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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の死闘  作者: 橋本 直
第二十四章 『特殊な部隊』の激闘

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第53話 装甲の進撃、そして気づく真実

『地上にも飛行戦車が控えてやがる!対空砲火に気をつけろ!』


 通信越しに、かなめの毒舌が炸裂する。


『まあ、照準システムはうちの技術部が全部マニュアルに切り替えさせたけどな。慣れない手動じゃ当たるわけがない。……でも神前、お前は別だ。当たったら後で射殺するぞ』

挿絵(By みてみん)

 冗談とも脅しともつかない言葉に、誠は苦笑しながら操縦桿を握り直した。


 機体が揺れる急降下の中、レーダーには30両以上の飛行車両が映る。敵の主力が地上に展開しているのは明白だった。


 そのとき、誠の隣をかすめるように、かなめ機のロングレンジ・レールガンが火を噴いた。光学照準は正確無比。未熟な反政府軍パイロットは反応すらできずに撃墜される。


『西園寺、やりすぎだ。任務は目標地点への到達だ。敵の掃討は最小限に』

挿絵(By みてみん)

 冷静なカウラの声が割り込む。彼女はすでに渓谷の合間に機体を潜ませ、進撃ルートの確保に入っていた。


『駄賃くらいはいいだろ?国籍偽装してる連中だ。軽くお仕置きしてやらないと』


 そう言うと、かなめは機体に230ミリロングレンジレールガンをロックし、抜き放ったサーベルを手に残る戦車へ突撃する。敵機は砲塔すら動かせず、無防備のままサーベルに貫かれた。


 地上部隊は敵と認識した誠達に攻撃を仕掛けた。しかし、ろくな対空装備を持たない反政府軍の地上部隊は次々とかなめの精密射撃で潰されていった。

挿絵(By みてみん)

 特に目立つほど長い兵器を抱えて運動性に劣る誠の機体は敵の集中砲火にあっていたが、05式の誇る重装甲がそのすべてを弾き返した。


『駄目だこいつら、話にならねえよ。それにしてもこんなのに停戦監視の為に派遣されてきた遼帝国の正規軍が降伏したって本当か?どれも旧式ばかり、兵の練度も最低。負ける方がどうかしてる』

 

 かなめは一通り火力のありそうな反政府軍の攻撃拠点を潰すと誠機が降下しようとしている地点へと向かう。


『遼帝国軍だからな。あそこは逃げるのと降伏するのは十八番だ。地球のアフリカ戦線で甲武軍の足を引っ張ったのをはじめ、うどんを茹でる水が無いからと言う理由で一個艦隊がたった一隻の遼北人民解放軍の輸送艦に降伏したなんて言う伝説もあるくらいだ。それはたぶん事実だろうな。あの軍はうどんが無いと戦えない』 

挿絵(By みてみん)

 緊張している誠を和ませようとしているのか、カウラはそんな冗談を言いながらアメリアから送られた最新の近隣の地図を誠機とかなめ機に送信する。


『現在敵対勢力の集中している地点は想定された状況とほぼ一致している。これからは地上だ。行けるな?』

 

 カウラがかなめと誠に淡々と語りかけてくる。かなめと誠は大きく頷いた。やがて、三機はバルキスタン中部の荒れ地へ着陸する。深夜の闇の中、草木もない山肌を司法局実働部隊の05式が静かに進軍していった。


 誠は不意に疑問を口にする。


「カウラさん。こんなに通信使って大丈夫なんですか?」


 その言葉に、カウラは口を開いたまま硬直し、かなめは吹き出した。


『それは……』


 説明しかけたカウラを制し、アメリアが割って入る。


『私から説明するわ』


 通信越しに微笑むアメリアが続けた。


『今使ってるのは、誠ちゃんの法術能力に依存したアストラル通信。誠ちゃん自身が通信ターミナルとして機能してるの。とはいえ本人にはまったく負担はかからないから安心して。しかも思念通信だから、かなりの力を持つ法術師でもいない限り傍受は不可能。技術部のクラッキングで敵の連携はバラバラ、こっちはフル通信体制。これで負けたら恥よ、誠ちゃん』


 モニターの中で笑うアメリア。カウラは進撃の指示を出した。


「つまりこの作戦は僕がすべてを決めるんですね。責任重大って奴ですか?」 


 誠の操縦桿(そうじゅうかん)を握る手に自然と力が入るのが感じられた。


『硬くなるなよ。アタシ等がついているんだから。オメエはその大砲を所定の地点まで運んで行ってぶっ放すことだけ考えてりゃいいんだ。簡単な話だ。余計な敵はアタシとカウラで全滅させる。どうせ旧式の飛行戦車しか持ってねえ敵だ。こっちは最新式のシュツルム・パンツァー。勝負は最初から見えてんだよ』 


