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紅炎戦記  作者: えみり
33/71

紫雷の静観

西方。


黒雲に覆われた王城。


玉座の間に、低い雷鳴が響く。


王テンペスト・グラードは座していた。


右腕は、失われたまま。


肩口は焼け焦げ、再生もしていない。


胸部には深い焼損。


呼吸のたび、紫雷が内部を巡る。


命を無理やり繋ぐ、荒々しい循環。


それでも。


威圧は消えない。


空間が軋む。


風が集まり、歪む。


現れたのはゼノ。


全身に裂傷。


血が乾いている。


片目は閉じたまま。


膝をつく。


「任務、未達」


短い報告。


テンペストは見下ろす。


「若手兵に第二覚醒が二名」


「一人は風。私と同系統」


「もう一人は氷。停止干渉を確認」


沈黙。


紫雷がわずかに弾ける。


「それで、退いたか」


ゼノは答える。


「長期戦は不利と判断」


正しい判断。


王が重傷。


右腕欠損。


第三覚醒連発不可。


西も万全ではない。


テンペストは数秒、目を閉じる。


思い出すのは――


あの炎。


限界圧縮。


魔力循環を焼く覚悟。


そして。


ゼノを押し返した若手の覚醒。


「……退かせたのは、セラフィナだけではないな」


ゼノはわずかに顔を上げる。


「はい」


「風の少年が一撃を入れました」


「氷の少年が停止させ、戦線を崩しました」


静かな報告。


誇張はない。


テンペストの口元が、わずかに動く。


笑ったのかどうかも分からない程度。


「東も、完全に鈍ってはいないか」


立ち上がる。


片腕のまま。


それでも、空気が沈む。


「面白い」


怒りではない。


警戒でもない。


興味。


テンペストは窓の外を見る。


黒雲の向こう。


遠い東。


「覚醒は偶然か、必然か」


紫雷が指先に走る。


「いずれ、分かる」


ゼノは問わない。


王が動く時は、命じる時だ。


「今は静観する」


テンペストが言う。


「力を戻す」


それだけ。


西は退いた。


だが終わっていない。


均衡は崩れたまま。


紫雷が、低く鳴った。

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