炎都アグニス
城壁が、朝日に赤く染まっていた。
赤銅色の塔がいくつも空へ伸び、
街全体がまるで巨大な炉の中にあるように見える。
東の王都。
炎都アグニス。
門前には兵が並び、厳重な警戒が敷かれている。
俺はその巨大さを見上げた。
中央とは、まるで違う。
「……聞きたいことがある」
門の前で、俺は言った。
セラフィナは視線を城壁に向けたまま答える。
「何?」
「お前は何者だ」
わずかに沈黙。
それから、静かに言う。
「東の守護家系、インフェルナ家の娘セラフィナ」
簡潔だった。
誇示も威圧もない。
ただ事実。
「守護家系……」
「この国では、力は責任よ」
紅い瞳がこちらを向く。
「強ければ守る。立てば象徴になる」
それ以上は語らない。
だが十分だった。
兵が整列し、槍を打ち鳴らす。
「帰還を確認!」
声が走る。
空気が一瞬で引き締まる。
門が軋みながら開き始める。
その重厚な音の中で、俺はもう一つ聞いた。
「どうして戦う」
彼女は前を向いたまま答える。
「戦わなければ、守れないから」
迷いはない。
ただの選択。
その覚悟が、この国を支えている。
⸻
門が開き切る。
セラフィナが歩き出す。
俺もその隣に並ぶ。
街へ足を踏み入れる。
⸻
石畳は整い、建物は焼けていない。
中央の荒廃とは別世界だ。
人々が立ち止まり、視線を向ける。
尊敬。
安堵。
そして――期待。
「おかえりなさい」
年配の女が頭を下げる。
子供が笑顔で手を振る。
セラフィナは立ち止まらない。
だが、無視もしない。
「ただいま」
短く、それだけ。
それだけで、人々の顔が明るくなる。
この国にとって、彼女は象徴だ。
守る者。
揺るがぬ炎。
⸻
俺は、明らかに浮いていた。
服は煤だらけ。
中央の孤児。
「あの少年は……?」
「中央の子だ」
囁きが聞こえる。
歓迎ではない。
警戒。
当然だ。
戦争地帯の人間を、なぜ連れてきたのか。
その疑問が街に漂う。
⸻
城へ続く石段の前で、衛兵が道を塞ぐ。
「セラフィナ様、その者は?」
真剣な目。
彼女は即答する。
「私の客よ」
一言。
それだけで道は開く。
だが納得はしていない。
俺は分かる。
ここで俺は守られている。
それが、何よりも悔しい。
⸻
石段を上りながら、俺は言う。
「俺は、ここで何をすればいい」
「まずは生き延びること」
現実的な答え。
「この国は力を評価する。血ではなく、実力でね」
紅い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「証明しなさい。グレイス」
王都の門が閉じる音が響く。
外の戦場と切り離される音。
ここからは別の戦いだ。
炎の国で。
強くなるための戦いが始まる。




