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バイト先に来た留学生の男の子が前世の私の恋人らしい

作者: 西瓜すいか
掲載日:2026/07/19

「これ、五番テーブル、こっち八番にお願い!」


「はい!」


今はちょうどディーナーの時間。たくさんのオーダーが入る。私は鉄板を両手に2枚持ちながら、ホールの方へと戻った。


「こちら、ラム肉のステーキがお一つになります!お熱くなってますので、ご注意ください!」


笑顔でそう接客する。ファミレスなので、子供の手元には置かないように注意して、父親らしき人物に鉄板を受け取ってもらった。母親が言った。


「あの、子供用のフォークと取り皿もらってもいいですか……?」


「はい!かしこまりました!少々お待ちください!」


そう言って、八番テーブルに先に料理を置いてから、子供用のフォークを食器を持って五番テーブルの方へと戻った。キッチンの方に戻るとまた提供用の料理が待っている。軽く下げれる分だけの食器を受け取ってから、キッチンの方へと戻った。




ディナーのピークが終わると締めの作業に入る。締めに入れるのが私と他数人の先輩しかいない。


(もうそろそろ、10時か……。)


10時だからといって何かあるわけではないが、10時半にはラストオーダーを迎えるので、大体この時間からランチのメニューを置き始めるのだ。


ピンポーン。


と扉の開く音がした。


「いらっしゃいませー。」


と反射的に挨拶をするのはいつもの癖だ。扉に立っていたのは、とても背の高い男の人だった。


(外人さん……?背たっか。)


「お客様、何名様ですか?」


そう聞くと外人さんは少し私の方を見た後、「一人、です。」と指のジェスチャーも加えて教えてくれた。


「かしこまりました。お席まで、ご案内します!」


と言って、窓際の席の方へと案内した。


「新規一名入りました!」


「おっけー。」


キッチンの先輩に告げ、私は再びランチメニューを置き始めた。




「こちら、ペペロンチーノがお一つと、ガーリックのバケットお一つになります!以上でご注文の方宜しいでしょうか?」


外人さんの机に運ぶと、外人さんは不意に私の顔を見た後、少し微笑んで、


「ありがとう。」


と言った。


(反則だ……。めっちゃイケメンだし、ありがとうまで言ってくれるなんて……。)


イケメンは内面までイケメンなのだろうか。今日のディナーの疲れが全て吹き飛ぶようなスマイルを頂いてしまった。




ほとんど締めの作業が終わりつつある時に、さっきの外人さんが帰ろうとしていた。


(レジの方行かないとな……。)


ドリンクバーを閉めながら、外人さんの方を見ると、外人さんもこちらを見た。私は反射的に目を逸らしてしまった。


(見すぎてたかな?……気持ち悪いよね、ごめんなさい、外人さん……。)


心の中で反省をしながら、ドリンクバーの方へと向き直った。




レジの方でピンポンがなったのを聞いて、レジの方へと急ぐ。


「お待たせしました。お会計ですか?」


「はい、お願い、します。」


外人さんが伝票を私に差し出した。私は伝票を受け取り、レジへと入力する。


「お会計方法は如何されますか?」


「クレジットカード、で。」


(クレジットは、このボタンだよね。)


ボタンを押し、「画面光りましたら、差し込みかタッチの方お願いします。」と私は言った。それにしても、通信が遅いせいで、お客さんとの間に沈黙が生まれてしまう。レジの画面の方を見ていると、ふと視線を感じる。ふと、前を見ると、外人さんが私の頭を見ていた。


(何かついているとか……。さっき見られたのが気に障ったとか?)


「あの……。」


と私が言った途端、画面が光り出した。外人さんはクレジットカードをタッチし、会計をすませた。レシートが出てくる音がしたので、私は慌てて、レシートを切り離した。


「こちら、レシートになります。ありがとうございました!」


私がそう言って、レシートを渡すと、外人さんはブルーの瞳をゆっくりと細めて、微笑みながら、


「美味しかった。ありがとう。」


と言って、ポカンとしてる私を見て、さらに少し微笑みながら、出口の方へと行ってしまった。


(イ、イケメンだ……!)


