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紅炎戦記  作者: えみり
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揺れる炎

早朝の訓練場。


「集中」


セラフィナの声はいつも通り。


鋭く、無駄がない。


だが今日は、ほんの少しだけ視線が泳ぐ。


グレイスが氷刃を展開する。


動きは以前より滑らかだ。


停止干渉の範囲も広がっている。


「踏み込みが甘い」


炎で弾く。


距離が近い。


息が触れそうな距離。


一瞬、鼓動が速くなる。


(……近い)


自分で距離を詰めたのに、胸がざわつく。


グレイスは真剣だ。


何も気づいていない顔。


それがまた、落ち着かない。


横から水弾が飛ぶ。


「後ろ!」


リシェル。


完璧なタイミング。


氷と水の連携。


炎を挟み込む。


セラフィナは跳躍。


空中で炎を散らす。


「いい連携」


短い評価。


リシェルの顔が明るくなる。


グレイスも少し嬉しそうだ。


二人が自然に視線を合わせる。


その瞬間。


胸の奥が、またざわりと揺れる。


(……また)


理由は分かりかけている。


でも、認めたくない。


「今日は実戦形式で行くわ」


森の外縁。


中型魔獣の討伐任務。


三人小隊で十分な相手。


魔獣が咆哮する。


突進。


「右から来る!」


グレイスが氷壁を展開。


リシェルが水で足場を滑らせる。


セラフィナが炎で軌道を断つ。


連携は滑らか。


ほとんど迷いがない。


魔獣が跳ぶ。


グレイスが踏み込む。


危険な間合い。


(無茶を――)


体が先に動く。


炎が覆う。


セラフィナが前に出る。


魔獣の爪を弾く。


「下がって!」


声が強い。


グレイスが一瞬驚く。


魔獣はすぐに氷と水で拘束。


最後は炎で終わる。


任務完了。


静寂。


リシェルが息を吐く。


「今の、危なかったわよ」


グレイスは苦笑する。


「大丈夫だ」


「大丈夫じゃないから言ってるの!」


自然なやり取り。


セラフィナは少し遅れて歩く。


胸が、まだ速い。


さっきの瞬間。


無意識だった。


守らなきゃ、と強く思った。


隊員だから?


それだけ?


違う。


リシェルが危険に踏み込んだ時とは、少し違う感覚。


もっと、鋭い。


もっと、焦る。


夕暮れ。


森を抜ける。


グレイスが隣に並ぶ。


「さっきは、ありがとう」


真っ直ぐな視線。


セラフィナの胸が跳ねる。


「隊長として当然よ」


即答。


でも少し早口。


グレイスは頷く。


「でも、無理するな」


その言葉に、足が止まりそうになる。


自分が言った言葉。


あの日。


丘の上で。


「……生意気」


小さく笑う。


だが視線は逸らす。


リシェルが前を歩きながら、ちらっと振り返る。


二人の距離が近い。


胸が少しちくりとする。


(……私だって)


歩幅を落とし、二人の間に入る。


「帰ったら報告よ。隊長」


わざとらしく強調。


セラフィナは一瞬だけむっとする。


(なにその顔)


自分でも驚く。


今の、完全に拗ねた。


理由は分かってきている。


市場で見た時。


訓練で目が合った時。


さっき守った瞬間。


全部、同じ感覚。


胸がざわつく。


取られたくない、と。


(……取られるって何よ)


最強の兵士が、何を考えている。


でも。


否定できない。


グレイスがリシェルに何か言って笑う。


それを見ると、少しだけ面白くない。


そして。


自分が隣にいると、落ち着く。


気づきかけている。


でもまだ、言葉にはならない。


王都の灯りが見える。


セラフィナは空を見上げる。


炎が、ほんのり赤い。


(……好き、とかじゃないわよね)


問いかける。


答えは、まだ出ない。


でも。


前より少しだけ、


分かってしまった。

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