未熟な氷
王城内、簡易演習場。
石造りの広間に、東の兵と数名の魔導官が集まっていた。
中央出身の少年。
それが俺の評価だ。
「魔力を出せ」
試験官の男が言う。
二十代後半。整った鎧。余裕のある目。
俺は掌を上に向ける。
冷気が集まり――
小さな氷刃が生まれる。
静まり返る空間。
そして、失笑。
「……それだけか?」
声が刺さる。
分かっている。
弱い。
細い。
投げれば折れる。
「次。模擬戦だ」
木剣を渡される。
相手は東の若手兵。
構えが洗練されている。
開始の合図。
俺は踏み込む。
氷刃を生成、牽制。
だが一瞬で距離を詰められる。
衝撃。
腹に木剣が叩き込まれる。
息が詰まる。
膝が床に落ちた。
終わりだ。
あまりにも簡単に。
⸻
「話にならんな」
試験官が冷たく言う。
「中央の孤児を城に入れる理由が分からん」
ざわめきが広がる。
当然の評価だ。
俺は拳を握る。
氷が震える。
悔しさで、形が歪む。
その時。
「待ちなさい」
静かな声。
セラフィナだ。
全員が道を開ける。
彼女は俺の前に立つ。
床に落ちた氷の欠片を拾い上げる。
じっと見つめる。
そして、魔導官へ向ける。
「測定水晶を」
差し出された透明な結晶。
彼女が氷片を近づける。
――パキ。
小さな音。
水晶の内側に、白い霜が走る。
魔導官の表情が変わる。
「……魔力量は低い。だが」
もう一度、水晶が鳴る。
霜は内部だけを凍らせ、外側には干渉しない。
「干渉純度が異常に高い」
ざわめきが止まる。
試験官が眉をひそめる。
「偶然では?」
「違うわ」
セラフィナが即答する。
紅い瞳が俺を見る。
「この氷は、まだ粗い。でも――濁っていない」
その言葉が胸に落ちる。
濁っていない。
魔導官が頷く。
「基礎から叩き込めば、伸びる可能性はある」
沈黙。
やがて試験官が息を吐く。
「……訓練所送りだ。正式兵扱いではない」
当然だ。
今の俺は、足手まとい以下。
⸻
演習場を出る。
腹の痛みはまだ消えない。
「悔しい?」
隣でセラフィナが聞く。
「当たり前だ」
即答だった。
彼女はわずかに頷く。
「なら、問題ない」
それだけ。
慰めはない。
同情もない。
ただ事実。
俺は拳を握る。
小さな氷が生まれる。
さっきより、わずかに安定している。
「……強くなる」
誰に向けたわけでもない。
ただ、自分に言う。
セラフィナは何も言わない。
だが、歩幅を合わせた。
炎の国。
訓練所。
未熟な氷は、ここで鍛えられる。




