同時侵攻
最初に異変に気づいたのは、リシェルだった。
「……風が、ない」
王都近郊の街。
布も、木々も、揺れない。
空が歪む。
圧が落ちる。
建物が軋む。
同時に、遠方の空が紫雷で裂けた。
伝令が叫ぶ。
「別都市に自然王テンペスト出現!!」
司令部が揺れる。
二地点同時侵攻。
訓練所で彼らを鍛えた教官が前へ出る。
「上級兵は二手に分かれる!若手は住民の避難補助!」
セラフィナが言う。
「王は、私が止める」
炎が空へ消える。
孤立。
⸻
街の中央。
長髪の男が立っている。
風が吹かない。
一人の上級兵が、顔色を変えた。
「まさか……」
別の兵が息を呑む。
「西の王の右腕……“空圧のゼノ”……!」
ざわめき。
「テンペストの側近だぞ……!」
「王の戦場を一人で制圧したって噂の……!」
「空間を“押し潰す”風の使い手だ……!」
断片的な情報。
だが十分だった。
ゼノは静かに視線を向ける。
「知っているなら、話は早い」
上級兵が展開。
重層結界。
複合陣式。
住民避難成功。
街は半壊。
だが民間被害は抑えられている。
守る力は本物。
「撃て!!」
魔法が奔る。
爆炎、氷槍、雷。
一瞬、押す。
だが。
空間が歪む。
結界が内側から潰れる。
「圧が……内側に……!?」
砕ける。
沈む。
教官が叫ぶ。
「若手は下がれ!!」
衝撃。
土煙。
静寂。
立っているのは
グレイス
レオル
リシェル
のみ
そして、疲労困憊で倒れ伏す若手兵が数名。
ゼノの視線が向く。
「次は、未熟か」
⸻
レオルが前へ出た。
「相手は俺たちだ」
風を纏う。
グレイスが左へ展開。
リシェルが後方支援。
三人の連携。
炎のように滑らか。
氷が足場を止める。
風が貫く。
水が魔力を整える。
だが。
ゼノの前で、歪む。
「浅い」
圧層が重なる。
リシェルが叫ぶ。
「風じゃない……空間の圧が層になってる!」
その瞬間。
レオルの目が変わった。
「……そう使うのか」
風が、沈む。
吹き荒れるのではなく、圧縮する。
空気が唸る。
レオルが消える。
次の瞬間。
ゼノの頬に、裂傷。
初めて、赤が落ちる。
ゼノの口元がわずかに歪む。
「未完成にしては、上出来だ」
空間が、収束する。
衝撃波。
レオルが吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
グレイスへ圧が迫る。
トドメ。
その前に。
レオルが、立った。
身体が震えている。
それでも、前へ出る。
「まだ……終わってねぇ」
圧が貫く。
血が散る。
レオルが崩れる。
その瞬間。
グレイスの中で、何かが止まった。
世界の音が消える。
心臓の鼓動。
瓦礫の落下。
空気の震え。
全てが、鈍る。
「……止まれ」
足元から、冷気が広がる。
《絶対停止領域》
風が、止まる。
瓦礫が空中で止まる。
血が流れない。
若手兵たちが息を呑む。
ゼノの眉が、初めて動いた。
「……これが、第二か」
止まった世界の中で、
レオルがかすかに目を開く。
「やっとかよ……」
グレイスが前に出る。
停止で鈍らせ、
覚醒した風が貫く。
ゼノの身体が後退する。
静かな視線。
「王都は、後でも落ちる」
空間が歪み、姿が消えた。
圧が消える。
風が戻る。
街は半壊。
上級兵は多方沈黙。
若手兵は辛うじて生存。
民間人の被害は最小限。
レオルの傷は、氷で止血されている。
グレイスは座り込む。
リシェルが震える手で支える。
遠くの空に、紫雷が走る。
テンペストとセラフィナの戦いは、まだ続いている。
だが。
ここは、守った。
誰もがそう思った。
勝ったと、思った。
夜が、静かに降りてくる。




