樹哭
王都に警鐘が鳴る。
重い鐘の音。
三連続。
緊急出動。
訓練場にいた三人が同時に顔を上げる。
伝令兵が駆け込む。
「西方国境付近!巨大樹型魔物出現!」
セラフィナの目が細まる。
「自然系?」
「はい……ですが、通常種ではありません!」
続報。
「自我反応あり。魔力波形、西の王と酷似」
空気が変わる。
テンペストの影。
グレイスの胸が静かに熱を帯びる。
レオルを奪った戦い。
あの嵐の主。
「出るわよ」
セラフィナの声は冷静。
だが炎が少し濃い。
森の外縁。
それはいた。
巨木のような体躯。
枝が腕のように蠢く。
根が地面を抉り、進む。
目はない。
だが意思はある。
兵士たちが吹き飛ばされる。
「第三小隊後退!」
セラフィナが前へ出る。
「グレイス、拘束」
「了解」
氷が地面を走る。
根を凍らせる。
だが――
瞬間、枝が爆発的に伸びる。
氷を砕く。
「硬い!」
リシェルが水刃を放つ。
切断。
しかし切った先から再生。
「再生型……!」
セラフィナが炎を放つ。
焼く。
再生が鈍る。
「焼却が有効!」
だが枝が広範囲に拡散。
四方から襲う。
グレイスが踏み込む。
停止干渉を一点集中。
巨大幹の一部を凍結。
「今!」
セラフィナが炎を重ねる。
氷と炎の同時圧縮。
爆ぜる。
幹が抉れる。
だが魔物は咆哮のように震動する。
地面からさらに根が噴き出す。
「本体は地下……!」
リシェルが叫ぶ。
セラフィナは一瞬だけ考える。
出力は半減。
長期戦は不利。
その瞬間。
巨大な枝がグレイスへ。
死角。
間に合わない。
「グレイス!」
セラフィナが踏み出す。
だが――
氷が先に動く。
地面ごと凍結。
枝が止まる。
グレイスが逆に枝を断つ。
「隊長、下がれ」
一瞬、目が合う。
守る側の視線。
セラフィナの胸が強く鳴る。
(……また)
違う。
さっきと違う。
頼もしい。
誇らしい。
そして――
嬉しい。
リシェルが水圧を地面へ。
地下の本体位置を特定。
「中央三メートル下!」
セラフィナが息を吸う。
炎を圧縮。
第三覚醒は使えない。
だが。
精度で穿つ。
「道を開けなさい!」
氷が地面を裂く。
水が押し流す。
炎が一点へ。
爆発。
地面が崩れる。
地下の核樹が露出。
グレイスが跳ぶ。
停止干渉、最大。
再生を止める。
「今だ!」
炎が貫く。
核樹が炭化。
巨体が崩れ落ちる。
静寂。
森が戻る。
兵士たちが息を吐く。
勝利。
だが全員、息が荒い。
セラフィナはグレイスを見る。
さっきの瞬間。
守られた。
それがまだ胸に残っている。
リシェルも見る。
二人の視線の交差。
少しだけ、ちくり。
セラフィナは視線を逸らす。
炎が、ほんの少し赤い。
「……よくやった」
短い言葉。
だが声が柔らかい。
グレイスは頷く。
「隊長も」
その距離が近い。
リシェルが間に入る。
「私もいるんだけど?」
少し拗ねた声。
三人が並ぶ。
だが全員が理解している。
これはただの魔物ではない。
テンペストは動いている。
試している。
東の戦力を。
そして。
三人の連携は、確実に一段上がった。
森の奥。
焦げた樹の残骸に、微かな紫雷の痕。
誰も気づいていない。
西の王は、まだ遠い。
だが影は確実に伸びている。




