始まりの出会い
この世界には、三度の覚醒がある。
一度目は、魔法の発現。
二度目は、上位へ至る力。
三度目は――生まれながらに選ばれた者だけが辿り着く、世界最強の証。
俺には、何もなかった。
魔法も、家も、守るものも。
ただ、生き延びる術だけがあった。
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大陸はひとつ。
東と西に分かれているが、海はない。
地続きだ。
だから戦争も、終わらない。
俺の生まれた中央地帯は、両国が何度も奪い合った土地だ。
朝には東の旗が立ち、
夜には西の軍勢が踏み荒らす。
正義は、日替わり。
俺はそれを、子どもの頃から見てきた。
燃える家。
崩れる壁。
泣き声と、雷鳴。
助けを求める声を聞いても、動かない。
助けられない命に手を伸ばせば、
次に死ぬのは自分だと知っているからだ。
それが、この土地で生きる術だった。
⸻
魔法は当たり前の力だ。
ほとんどの人間は第1覚醒で終わる。
それでも火を灯し、水を生み、風を裂ける。
第2覚醒に至れば、国に名を刻む強者。
そして第3覚醒。
それは、人ではない。
東に一人。
西に一人。
世界最強が、二人いる。
だから戦争は終わらない。
どちらかが倒れぬ限り。
⸻
その日、空が赤く染まった。
戦場跡を漁っていた俺は、瓦礫の崩落に巻き込まれた。
息が浅い。
足が動かない。
ここで終わるのか、と
妙に冷静に思った。
その時――
爆ぜる音がした。
熱が走った。
視界の向こうで、炎が踊っていた。
違う。
炎を操る“誰か”がいた。
銀髪が、戦場の風に揺れている。
褐色の肌に刻まれた紋様が、濃く赤く発光していた。
その炎は荒々しくない。
ただ、圧倒的だった。
残党の兵が、悲鳴も上げずに崩れ落ちる。
それは噂でしか知らない存在。
東の国の象徴。
炎の第三覚醒者。
セラフィナ・インフェルナ。
彼女は、戦場を一瞬で沈黙させた。
まるで、戦争そのものを否定するかのように。
そして――
崩れかけた瓦礫の下から、俺を引き上げた。
細い指が、俺の腕に触れる。
その瞬間。
冷たい何かが、胸の奥を走った。
世界が、静まり返る。
掌に、白い霧が集まる。
次の瞬間、小さな氷の刃が生まれていた。
俺は理解した。
第1覚醒。
今まで無縁だったはずの力が、
俺の中で発現していた。
炎に触れて、氷が生まれた。
セラフィナの瞳が、俺を映す。
真紅。
その奥に、ほんの一瞬だけ、柔らかな色が揺れた気がした。
「……珍しいわね」
静かな声。
世界最強が、俺を見下ろしている。
その時はまだ知らない。
この出会いが、
魔法そのものを終わらせることになると。




