休日
王都。
珍しく任務のない日。
市場は賑やかで、平和そのものだ。
「……暇ね」
リシェルが腕を組む。
グレイスは武具店の前で剣を眺めている。
「整備だ」
「そういうの、今日じゃなくてもいいでしょ」
強引に腕を引く。
「たまには街を見なさい。隊長命令よ」
「隊長はセラフィナだろ」
「副隊長代理よ!」
勝手に役職を作る。
グレイスは少しだけ笑う。
それを見て、リシェルの胸が跳ねる。
(あ、今の笑顔……ずるい)
最近、距離が近い。
セラフィナと。
訓練中も、任務中も。
自然に並んでいる。
それを見るたび、胸の奥がちくりとする。
(負けない)
決意。
「ほら、こっち」
市場の奥へ引っ張る。
屋台。
甘い匂い。
焼き菓子。
「これ、半分」
勝手に買う。
グレイスに押し付ける。
「……甘い」
「いいのよ、疲れてるんだから」
距離が近い。
肩が触れる。
心臓がうるさい。
(近い近い近い……!)
でも離れない。
むしろ、少し寄る。
「ねぇ」
「なんだ」
「……私がいなかったら、困る?」
唐突。
グレイスが瞬きをする。
「困る」
即答。
「水の制御はお前が一番だ」
リシェルの顔が一瞬しゅんとする。
「そっちじゃなくて!」
赤くなる。
「その……私が、いなくなったら」
グレイスは少し考える。
真面目に。
「嫌だな」
短い言葉。
でも嘘はない。
リシェルの心臓が跳ねる。
(なにそれ……)
顔が熱い。
嬉しい。
嬉しいけど。
「……ばか」
小さく呟く。
その様子を、少し離れた通りの向こうから見ている影。
セラフィナ。
偶然、任務報告の帰り。
視界に入った。
二人の距離。
焼き菓子を半分こ。
肩が触れる。
笑顔。
胸が、ざわりと揺れる。
(……何これ)
視線を逸らす。
また見る。
胸の奥が落ち着かない。
炎が、わずかに濃くなる。
(別に、ただの隊員同士)
そう。
それだけ。
でも。
リシェルが笑う。
グレイスが少し照れる。
それを見た瞬間、
胸がきゅっと締まる。
(……なんで)
理由が分からない。
戦場では感じない感覚。
テンペストと向き合った時より、落ち着かない。
セラフィナは一歩下がる。
気づかれないように。
(私は、最強の兵士)
隊長。
守る側。
なのに。
どうして、こんな。
市場の喧騒が遠くなる。
胸の奥がざわざわする。
「……意味わからない」
小さく呟く。
炎が、ほんのり赤い。
一方。
リシェルは意を決する。
「今度、二人で来ない?」
言ってしまった。
心臓が止まりそう。
グレイスが首を傾げる。
「二人?」
「そう、二人」
視線を逸らす。
「別に、任務とかじゃなくて」
沈黙。
数秒。
「……いいぞ」
あっさり。
リシェルの脳が止まる。
「え」
「暇な日なら」
真顔。
悪気ゼロ。
(え、え、え!?)
嬉しい。
でも落ち着け。
「……決まりね」
平静を装う。
でも歩幅が軽い。
少し遠くで。
セラフィナは空を見上げる。
胸のざわつきが消えない。
理由は分からない。
ただ。
なんとなく、面白くない。
「……馬鹿みたい」
そう言いながら、
視線は、二人から離れなかった。
夕暮れが三人を包む。
まだ誰も、自分の気持ちの名前を知らない。




