再火
王都外縁、訓練場。
朝霧の中。
氷が砕ける音が響く。
「遅い」
セラフィナの声。
グレイスの氷刃が、炎に弾かれる。
以前より鋭い。
だが、まだ足りない。
「止めるだけじゃない。奪いなさい」
彼女の炎は以前より穏やかだ。
出力は落ちている。
だが制御は研ぎ澄まされている。
「力が半分なら、精度を倍にする」
弱体化を言い訳にしない。
その姿勢が、グレイスを奮い立たせる。
「もう一度」
踏み込む。
氷を展開。
停止干渉を一点集中。
炎とぶつかる。
今度は――割れない。
セラフィナの目が細まる。
「いい」
短い称賛。
胸が少し熱くなる。
横ではリシェルが水弾を展開している。
理論的軌道。
以前より明らかに速い。
「氷と水の連携、やるわよ!」
強気な声。
だが視線は一瞬、セラフィナとグレイスの距離を測る。
二人が近い。
指導とはいえ、近い。
胸が少しざわつく。
「グレイス、左!」
水が視界を遮る。
その瞬間、氷が横から刺す。
炎に当たる。
セラフィナがわずかに後退。
「……合格」
その一言で、二人の呼吸が揃う。
訓練は日々続いた。
朝から夕方まで。
氷は鋭さを増し、
水は精密さを増す。
セラフィナは、直接打ち合わず、
隙を突く技術を叩き込む。
「正面から王に勝つ必要はない」
「崩しなさい」
グレイスは学ぶ。
力ではなく、構造。
止めるのではなく、断つ。
数週間後。
小規模魔獣討伐任務。
初めての正式任命。
教官ではなく――
セラフィナ直属。
「本日より、あなたたちは私の小隊」
淡々と言う。
だが、ほんの少しだけ誇らしげ。
グレイスの胸が高鳴る。
リシェルも背筋を伸ばす。
森の奥。
大型魔獣出現。
突進。
「リシェル!」
「任せて!」
水壁で軌道を逸らす。
「今!」
氷が脚部を停止。
一瞬。
その隙に、セラフィナの炎が首を断つ。
鮮やか。
無駄がない。
連携。
任務成功。
兵士たちが安堵する。
「すごい……」
若手兵の声。
グレイスは息を整える。
以前より確実に強い。
セラフィナが近づく。
「よくやった」
自然に、頭を軽く叩く。
その距離。
近い。
リシェルの眉がぴくりと動く。
「私も活躍したわよね?」
少し拗ねた声。
セラフィナが笑う。
「もちろん。理論派は頼りになる」
リシェルの頬が赤くなる。
だが視線は、またグレイスへ。
任務後。
帰路。
三人並んで歩く。
夕日が長い影を落とす。
「……強くなったわね」
セラフィナが言う。
グレイスは少し照れる。
「まだ足りない」
「当たり前」
即答。
だが優しい。
リシェルは横から言う。
「でも、前より頼れる」
少しだけ、素直。
沈黙の後。
セラフィナが歩幅を合わせる。
グレイスの隣。
以前より自然な距離。
炎が、ほんのり赤い。
「次も行くわよ」
その言葉に、二人は頷く。
小隊は歩き出す。
喪失の後。
傷は消えない。
だが。
前へ進む力は戻った。
そして、
東の最強兵士の隣には、
確実に並び始めた少年がいる。
その様子を、
リシェルは横目で見ながら、
小さく息を吐いた。
「……負けないんだから」
小さな宣戦布告。
夕日は沈む。
だが今度の闇は、重くない。




