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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の死闘  作者: 橋本 直
第二十六章 『特殊な部隊』の一撃

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第55話 覚悟を問う声

『そうね、今回の作戦……隊長も、誠ちゃんの『心の弱さ』までは読み切れなかったみたいね』


 アメリアの声は、いつもより明らかに冷たかった。


『さっき、自分で言ったでしょ。『逃げ切ってみせる』って。それが『覚悟ある大人の言葉』だったなら、最後まで責任を取る心構えくらい、持ってなさいよ!』

挿絵(By みてみん)

 その叱責は、通信越しではなかった。


 まるで誠の頭の中に直接叩き込まれるような衝撃があった。


「アメリアさん……」


 誠が戸惑いの声を漏らしたその時、次に響いたのは……。


『言いすぎだぞ、アメリア!神前、お前ならできる!ランの姐御の『近藤事件』の時のあんな無茶な命令だってやり遂げただろ? 近藤の処刑命令だって! お前はもう『出来る男』なんだよ!』

挿絵(By みてみん)

 かなめの声だった。


 かなめがあの大軍となお交戦していることに気づき、誠ははっと我に返る。


 目をやると、すぐそばにはM5型戦車2両の姿があった。


『やれるさ。貴様は、私たちの『希望』だからな。神前がいなければ、今回の作戦は成立しない。信じてる……私は、貴様を信じている』

挿絵(By みてみん)

 カウラの落ち着いた声が、誠の心にしっかりと届いた。


「……カウラさんが言うなら、やれる。いや、やってみせる!」


 3人の声に、誠の中で何かが弾けた。


 目の前の敵は、難敵であるM7ではなく旧式のM5だった。


 その砲撃は、誠が無意識に展開した干渉空間にはじかれていく。


「この距離、この数、この構造……行ける、やれる!」

挿絵(By みてみん)

 初めて、仲間の指示ではなく……自分の判断で、誠は戦闘を開始した。


「舐めやがって……見てろよ!こっちだって、丸腰じゃない!」


 誠は叫ぶと、05式の固定武装から全ミサイルを発射した。


 弾道制御の無い直進型ミサイルが、先頭のM5を一直線に襲う。


 回避しようとしたM5の砲身に、雨のように降り注ぐミサイルが命中する。


 機体は形も残さず爆発四散した。


 残ったもう1両も明らかに怯んでいた。


 レーダーには、かなめ・カウラ・ランの戦果で次第に数を減らしていく敵影が映る。


『誠ちゃん! 急いで!予定時刻から1分以上遅れてる! 見上げて!あそこ、光ってるのが目標地点!今すぐ向かって、お願い!本当に、もう時間が無いの!』


 アメリアの悲痛な声。


 誠が視線を上げると、漆黒の山並みに小さな光が瞬いていた。


「あそこですね! 行きます!」


 誠は機体の主砲を展開しながら、山を一気に飛び越える。


 ビーコンのある着陸地点に合流し、05式を見事に着地させた。


 その精密な着陸に、周囲の東和陸軍の兵士たちが思わずどよめきと共に拍手が広がった。


 コックピットのモニターにも、笑顔の兵士たちの姿が映っていた。


 誠はすぐにコックピット後部からキーボードを引き出し、模擬戦で叩き込まれたコードを素早く入力していく。


「効果範囲ビーコン接続開始、法術系システム充填開始!充填完了まで……約2分!」

挿絵(By みてみん)

 そこへ、カウラの05式も着陸。


『やったな、神前。これはもう勝利だ。敵はこの兵器の『意味』も『結果』も知らず、ただ撃ってきただけの烏合の衆。ここまで来たら、作戦はほぼ成功したも同然だ』


 ヘルメット越しのカウラの笑顔が、モニター越しに誠に映る。


 法術兵器の出力ゲージが、臨界点に近づいていく。


『演習では最大30kmの出力。それが今回、最大300kmに拡張された……でもやるしか無いんだ!』


 だが、誠は妙に確信していた。


 自分にはできると。隊長が過大評価するはずがない、と。


「ひよこちゃんも、認めてくれた……なら、行ける!いや、『やるんだ』!」


 叫びと共に、誠は作業を続けた。


 足元では、『特殊な部隊』のメンバーたちが東和軍と共に敵に向けて射撃を始めていた。


『すまない神前。渓谷沿いで待機していた敵のシュツルム・パンツァーが動き出した……情報が漏れたか。いや、『ビッグブラザー』か。やつはこの戦いが長引くほど得をするからな』


 カウラの言葉が脳裏に響いた。だが誠の意識は、すでに敵の出現などに揺るがなかった。


「大丈夫ですよ、カウラさん。僕は一人でもやれます。……ここまで来たんだから、絶対にやり遂げます」


 体の力が抜けていく。だが、それでも手は止まらない。


 砲身が赤く染まり、空間が揺れ始める。


 法力の奔流に、世界そのものが応えているかのようだった。


 桃色の光が周囲を染め、金色の粒子が空へと舞う……。


 美しく、そして危険な力。


 その静けさを破ったのは、黒いシュツルム・パンツァーだった。


 地面を割って出現したそれは、赤く輝き始めた法術兵器の砲身を目がけて距離を詰めてくる。


『やばい!あれは遼帝国の機体!しかも最新式の07式なんて……東和陸軍もなんて言う物をあのお荷物軍隊に供与したのよ!おそらく反政府軍に寝返った機体だわ!ほんと遼帝国軍は前の戦争でもそうだけど使えないどころか邪魔ばっかり!』


 アメリアの怒声が響く。


『『ビッグブラザー』が裏で糸を引いてる。じゃなきゃ、あの後進国が配備が始まったばかりの最新鋭機をこんな国益とは無縁の失敗国家の選挙管理任務などに持ち込めるはずがない』


 その機体は、遼帝国軍の最新型として、05式や東和陸軍の制式機と競り合い、制式採用された07式だった。07式は機動性に特化した機体としてシュツルム・パンツァーを主力兵器とする遼帝国に各軍にも採用されていた。その特徴は05式を遥かに凌駕する機動性と、東和共和国らしい法術兵器対応性能を備えていた。


『まったく敵と見るとすぐ寝返るとは遼帝国にはプライドもないのか?』


 カウラが舌打ちしながら、機体を敵へと向ける。


「……あの人も、全部読んでたんですか?いや、違う……あれは隊長も予想してなかった!」


 誠は気づく。


 あの『駄目人間』の完璧な策にも、穴があったのだと。


「……あの敵が僕を殺すのが先か、僕がこの砲を撃つのが先か。……見ててください、隊長」


 そう、今……。


 誠の中に、確かな『覚悟』が生まれていた。

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