しばらく立っていると、後ろから先輩に「大丈夫?」と声をかけられ、大きな声で「お客さん、さっきの人で全員です!」とパニックになりながら言った。


(また来てくれないかな。)


イケメンは私にとっては素晴らしい栄養である。見ているだけで癒されるのだから。今日は良い一日だったなと心の中で思った。




「美咲ちゃん!おはよう!」


「おはようございます!」


控え室で藤原先輩に声をかけられた。現在の時刻は午後六時であるが、仕事に入る前は必ず、おはようと挨拶をする。藤原先輩はみょうにニコニコしながら言った。


「美咲ちゃん、聞いた?新しく入ってくるバイトの子の話!」


「いえ、まだ……。新人さんくるんですか?」


「そうなの!それがね、もうめちゃめちゃイケメンで!留学生らしいよ!」


「留学生……、中国語も、英語話せないですけど、私仲良くなれますかね……?」


「ノンノン。心配しなくても大丈夫っぽいよ。日本語ペラッペラ!びっくりしちゃった!ドイツ出身だって。」


「ドイツ。」


留学生は私の知り合いにも何人かいるが、みんなアジア圏からの留学生が多い。ヨーロッパ圏の留学生と知り合えるのは初めてだ。ドイツ語は第二言語として大学でとっていたが、一年生の時にお情けで単位取得できたぐらいには下手くそだ。


「あれ、ドイツ語選択じゃなかったけ?」


「選択してたんですけど、下手くそで……全然喋れないんですよ。」


「そうなの?」


藤原先輩は不思議そうな顔で私の方を覗き込んだ。


「今日、もう入ってるらしいから。挨拶しときなよ!めっちゃイケメンだから、ビックリしちゃうかもよ?」




(あ、あの人か……。)


と頭を見て思う。金髪で後ろから見てもわかる背の高さ、そして腰の高さ。


「あの、こんにちは!」


後ろから声をかけると、その新人の人が私の方を向いた。金髪の髪に、二メートル近い身長、ほりが深く外国の人だとすぐにわかる顔立ちに、ブルーの瞳が輝いている。そして何より、イケメン。


(あれ、もしかして……一ヶ月前のお客さん?)


そう私が思っていると、新人の人から声がかけられた。


「初めまして。私はレオン・ミュラーです。」


(え、笑顔が眩しい……。)


「わ、私は、挾間美咲です。……えっと、ミュラーさん。」


「私のことはレオンって呼んで?」


「レオンさん。」


「レオン。」


(呼び捨てで呼んでほしいってこと?)


そう思い困惑していると、レオンさんは私に向き直して行った。


「私と、美咲は同い年だよ。」


「え。」


急な呼び捨てに驚いたのも束の間、五つぐらい年上かと思っていたのに、やっぱり外国の人って大人びて見えるんだなとも思う。


「ってことは、今大学二年生?」


「そう。大学二年生。……だから、レオンで、大丈夫。」


(私が大丈夫ではない……。)


こんなイケメンを呼び捨てにして許されるのは、絶世の美少女だけである。


「れ、レオンくんでもいい……?」


「……分かった。」


(少し、機嫌悪くした……?外国の人って敬称なしで呼ぶのが普通なのかな。)


