貸し屋で借りて、長旅をして、今ここにたどり着いたのに――



「って、やっぱり自業自得だろ。返す当ての無い金借りて、妖精が暮らす世界に逃げようなんて」

「ばっ、ちがっ。誰も返すつもりが無いなんていって無いでしょ。そりゃ返さなくてすむならいいけど……」

 後半明らかに小声だったが、バッチリ二人の耳に届いていた。

「大体、金策だってちゃんと考えてるのよ! コレさえ売れれば利息付の借金なんてヘでも無いんだから!」

 そう言ってイギナが懐から出したのは、半壊していたが、千裕が何時も持ち歩いていた――から貰った大切な――そっくりだった。

「それ――なんでお前が!?」

「昨日空から落ちてきたのよ」

 ソレは俺のだー! と千裕は核心に至った。

「しかもコレ、魔力が無いし間違い無く“死んだ世界”の物だわ」

「――死んだ世界?」

「なるほど、それなら確かに良い値で売れるな。しかるべき場所に持っていかなくては金にならないが」

「おい、アル。ちょっと――」

 せっかくめぐり合えた自分の大切な物を売られるのは困るとアルに訴えようとした時、

「あなた、もしかしてコレクター?」

 千裕のリアクションに、イギナはチャンスとばかりに目を輝かせた。

「ほしいの? 今ならお安くするわよ! 具体的には五千ルピア」

 多分、ソレがイギナが借金をしている金額なのだろう。千裕は小声で「どのぐらいだ?」とアルに耳打ちをする。

「大体一般人の半年分の給料に値するな」

 と答えが返ってくる。

「半年って……」

 それはどう考えたって大金だった。そんな大金今すぐ出せるはずが無い――そう思った千裕だったが、

「チヒロ、金が必要ならここにある」

 そう言ってアルが出したのはリノアから預かった皮袋の財布。

「えっ、でもそれって……」

「大体言い値と同じ金がある。もともとお主が使う予定の金だ。リノアは無駄遣いをするな・・・・・・・・といっただけだしな」

 つまりは、千裕の判断しだいと言うこと。

 今手元に金があり、自分の大切なものを買える。それにもともと形は違っても、女の子を助けるつもりで首を突っ込んだんだ。だったら――

「……わかった、ソレを買うよ」

「マジ! いやっほーう! 毎度ありがとうございマース――」

「ただし――」

 千裕との商談に成功して小躍りするイギナに待ったをかけたのはアルだった。

「な、なによ竜」

「いや、たいしたことではない。お前、連れを取り戻したら、ワシと一緒来てもらいたい」

「ん? なんでよ」

「なに、キサマが探している魔女を紹介できると思ってな」

 多分、マグナのことを言っているのだろうが、なにやら別の目的が見え隠れ。

 だけど――

「まじで、竜!」

「あぁ、本当だ。だからワシについてきて欲しいのだが」

「イクイク! マジいっちゃう!」

 ……あえてノーコメントとしたい気分の千裕。

「よし、ならばまずは借金取りに金を返して来い」

「オウさ! まってて私の大切な相棒ちゃーん!」

 そう言って、ダッシュでイギナは駆け出した。

「あぁ……いっちまったけど……借金取りの場所分かるのか?」

「問題ないだろ。あの半妖精、鼻が利くからな」

 ワシの姿を見抜いたほどだ、と小さく笑った。

「アル、なんかあの子のことなんかこだわっていたけど、知り合い?」

「そうだな。あの半妖精では無いが、その親や連れの妖精が知り合いの可能性がある」

「なに?」

「正確にはワシではなくマグナだがな。その確認のためにもアイツには付き合ってもらわなくてはならない」

「ふーん……」

 いまいち分からない言葉に、今はただとりあえず相槌をうっておいた。

 そして数分後、猛烈な勢いで駆けてきたイギナ。その手には男が持ち去ったアタッシュケースの様な鞄。

「やったよ、取り返せた! ご紹介しましょう、私の相棒のリピリピよ!」

 ハイテンションのイギナが、じゃじゃーんと鞄を開けると、鞄の中で丸まって眠るネコを思わせる存在。ただし、その身体はまるでフィギュアのように二頭身。

 本当にうれしそうにはしゃぐイギナを見て、結果オーライと言う言葉が浮かぶ千裕。

「ふむ、それはよかったな。それではワシと共に来てくれるか?」

「イクイ――!」

「もうそのネタはいいから!」

 千裕のツッコミの平手が、イギナの頭に直撃した。



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