表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅炎戦記  作者: えみり
36/71

休日

王都。


珍しく任務のない日。


市場は賑やかで、平和そのものだ。


「……暇ね」


リシェルが腕を組む。


グレイスは武具店の前で剣を眺めている。


「整備だ」


「そういうの、今日じゃなくてもいいでしょ」


強引に腕を引く。


「たまには街を見なさい。隊長命令よ」


「隊長はセラフィナだろ」


「副隊長代理よ!」


勝手に役職を作る。


グレイスは少しだけ笑う。


それを見て、リシェルの胸が跳ねる。


(あ、今の笑顔……ずるい)


最近、距離が近い。


セラフィナと。


訓練中も、任務中も。


自然に並んでいる。


それを見るたび、胸の奥がちくりとする。


(負けない)


決意。


「ほら、こっち」


市場の奥へ引っ張る。


屋台。


甘い匂い。


焼き菓子。


「これ、半分」


勝手に買う。


グレイスに押し付ける。


「……甘い」


「いいのよ、疲れてるんだから」


距離が近い。


肩が触れる。


心臓がうるさい。


(近い近い近い……!)


でも離れない。


むしろ、少し寄る。


「ねぇ」


「なんだ」


「……私がいなかったら、困る?」


唐突。


グレイスが瞬きをする。


「困る」


即答。


「水の制御はお前が一番だ」


リシェルの顔が一瞬しゅんとする。


「そっちじゃなくて!」


赤くなる。


「その……私が、いなくなったら」


グレイスは少し考える。


真面目に。


「嫌だな」


短い言葉。


でも嘘はない。


リシェルの心臓が跳ねる。


(なにそれ……)


顔が熱い。


嬉しい。


嬉しいけど。


「……ばか」


小さく呟く。


その様子を、少し離れた通りの向こうから見ている影。


セラフィナ。


偶然、任務報告の帰り。


視界に入った。


二人の距離。


焼き菓子を半分こ。


肩が触れる。


笑顔。


胸が、ざわりと揺れる。


(……何これ)


視線を逸らす。


また見る。


胸の奥が落ち着かない。


炎が、わずかに濃くなる。


(別に、ただの隊員同士)


そう。


それだけ。


でも。


リシェルが笑う。


グレイスが少し照れる。


それを見た瞬間、


胸がきゅっと締まる。


(……なんで)


理由が分からない。


戦場では感じない感覚。


テンペストと向き合った時より、落ち着かない。


セラフィナは一歩下がる。


気づかれないように。


(私は、最強の兵士)


隊長。


守る側。


なのに。


どうして、こんな。


市場の喧騒が遠くなる。


胸の奥がざわざわする。


「……意味わからない」


小さく呟く。


炎が、ほんのり赤い。


一方。


リシェルは意を決する。


「今度、二人で来ない?」


言ってしまった。


心臓が止まりそう。


グレイスが首を傾げる。


「二人?」


「そう、二人」


視線を逸らす。


「別に、任務とかじゃなくて」


沈黙。


数秒。


「……いいぞ」


あっさり。


リシェルの脳が止まる。


「え」


「暇な日なら」


真顔。


悪気ゼロ。


(え、え、え!?)


嬉しい。


でも落ち着け。


「……決まりね」


平静を装う。


でも歩幅が軽い。


少し遠くで。


セラフィナは空を見上げる。


胸のざわつきが消えない。


理由は分からない。


ただ。


なんとなく、面白くない。


「……馬鹿みたい」


そう言いながら、


視線は、二人から離れなかった。


夕暮れが三人を包む。


まだ誰も、自分の気持ちの名前を知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