証明式
東訓練所・座学室。
夜。
灯りは一つだけ。
机の上には戦闘記録書と魔力観測水晶。
リシェルは一人、記録を見返していた。
第50話の戦闘記録。
氷の出力変動。
炎の魔力波形。
「……やっぱり」
水晶に触れる。
戦闘時の再生映像が浮かぶ。
魔物の踏み込み。
セラフィナが迎撃。
その直後、わずかに距離が開く。
炎出力、低下。
次の瞬間。
グレイスが割り込む。
距離が詰まる。
炎の魔力密度、急上昇。
「誤差じゃない」
数値で見ると明確。
波形が同期している。
氷の魔力振動に、炎が呼応している。
「共鳴……第二段階」
小さく呟く。
理論上は存在する。
だが前例はない。
異属性・同時高位覚醒者間での双方向強化。
普通なら干渉は打ち消し合う。
だがこの二人は違う。
氷が温度を奪い。
炎が温度を与える。
相殺ではなく、循環。
「だから、蒸気が生まれる」
戦場で一瞬だけ生まれた白い嵐。
あれは偶然じゃない。
リシェルは椅子にもたれ、天井を見る。
問題は、発動条件。
距離。
これは確定。
だがもう一つ。
「感情」
広場での嫉妬。
訓練場での動揺。
高台での不安定な炎。
全部、炎が揺れている。
セラフィナは自覚していない。
グレイスはもっと分かっていない。
でも。
二人が並んだ時だけ、安定する。
「……守る意思が一致した瞬間」
それが鍵。
リシェルは小さく笑う。
「最強の力が、恋愛依存なんてね」
少しだけ胸が痛む。
自分も彼を想っている。
それでも。
理論は理論。
事実は事実。
水晶に映る二人を見つめる。
背中合わせ。
呼吸が合う瞬間。
魔力波形が重なる。
美しい。
悔しいほどに。
「これ、放っておいたら危険ね」
感情が乱れれば、出力も乱れる。
戦場で喧嘩でもしたら最悪。
テンペストがそれを知れば――
利用する。
間違いなく。
リシェルは立ち上がる。
決意。
「知らないままじゃダメ」
二人に伝えるべきか。
それとも。
もう少し観測するか。
扉の向こう、夜風が入る。
遠くで雷が鳴る。
自然王国が動き始めている。
時間はない。
リシェルは小さく呟く。
「好きとか嫌いとか、言ってる場合じゃないわよ」
でもその声は、少しだけ震えていた。
理論派の少女は、確信に辿り着いた。
二人が並べば、最強は戻る。
そして。
その鍵は――感情。
嵐は近い。
証明は終わった。
あとは、どう扱うか。




