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童話シリーズ

マッチ売りの少女 ~今どきマッチ?ライターの時代に売れるわけないでしょう!~

掲載日:2026/10/20

マッチ売りの少女のパロディになります。

雪が降っていた。


街はクリスマスを迎える準備で賑わい、店先には色とりどりの飾りが並んでいる。

そんな街角に、一人の少女が立っていた。

薄い服を着て、頭には古びたスカーフ。手には小さな籠を持ち、その中には大量のマッチが入っている。

少女の名前は、エルザ。

彼女は今、父親から命じられた仕事をしていた。


「マッチはいりませんかー!マッチはいりませんかー!」


声を張り上げること数時間、誰も立ち止まらなかった。

正確に言えば、三人ほど立ち止まった。

一人目は、マッチを見てからポケットのライターを取り出し、無言で立ち去った。


二人目は、マッチを見て首を傾げた。

「これ、何に使うの?」

「火をつけるためです」

「ライターでよくない?」

「おっしゃるとおりです…」

そして去っていった。


三人目は、マッチ箱を手に取って裏表を確認したあと、スマートフォンで何かを検索し始めた。

「ええと……マッチ、十箱でこの値段?通販ならもっと安いな」

そして去っていった。


エルザは籠を見下ろした。

「……売れるわけないでしょうが」

思わず本音が漏れた。


そもそも、おかしいのだ。

ライターがあるのにマッチが売れるわけがない。

暖炉には火打ち石を使う者もいるが、少なくともマッチが生活必需品という時代ではない。

なのに、なぜ父はマッチを売れと言うのか。


「お父さん、商売のセンスが壊滅的なのでは?」

エルザは冷静に分析した。


商品には需要が必要だ。

需要がなければ売れない。

売れない商品を、寒空の下で声を張り上げて売る。

それは商売ではない。

ただの苦行である。


「そもそも、マッチって湿気にも弱いじゃない。雪の日に売る商品じゃないでしょ。せめて晴れた日に売らせてよ」


籠の中のマッチ箱を一つ取り出す。

紙製の箱。箱の中には細い木の棒。棒の先には、火をつけるための薬剤が塗られている。

エルザはじっと眺めた。


「製造原価はいくら?人件費は?輸送費は?これ、利益出てるの?」


もはや少女の独り言というより、経営コンサルタントの現地調査だった。


「お嬢ちゃん」


背後から声がした。

振り向くと、立派な毛皮のコートを着た商人が立っていた。


「そのマッチ、いくらだい?」


エルザの目が輝いた。


「一箱、銅貨五枚です!」


「ほう。では、全部買おう」


「……はい?」


「全部だ。籠ごと買い取ろう」


エルザは商人を見つめた。

疑うべきか、喜ぶべきか、それとも、まず契約書を作るべきか。


「失礼ですが、お客様」


「なんだね?」


「用途をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「用途?」


「はい。マッチを大量に購入される理由です。転売目的でしょうか?それとも、何か特殊な用途が?」


商人は目を丸くした。


「いや、別に。買おうと思っただけだが」


「では、質問を変えます」


エルザは一歩踏み出した。


「お客様は、マッチを使いますか?」


「……いや、使わんな」


「ですよね!」

エルザは勢いよく頷いた。


「私もそう思うんです!今どきライターもあるのに、なぜマッチを買うのか、ずっと疑問だったんですよ!」


「いや、君が売っているんだろう?」


「売っていますが、需要がない商品を需要があるかのように売りつけるのは、私の信条に反します!」


商人は口を開けたまま固まった。

エルザはさらに続けた。


「そもそも、お客様が使わない商品を大量に買うなんて不自然です。もしかして、私を哀れんで買おうとしてくれたのではありませんか?」


「まあ……少しは」


「お気持ちはありがたいです。でも、それでは継続的な売り上げにつながりません!」


商人は頭を抱えた。

この少女、なぜこんなにも商売に厳しいのだ。


「じゃあ、どうすればいいんだ?」


「簡単です」


エルザは胸を張った。


「商品を変えます!」


「……商品を?」


「はい!マッチの需要がないなら、需要のあるものを売ればいいんです!」


商人は、ゆっくりと頷いた。


「なるほど……」


「まず、私に温かいスープを一杯ください」


「なぜだ?」


「寒いからです!」


商人は、とうとう笑い出した。

それから彼は近くの屋台でスープを買い、エルザに渡した。

少女は両手で器を包み、湯気を吸い込む。


「はあ……生き返る……」


「それで、マッチはどうするんだ?」


「家に持って帰ります」


「売らないのか?」


「売れないものを売ろうとするのは時間の無駄です。明日は市場調査をします。ライターの価格、火打ち石の需要、暖炉を使う家庭の割合。そこから販売戦略を立てます」


「君、本当に何歳なんだ?」


「十二歳です」


「十二歳……」


商人は遠い目をした。

目の前の少女は、どう見ても十二歳の子供の考えには思えない。

エルザはスープを飲み干すと、空の器を返した。


「ごちそうさまでした。ところで、お客様」


「まだ何かあるのか?」


「はい。商売に興味がおありでしたら、私を雇いませんか?」


「……マッチ売りの少女を?」


「いいえ。マッチを売るのは今日で辞めます」


エルザは、きっぱりと言った。


「明日からは、売れる商品を売ります!」


こうして、童話史上最も現実的なマッチ売りの少女は、マッチを一本も売らずに初日の営業を終えた。

ただし、その夜家に帰ったエルザは父親にこっぴどく叱られた。


「なぜマッチを売ってこなかった!」


「需要がないからです」


「言い訳をするな!」


「では、お父さん。質問です」


「なんだ!」


「お父さんは、今どきライターがあるのに、なぜマッチを売ろうと思ったんですか?」


「そ、それは……昔からマッチを売っているからだ!」


「なるほど」


エルザは深く頷いた。


「つまり、時代の変化に対応できない経営者ということですね」


「誰が経営者失格だ!」


「では、明日はお父さんも一緒に街頭販売しましょう」


「おう!望むところだ!」


「商品はマッチです」


「……は?」


「お父さんが、マッチには需要があると証明してください。私は隣で販売データを取ります」


「お前が売れ!」


「私は市場調査担当ですので」


「お前の仕事だろうが!」


エルザは、にっこり笑った。


「大丈夫ですよ、お父さん」


「な、何がだ?」


「売れなかった場合の改善策は、もう考えてあります」


「おお!」


「マッチをやめて、ライターを仕入れましょう」


「最初からそうしろおおおおおっ!」


雪の降る夜、父親の絶叫が、街角まで響き渡った。

そしてエルザは思った。

この家の最大の問題は、マッチの需要ではない。

経営者の頭の中が、何十年も前から更新されていないことだった。

明日からの転職活動が、今から楽しみである。

もちろん、履歴書にはこう書くつもりだ。


職歴:マッチ販売。

実績:需要のない市場からの撤退判断。


……案外、どこかの商会が雇ってくれるかもしれない。

挿絵(By みてみん)

毎回のことながら、チャッピーが書いた人物紹介イラストです。

AIはスゴイね。

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