王と炎
紫雷が夜を裂く。
別都市。
空を覆うのは、巨大な雷樹。
幹は空へ伸び、枝は街を貫き、根は地面を抉る。
自然王テンペスト・グラード。
世界最強の一角。
その前に立つのは、セラフィナ・インフェルナ。
炎が足元から立ち昇る。
「随分と派手ね」
テンペストが笑う。
「王都は二つに割れた。愚策だな」
紫雷が落ちる。
セラフィナは動かない。
炎が弾く。
爆ぜる衝撃。
街の外縁は既に半壊。
だが中心部は守られている。
セラフィナの炎が、侵攻を止めているからだ。
「右腕は王都近郊へ向かった」
テンペストの声は余裕に満ちている。
セラフィナの瞳が、わずかに揺れる。
だが、感情は出さない。
炎が広がる。
紅蓮の翼が空を染める。
「あなたを倒す方が先よ」
雷樹が唸る。
地面から無数の雷蔓が伸びる。
セラフィナは炎を圧縮する。
第三覚醒の気配が、滲む。
空気が震える。
炎と雷が衝突。
光が都市を包む。
テンペストは一歩も退かない。
「良い」
紫雷鎧が形成される。
「やはり貴様は王だ」
拳と炎がぶつかる。
衝撃波が街外縁を削る。
セラフィナは押し返す。
だが決定打には至らない。
テンペストは笑う。
「焦っているな」
雷が視界を奪う。
「背後が気になるか?」
一瞬。
ほんの一瞬。
セラフィナの炎が揺れる。
その隙を、雷樹が貫く。
直撃。
だが。
炎が爆ぜ、衝撃を相殺する。
ダメージはない。
だが――
“当たった”。
テンペストの目が細まる。
「若い」
セラフィナは何も言わない。
炎を再圧縮。
「雷樹天臨」
都市上空に、巨大な雷樹の幻影。
第三覚醒。
王の本気。
セラフィナの炎が天を焦がす。
紅蓮が夜を昼に変える。
二つの王が、世界を揺らす。
遠く。
一瞬だけ。
セラフィナの胸がざわついた。
理由のない、不安。
だが王は、振り向かない。
振り向けない。
炎がさらに高く燃え上がる。
紫雷と紅炎が空を裂き続ける。
その頃――
風は、もう止まっていなかった。




