これは、なんだ?
王都・訓練場。
木剣の打撃音が乾いた空気に響く。
グレイスが黙々と素振りをしている。
氷は使わない。
純粋な身体強化。
その姿を――
柱の陰から、じっと見つめる赤い瞳。
セラフィナ。
(重心が高い)
(踏み込みが甘い)
(隙だらけ)
評価は冷静。
なのに。
視線が離れない。
「……何してるの?」
背後から声。
リシェル。
セラフィナは一瞬肩を震わせる。
「戦力観察よ」
即答。
「三十分?」
「……継続観察」
リシェルはため息。
グレイスが汗を拭う。
その仕草に、セラフィナの目がわずかに柔らぐ。
リシェルは確信する。
(これ、完全に好き)
だが当人は真顔で言う。
「最近、あいつを見ると胸の奥が妙に熱いの」
「へぇ」
「炎の制御が不安定なのかしら」
「違うわね」
「鼓動も速くなる」
「うん」
「距離が近いと落ち着かない」
「うん」
「他の女と話してると、少し苛立つ」
「はい」
「でも別にどうでもいいわ」
「全然どうでもよくない」
即否定。
セラフィナは本気で首を傾げる。
「強者を目で追うのは当然でしょう」
「その目、戦闘用じゃないけど?」
無視。
グレイスが転びそうになる。
セラフィナの足が反射的に前に出る。
止まる。
(助ける必要はない)
でも心臓が跳ねる。
「そこ、重心が高い!」
思わず声が出る。
グレイスが振り向く。
「お前いたのか」
「今来た」
嘘。
三十分前からいる。
近づく。
距離が縮む。
鼓動が跳ねる。
(近い)
「顔赤いぞ」
「鍛錬で体温が上がってるだけよ!」
「俺じゃなくて?」
「違う!」
強い否定。
リシェルが額を押さえる。
セラフィナは胸を押さえる。
(なんなの、これ)
戦場ではこんな感覚ない。
王と対峙しても冷静だった。
なのに。
「……あいつが死にかけた時」
小さく呟く。
「怖かったのよ」
グレイスが言う。
「仲間だからだろ?」
止まる。
(仲間)
それだけ?
胸の奥が、少しだけ否定する。
でも分からない。
言葉にできない。
リシェルがぼそっと言う。
「それ、好きって言うのよ」
「違う」
即答。
迷いゼロ。
「私はそんな感情に振り回されない」
だが。
視線はまた彼を追う。
無意識で。
完全に。
小さく呟く。
「……守りたいだけよ」
本人だけが、分かっていない。
炎は、もう揺れているのに。