と思いながら、


「これから、よろしく!」


「うん、よろしく。」


と挨拶をしてすぐに仕事へと入っていった。




「今日も、ラスト入ってくれてありがとね。」


「いえ、先輩もいつもお疲れ様です。」


いつも締めに入っているのはいつメンであるため、かなり先輩たちとも話せるようになってきた。


「今度、よく入ってる締めメンバーで飲み会とかやりたいよね。」


「いいですね。」


そんな会話をしながら、お店を閉めていると


「美咲。」


と声をかけられた。


「レオンくん……?」


振り返るとそこにはレオンくんが立っていた。レオンくんはすでに上がっていたはずだ。すると、レオンくんは私の方を見て行った。


「少し、話したいんだけど、いい?」


「いいよ?」


私がそういうと、レオンくんは微笑んだ。先輩はというと何を勘違いしたのかニヤニヤしたいたずらっ子のような顔で私の耳元に口を近づけながら言った。


「ちょっと、ちょっと!ミュラーくんとどういう関係?」


「えっと、少し話したぐらいで……同い年らしいです。」


「え!もしかして、ミュラーくん。美咲ちゃんに一目惚れとか?」


「絶対にそういうんじゃないですよ!」


「えー。本当かな?」


ニヤニヤする先輩を少し横目で流しながら、レオンくんの方を見た。すると、少し悲しい顔をしながら、私の方を見ている。ありえないのだ。こんなチンチクリンのただのどこにでもいるような女子大学生にこんなイケメンが一目惚れすることなど。


「じゃあねー!」


先輩が手を振って、私たちの元を離れていく。私も負けじと「お疲れまでしたー!」と大きな声を出して言った。




その後レオンくんと言ったのは、深夜でも空いていたカフェである。


「あの。」


「うん?」


「そんなに見られると、飲みにくいっていうか。」


「そう?……可愛いよ。」


「え。」


こんなに外国の人は距離が近いのだろうか。それに可愛いなんて、そんなナチュラルに口説いてくるものなのだろうか。頬杖をついて、レオンくんはずっと私の方を眺めている。レオンくんの手元のアイスコーヒーには結露した水滴が綺麗に残っている。


「そういえば、レオンくんは、どうして日本に来たの?」


「どうして……?」


私は真っ赤になった頬を誤魔化すために、レオンくんに質問をする。ずっとあんな目で見られれては、イケメンに殺されたと言われてもいいところである。


「……君に会いに?」


「え、冗談はやめてよ……。」


「冗談じゃないって言ったら?」


「?」


レオンくんは私が首を傾げているのを見てニコニコと笑っている。そして少し悲しげな顔をしていった。


「本当に、覚えてない、か。」


「何を?」


私は海外になんて行ったことは一度だってないし、幼馴染が外国のイケメンでしたなんて展開もあるはずがない。私の周りは日本人だらけだった。


「君は悩んでいる時、いつも前髪をいじるね。」


「いつも……?まだ会ったばっかり。」


「そうでしょ。」


レオンくんがなんで私の癖を知っているの?そう言葉にする間もなくレオンくんが言った。


「私と、美咲が、前世で恋人だったって言ったら、信じる?」


「え、何言って。」


「本当に。」


真剣な目でレオンくんはこちらを見た。そして、私の手を取った。


「私と君が恋人だった。君を一目見た瞬間分かった。ずっと探してた。私とまた、恋人になって欲しい。」


「……なんで、まだ、そんな仲良くないし。」


「仲良いとか関係ない。」


レオンくんの力が少し強くなる。


(なんか、怖い……。)


体が動かない。全身に力を込めているはずなのに、力がどこかに抜け落ちるような、逃げたいのに、今すぐ逃げ出したいのに、逃げられない。……足が動かない。


「世界中を探してた。ずっと君だけのことを追いかけていた。」


なんてロマンチックな言葉何だろうか。


「前世、君がいなくなってから。」


今、レオンくんはどこを見ているの?


「また、私と恋人になってくれるなら。」


レオンくんの瞳に知らない私が写っている。


「私と結婚して……?」


私は彼女ではない。プロポーズをしたレオンくんの瞳には執着が宿っていた。私はただ、レオンくんの顔を見つめ、青ざめたまま、指輪を左手の薬指へとはめられた。指輪はキラキラとカフェの照明を受けて光っている。


その金属の冷たさは、これから私が彼から逃れられないのだろうという未来を暗示しているようだった。

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