表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅炎戦記  作者: えみり
22/71

揺れる水面

王都・中央市街。


偶然だった。


本当に偶然。


リシェルは書物を探しに来ていただけ。


理論強化用の魔導論文。


それだけのはずだった。


噴水広場。


視界に入った銀。


白いワンピース。


そして、その隣に立つ氷の少年。


「……は?」


足が止まる。


隠れるように柱の影へ。


見間違いではない。


セラフィナ・インフェルナ。


象徴。


完全にオフ。


笑っている。


ほんの少し。


それを、グレイスが見ている。


近い。


距離が、近い。


息が触れそうなほど。



胸の奥が、ぎゅっと締まる。


「何これ」


水が乱れる。


冷静に分析しようとする。


偶然だ。


たまたま会っただけ。


そうだ。


そうに違いない。


でも。


子供がぶつかりそうになり、


グレイスが自然に庇う。


一瞬、距離がゼロになる。


セラフィナの耳が赤い。


それを見てしまう。


完全に、見てしまう。


「……最悪」


逃げるようにその場を離れる。


足音が荒い。


自分でも分かる。


嫉妬だ。


はっきりと。



翌日。


訓練場。


グレイスはいつも通り。


何も変わらない顔。


それが余計に腹立たしい。


「今日、暇?」


唐突。


グレイスが瞬きをする。


「訓練後なら」


「じゃあ付き合いなさい」


強い口調。


レオルが吹き出す。


「お、なんだなんだ」


「黙って」


即答。


水弾が飛ぶ。



午後。


市街。


今度はリシェルが前を歩く。


妙に背筋が伸びている。


今日はいつもの制服ではない。


淡い水色のワンピース。


肩下の髪を少し整えている。


普段より、ほんの少しだけ柔らかい雰囲気。


「……珍しいな」


グレイスが言う。


「何が」


「その格好」


一瞬、固まる。


「変?」


「いや」


少し間。


「似合ってる」


直球。


何の悪気もない。


リシェルの思考が止まる。


顔が一気に熱くなる。


「……そ、そう」


声が小さい。


耳まで赤い。



露店。


焼き菓子。


「これ買いなさい」


「俺が?」


「いいから」


半ば強制。


二人で並んで座る。


沈黙。


いつもは理論がすぐ出るのに、言葉が出ない。


「昨日」


思わず口に出しかけて止める。


見ていた、とは言えない。


「何だ」


「……別に」


誤魔化す。


悔しい。


だが引けない。



「私も強くなる」


唐突。


「もっと」


グレイスが見る。


真剣だ。


「守られる側は嫌」


昨日の自分と同じことを言っていると気づいて、少し驚く。


「一緒に、強くなる」


小さく付け足す。


“隣に立つ”とは言わない。


だが意味は近い。


グレイスは頷く。


「そうだな」


自然な笑み。


それだけで、胸がまた騒ぐ。



歩く。


人混み。


今度はリシェルが少し躓く。


石畳。


バランスを崩す。


とっさに腕を掴まれる。


距離が近い。


支えられる側。


一瞬、目が合う。


心臓が暴れる。


「……離しなさい」


声が震える。


だが手は、ほんの少しだけ強く握り返している。


無意識。


自分で気づいていない。



「今日はどうした」


不意に聞かれる。


核心。


逃げられない。


少し沈黙。


そして。


「……たまには、二人も悪くないでしょ」


精一杯の平静。


だが頬は赤い。


視線は逸れている。


グレイスは深く考えない。


「悪くない」


それだけ。


だが優しい。



別れ際。


夕陽。


「また誘う」


思い切って言う。


後悔する前に。


「そうか」


あっさり。


「暇なら」


少し考えてから、付け足す。


その一言で十分。


リシェルの胸のざわつきが、少しだけ和らぐ。


完全な勝ち目はない。


でも。


逃げない。



夜。


部屋。


水を浮かべる。


今度は、揺れは穏やか。


「……負けない」


誰に、とは言わない。


でも分かっている。


炎と水。


距離は違う。


けれど。


自分は自分のやり方で。


好きになった以上、引かない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