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紅炎戦記  作者: えみり
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最後の光

空の亀裂が広がる。


魔力の雨が王都を削る。


二人が並び、発動直前。


そのとき――


瓦礫の向こう。


微かな水の揺らぎ。


倒れていたリシェルの指が動く。


血に濡れ、呼吸は浅い。


それでも、目が開く。


「……やめなさいよ」


かすれた声。


グレイスが振り向く。


セラフィナも。


リシェルは起き上がれない。


それでも笑う。


「勝手に全部背負うの……ずるいわよ」


空を見上げる。


亀裂。


崩壊寸前の循環陣。


彼女は理解する。


理論派。


この世界の構造を、誰より考えてきた。


「……消す気なのね」


セラフィナが小さく頷く。


リシェルが少しだけ目を閉じる。


そして、笑う。


少し泣きそうに。


「ほんと、馬鹿」


視線がグレイスに向く。


そこにあるのは、もう執着じゃない。


未練でもない。


理解。


「生きなさいよ」


それだけ言う。


水の魔力が、ほんの少しだけ広がる。


暴走する魔力を、一瞬だけ緩和する。


時間が生まれる。


ほんの数秒。


でも十分。


リシェルの意識が落ちる。


静かに。


退場。



沈黙。


グレイスの胸に、戦場跡の記憶がよぎる。


瓦礫。


崩れかけた自分。


触れた手。


小さな氷刃。


あの日から始まった。


セラフィナの脳裏にも蘇る。


孤独。


力しかなかった日々。


共鳴。


初めて、並んで戦えた瞬間。


レオルの笑顔。


「お前と出会えて良かった」


葬送式の空。


王との死闘。


吹き飛ばされたあの瞬間。


初めて交わした言葉。


“好き”


全部、ここにある。


力で繋がったんじゃない。


選択で繋がった。


グレイスが言う。


「後悔は?」


セラフィナは首を振る。


「ない」


本当にない。


怖さはある。


でも迷いはない。


二人が手を重ねる。


今度の共鳴は、戦闘用じゃない。


外へ広げる。


世界規模へ。


グレイスが氷を展開。


凍らせるのは物質じゃない。


“循環”。


セラフィナが炎を重ねる。


燃やすのは命じゃない。


“魔力そのもの”。


空の巨大循環陣が反応する。


亀裂が光る。


世界中で氷の結晶が空へ伸びる。


同時に、赤い光が空へ昇る。


凍結と燃焼。


対極。


重なり。


衝突せず、貫通する。


循環陣に直撃。


世界が白くなる。


音が消える。


魔力の粒子が、空中で静止。


次の瞬間。


赤が走る。


静止した魔力が、燃え尽きる。


爆発はない。


崩壊もない。


ただ、


“消える”。


空の紋章が砕ける。


亀裂が消える。


魔力の雨が止む。


炎が消える。


氷が溶ける。


二人の覚醒紋章が、薄くなる。


黒紅が消える。


氷輪が消える。


最後に、微かな光。


そして――


完全な静寂。


風の音だけ。


グレイスが立っている。


セラフィナも。


力は感じない。


何も。


でも、生きている。


セラフィナが小さく笑う。


「……終わったね」


グレイスが頷く。


魔法のない世界。


始まり。

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