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紅炎戦記  作者: えみり
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知らない熱

王都・中央広場。


任務帰りの兵士たちで賑わっている。


グレイスは補給担当の若い女性兵に呼び止められていた。


「この前の任務、すごかったです!」

「第二覚醒なんですよね?」


距離が近い。


笑顔。


純粋な尊敬。


グレイスは少し困った顔で頭を掻く。


「いや、まだ未熟だ」


その様子を――


少し離れた場所から、赤い瞳が見ていた。


セラフィナ。


(……距離が近い)


ただそれだけのこと。


任務後の報告。


普通の会話。


問題ない。


何も問題ない。


なのに。


胸の奥がじわりと熱い。


炎とは違う熱。


不快な、ざらついた感覚。


女性兵が笑いながら言う。


「今度、訓練見てもらえませんか?」


一瞬、間。


グレイスは真面目に答える。


「ああ、時間が合えば」


その瞬間。


ぼっ、と。


セラフィナの足元の石畳が黒く焦げた。


「っ!?」


周囲の兵が振り向く。


セラフィナは無表情。


「足元が滑っただけよ」


滑ってない。


完全に焼いた。


リシェルが横で呟く。


「何怒ってるの?」


「怒ってない」


即答。


声が低い。


「眉間、寄ってるけど」


「寄ってない」


寄ってる。


広場の向こう。


女性兵が軽くグレイスの腕に触れる。


その瞬間。


胸の奥が強く締めつけられる。


ドクン、と心臓が跳ねる。


(……何これ)


息が浅くなる。


視界が少し狭まる。


「セラフィナ?」


リシェルが覗き込む。


セラフィナは視線を逸らさないまま言う。


「……別に」


でも足は動いていた。


無意識に。


まっすぐ二人の方へ。


「グレイス」


声がいつもより低い。


女性兵がびくっとする。


「セ、セラフィナ様!」


周囲の空気が一瞬で張り詰める。


炎の第三覚醒到達者。


無意識の威圧。


グレイスが首を傾げる。


「どうした?」


「次の任務の確認よ」


嘘。


そんな予定ない。


「今?」


「今」


即答。


女性兵が空気を察する。


「あ、あの、私はこれで……!」


逃げるように去っていく。


静寂。


グレイスは本気で不思議そうな顔。


「任務、何かあったか?」


セラフィナは彼を見つめる。


少しだけ息が荒い。


胸がうるさい。


(なんで、あんな顔するの)


(なんで、あんな距離で笑うの)


言葉にならない。


代わりに出たのは。


「……あまり軽率に約束しないことね」


「?」


「時間が合えば、じゃない」


「何がだ?」


「……なんでもない」


くるりと背を向ける。


炎が揺れる。


不安定。


グレイスが小さく言う。


「怒ってる?」


「怒ってない!」


即答。


振り向きざまに言い切る。


その瞳は、ほんの少しだけ潤んでいる。


本人は気づかない。


リシェルが横で静かに呟く。


「それ、嫉妬よ」


「違う」


迷いゼロ。


「私は戦力管理をしているだけ」


「腕触られた瞬間、石畳溶けたけど?」


「気のせい」


言い切る。


だが。


胸の奥のざらつきは消えない。


ぽつりと呟く。


「……ああいうの、嫌なのよ」


小さな、本音。


自分でも意味が分からない。


グレイスが言う。


「なら断る」


即答。


「え?」


「嫌なら断る。俺、別に興味ないし」


その一言。


胸の熱が、すっと引く。


代わりに、別の温かさが広がる。


(……なんで、安心するの)


理解できない。


だから結論を出す。


「当然よ。今は強くなることが最優先」


「そうだな」


頷くグレイス。


噛み合っているようで、噛み合っていない。


セラフィナは小さく胸を押さえる。


(これは、ただの独占欲)


(仲間として当然)


(それだけ)


何度も自分に言い聞かせる。


でも。


視線はまた、彼を追っている。


炎は、静かに揺れ続けていた。

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