 かなめの言葉に誠は現実に引き戻された。目の前の川に沿って比較的整備された道が続いている。


『この道路を破壊する余裕はなかったようだな。とりあえず最有力候補のルートを通る。何にもまして時間が惜しい。急ぐぞ』 


 カウラはそう言うと機体のパルスエンジンに火を入れる。震えるような一号機の動きに合わせて誠もエンジンの出力を上げていった。


「了解しました!では僕も続きます!」 


 そう言うと誠は反重力エンジンを利用した浮力により滑るように道路を南に、滑るように道路を南へ進む。先ほどのような機動兵器の攻撃は無く、辺りはただ深夜の暗闇に包まれていた。


『さっきのがゲリラの最前線でそれを突破したってことか……後詰の予備部隊ぐらいは置いておかねえのかよ。レーダーに反応無しだ。つまらねえな。戦場の常識も知らずに内戦やってたのか……だからいつまでたっても決着がつかねえんだよ』 


 かなめの言葉にアメリアは急に不機嫌になる。


『そんなに敵が撃ちたいの?じゃあはげ山にでもレールガンぶっ放してればいいじゃないの。ああ、実際には撃たないでね。無駄弾撃たれると後で敵に少しは頭の回る指揮官が居て予備戦力を確保していた場合に備えてね』


 アメリアとしては敵に予備戦力が無かったことは喜ぶべきことであって、かなめの言うことは事態を悪化させるだけだと言いたいらしいと誠も分かった。


『こちらは何とかめどは立ったが……しかし撃墜せずにお帰り頂くってーのは面倒だな』 


 上空で停戦監視の西モスレム軍と揉めていた心強いランの言葉に誠は安心していた。西モスレム軍との接触が最小限で済んだことは作戦終了時の始末書の数と直結することが頭に浮かんでいただけに大きなため息が自然と漏れた。


『まあちび姐御も役に立つんだな。礼は言わねえからな。アレはアタシが喰うべきだった。こんな機動兵器の操縦に慣れないゲリラ相手よりよっぽど西モスレムの正規軍相手の戦闘の方がよっぽど歯ごたえがある』


 銃を撃てないフラストレーションがかなめにそんな言葉を吐かせた。 


『でけー口叩くじゃねえか! これからだって敵はうんざりするほど出てくるぞ。口に見合う仕事しろよ。でなきゃ帰ってからきっちり落とし前つけてもらうからな!』


 ランの声が通信に割り込み、かなめの暴言に笑いながら応戦する。誠はレーダーを確認する。微弱な反応が街道沿いに点在するが、機動兵器に対抗できる気配はない。


『アタシ等が突出部のゲリラの中での精強部隊をつぶしたことで、ゲリラは援軍を送ってくるだろうな。反政府軍の援軍が先か、アタシ等の到着が先か。こりゃあ見ものだ』 


 かなめがいつもの不謹慎な笑みを浮かべていた。いつもかなめは最悪の事態を楽しんでいる。そのことが、誠にとって戦場でのかなめに怖さを感じる理由の一つだった。


『範囲指定ビーコンの設置完了時刻はもう過ぎている。もうそろそろ東和陸軍の先遣部隊から05式広域鎮圧砲の威力設定範囲からの脱出を告げる通信が入るはずだがな』 


 カウラの言葉にかなめが表情を緩める。


『なんだ、まったく……訳も分からない新兵器の訳も分からないビーコンの設置……面倒なこと押し付けられて……ご愁傷様』 


 かなめも同じ特殊部隊上がりだけあって東和陸軍が指示されたビーコン設置作業がかなりの困難を伴うものであったことを察して同情するようにそう言った。


『それも彼等のお仕事よ。今回は誠ちゃんの使用する法術兵器の範囲指定ビーコンが頼りなんだから……一時間前に全ビーコンの設置が終了したって話よ。さすがランちゃんの口利きのおかげね。それに脱出が間に合わなくても今回の兵器は殺傷能力ゼロだもの。二日くらい意識が戻らないだけで人が死ぬわけじゃ無いわ』 


 アメリアの言葉に納得したと言うようにかなめは頷いた。


「でも敵の主力が集まってる地点なんてどうやって割り出したんですか?……反政府軍の機動兵器の所有が判明したのは三日前……!」 

挿絵(By みてみん)

 そして、誠は気づいた。


『反政府軍が機動兵器を所有した時期、侵攻ルート、政府軍の迎撃地点……すべて隊長は事前に把握してた……』


「……あの『駄目人間』、最初から僕を嵌める気だったんだ。この隊に入る前から、ずっと……!」


 彼の中で信頼の薄皮が、静かに剥がれ落ちていった。 誠は自分で言いながら気がついた。反政府軍が機動兵器を所有するに至った経緯もその侵攻作戦でどの侵攻ルートが使用されるかも、そして政府軍がどこで反政府勢力を迎え撃つかもすべて分かった上で嵯峨は甲武へ旅立ったということ。




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