基礎という名の地獄
東の訓練所は、王城の裏手にあった。
華やかさはない。
土の匂い。
汗の匂い。
鉄の匂い。
実戦に出る前の者たちが、叩き上げられる場所。
「中央の坊主か」
初老の男が腕を組んで立っていた。
傷だらけの顔。
片目に古傷。
「俺は教官のバルド。甘い期待は捨てろ」
即座に木剣が投げられる。
「構えろ」
挨拶もない。
開始だ。
⸻
最初の一撃で、地面に叩きつけられた。
速い。
重い。
無駄がない。
「遅い!」
二撃目。
防御すら間に合わない。
「魔法に頼るな!」
三撃目。
視界が揺れる。
「基礎が空っぽだ!」
木剣が喉元で止まる。
「お前の氷は細い。だが細い刃ほど、研げば鋭くなる」
息が荒れる。
立ち上がる。
足が震える。
「もう一度だ」
⸻
朝から夕方まで。
走る。
打たれる。
転ぶ。
立つ。
氷刃を出せば、
「形を安定させろ!」
冷気を広げれば、
「制御が甘い!」
何度も砕ける氷。
何度も折れる心。
だが、不思議と諦める気にはならない。
ここは戦場じゃない。
死なない。
だから、やり直せる。
⸻
夜。
訓練場の隅。
俺は一人で氷を出す。
小さな刃。
呼吸を整える。
形を意識する。
震えを止める。
ゆっくり。
静かに。
刃が、崩れない。
ほんの少しだけ。
昨日より、長く保てる。
「……悪くない」
低い声。
振り返ると、セラフィナが立っていた。
夜の月明かりに、銀髪が淡く光る。
「見ていたのか」
「たまたま通っただけ」
嘘だろう。
だが追及はしない。
「焦らないことね」
紅い瞳が氷を見る。
「あなたの氷は、力で押すものじゃない」
それだけ言って、彼女は去る。
助言は短い。
だが残る。
力で押さない氷。
考える。
冷やすのではなく、凍らせる。
削るのではなく、締める。
刃が、少しだけ澄む。




