静かな予兆
王都北門外。
夕刻の警戒任務。
風が止む。
「……静かすぎる」
グレイスが呟く。
その横で、セラフィナが空を見上げる。
「来るわ」
地面が軋む。
次の瞬間――
土を割って現れた。
人型に近い樹の魔物。
無駄がない。
滑らかな樹皮。
整いすぎた魔力流。
完成されている。
「上位個体!」
リシェルが即座に叫ぶ。
「全員、陣形展開!」
周囲の兵士たちが散開する。
風属性の兵が足場を整え、
土属性の兵が防壁を築く。
魔物は無言で踏み込む。
速い。
氷刃が放たれる。
だが最小限の動きで回避。
「読まれてる……!」
グレイスが舌打ちする。
次の瞬間、地面から木槍が一斉に突き上がる。
「水壁展開!」
リシェルが両手を掲げる。
透明な水の膜が兵士たちを覆う。
衝撃を吸収。
だが水面にひびが走る。
「硬い……!」
今までの個体とは質が違う。
兵士の一人が吹き飛ばされる。
「っ、後退しろ!」
セラフィナが踏み込む。
炎が奔る。
だが魔物は炎の流れを“裂く”。
散る火花。
一瞬、セラフィナとの距離が開く。
炎の圧がわずかに落ちる。
(今……?)
その隙を突き、魔物が迫る。
氷壁が割り込む。
グレイスが隣に立つ。
距離が戻る。
その瞬間――
炎の色が、深く沈む。
重い赤。
一瞬だけ、かつての温度。
魔物の腕が焼き落ちる。
セラフィナが目を見開く。
だが次の瞬間には戻る。
気のせいかもしれない。
「今だ!」
グレイスが氷で足を凍らせる。
リシェルが即座に水を流し込む。
凍結強化。
魔物の動きが止まる。
「焼き切る!」
セラフィナが一点集中。
炎が刃のように収束する。
破壊ではなく、選別。
核だけを正確に貫く。
魔物は崩れ落ちる。
静寂。
兵士たちが息を吐く。
「……助かった」
「今の個体、今までと別物だぞ」
緊張が残る。
リシェルがゆっくり近づく。
「さっき、炎の色変わったわよね」
セラフィナは視線を逸らす。
「気のせいよ」
「グレイスも距離詰めた瞬間、空気変わった」
グレイスは首を傾げる。
「そうか?」
本気で分かっていない。
兵士の一人が言う。
「二人が並ぶと……空気が違う」
小さなざわめき。
まだ確信ではない。
だが、何かが噛み合いかけた。
遠く西の空。
雷雲がゆっくりとうねる。
自然王国。
玉座の間。
テンペストは報告を受け、薄く笑う。
「単体でそれを退けるか」
紫雷が走る。
「次は私が確かめよう」
王が動く。
王都の空はまだ静かだ。
だが確実に。
氷と炎は、呼応し始めている。
それはまだ未完成。
嵐の前の、静かな予兆。




