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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第92話 分断された戦場

 塔の内部が震えた、あの瞬間――

 まるで何かが“意思を持って”空間を閉ざしたかのように、彼らは分断された。


「おい……! リューク、ルミエル、聞こえるか!?」


 ガルドが怒鳴るように声を張り上げる。だが、返ってくるものはない。

 沈黙。空気が重く、湿っていた。

 その背後で、リーナが低く息を呑む。


「さっきの振動……ただの揺れじゃなかった。魔力干渉の残滓が、空間の継ぎ目に残ってる」


 指先が壁に触れた瞬間、“パチッ”と小さな魔力の反応が走る。


「塔そのものが反応したってことか……」


 ザックが苔むした石壁を“ゴンッ”と拳で軽く叩く。

 だが、返ってきた音は異様に鈍く、深く沈んでいた。まるで石ではなく、何か別のもののように。


「まるで、俺たちだけ“別の層”に閉じ込められてるみたいだな……クソ、連絡の手段もない」


 彼の舌打ちが、静寂に乾いた音を落とした。


「……静かすぎる。空気の流れもない……まるでこの区画だけ“凍ってる”みたい」


 リーナが両手を胸元で組み、魔力を巡らせると、“スゥ……”という微かな風のような魔力の波が塔の内壁をなぞった。


「この空間、魔力は乱れてるけど……敵の気配は感じない。今のところは、ね」



「“今のところ”が一番怖ぇんだよ」


 ガルドの声は低く、だが確実に警戒心を帯びていた。

 ザックが半歩前に出て、薄暗い通路を鋭く睨みつける。

 その足音すら、空間に吸い込まれるように


 コツ……コツ……


 と不自然に反響する。


「……まさかとは思うが、この塔、俺たちを“試して”やがるんじゃねぇか?」


「試す……?」


 リーナがわずかに首を傾げた。


「空間ごと切り離すなんて芸当、普通じゃできねぇ。何かの意志が介在してる……それが“敵”か、“何かのシステム”かは分からねぇがな」


「……その言い方、嫌いじゃないな」


 ガルドが短く息を吐きながら、肩の筋肉を鳴らすように“ミシッ”と回した。

 しばし、重たい沈黙が落ちた。

 誰もが、見えない“出口”の感触を探していた。

 やがて、リーナが小さく囁く。


「どこかに……接続点があるはず。塔の構造そのものを変えている、何かが……」


「なら探そう。リュークたちが無事なら、向こうもきっと動いてる」


 ザックが目を細めて言い切る。

 ガルドは剣の柄を握り直し、


 ギィ……


 という革の音を鳴らしながら、一歩踏み出す。


「離れちまったが……俺たちは、まだ“同じ塔の中”にいる。なら、必ず合流できる」


 静かな気配の中に、確かな意志があった。

 三人は、鋭く、慎重に。

 けれど迷いなく、沈黙の回廊へと足を踏み入れた。

 足元を照らす魔光石の光が、石壁に淡い影を刻む。

 塔の一角、分断されたガルドたちは、慎重に探索を続けていた。


「……音、しないな」


 ザックが小声で呟く。


「その“静けさ”が逆に不気味なんだよ」


 ガルドが低く唸る。

 そのときだった——


「ッ……前方、気配!」


「……来るわ。小さいけど、数が多い」



 次の瞬間、通路の影から小型の魔物が数体、唸りを上げて飛び出した。

 通路はわずかに湾曲しており、壁の陰から這い出してくる影は次第に数を増していく。


 魔物――クラックル。甲殻に覆われた蜘蛛型の魔獣。

 その脚は鋭く、動きは獰猛で、狭い通路を埋め尽くすように迫ってくる。


「ザック、横を頼む! 俺は正面を……!」


 ガルドが鋭く叫ぶと、ザックが即座に短剣を抜いて左に展開する。

 そのとき、クラックルの一体が壁を蹴って跳びかかってきた。


 ――ガギィン!


 ザックの盾が受け止め、鋭い爪が金属をこすりつけるような音を響かせた。


「チッ、噛みつきやがったな……!」


 反動で後退しつつも、さらに一体が横から滑り込む。

 ザックが床すれすれに身を沈め、影のように敵の足元へ潜り込んだ。


「……隙、ありだ!」


 短剣が甲殻の関節部に突き刺さる。


 ――ギギィィッ……!


 金属と肉がきしむような音。クラックルの一体が脚を折り、床に崩れ落ちた。


「っと……! こいつら、意外と数が多いぞ!」


 ザックが後方へ飛びのきながら警告を叫ぶ。

 直後、通路の奥からさらに二体が這い出してくる。

 その甲殻が“カツカツッ”と床を爪で引っ掻く不快な音を立てていた。


「リーナ、援護を頼む!」


 ガルドの声に、リーナがすでに袋から小さな光玉を抜き出していた。


「目、閉じて!」


 光玉が壁に叩きつけられる。


 ――パァンッ!


 閃光が炸裂し、通路が一瞬、白い閃光に包まれる。


「今のうちに叩け!」


 ガルドが前に出て、大盾で魔物を思いきり押し返す。

 クラックルの一体がバランスを崩し、ガルドの剣が唸りを上げて振り下ろされた。


 ――ズバァッ!


 刃が甲殻を裂き、鮮血が通路に散る。

 だが、後方の一体が怒り狂ったように飛びかかってくる。


「させるかよ……!」


 ザックがその横をすれ違いざまに駆け抜け、短剣を腹部に突き上げるように振る。


 ――グシャッ!


「ギャアアッ!」


 断末魔が響き、クラックルの体が痙攣しながら崩れた。


「あと二体……!」


 ガルドが剣を構え直す。

 リーナはすでに詠唱に入っていた。


「燃え上がれ……ファイアボルト!」


 放たれた炎がクラックルの一体に直撃。


 ——ボフッ!


 肉の焦げる臭いとともに、周囲の水気が一瞬で蒸発する。

 焼け焦げた甲殻がぱきりと割れ、魔物はその場に崩れた。

 残る一体が、火花と煙にたじろぎながら後退したその刹那。


 ――ズシャッ。


 ガルドの剣が横なぎに閃き、断ち切るように肉と殻を裂いた。


 数秒の沈黙。

 通路に漂っていた微かな緊張が、ゆっくりとほどけていく。

 倒れたクラックルたちはすでに動かず、戦場は静寂に包まれていた。


「ふぅ……終わったな」


 ザックが肩で息をつき、汗を拭いながら呟く。

 ガルドは剣をゆっくりと納め、通路の先を見やった。

 リーナは息を整えながら、魔力の残滓を指先で整え、周囲を警戒する。


 だがその時――


 ――ドンッ!!


 塔の奥から、重く低い爆発音が轟いた。

 足元がかすかに揺れ、石壁が


 ゴゴゴ……


 と鈍く共鳴する。

 空気の中に、焦げ臭い匂いが混じった。


「……今の、爆発音……」


 リーナが眉をひそめ、耳を澄ます。


「爆発音ってレベルじゃねぇな。……誰かが、大規模魔法を撃ったか……」


 ガルドが目を細め、壁の振動を確かめるように手を触れる。


「ファイア系の魔法の響きだな。……リュークのかもしれん」


 その言葉に、ザックの口元がわずかに緩む。


「ってことは……あいつらも、無事ってことか」


「リュークたちだ。……奴ら、派手にやってんな」


 ガルドは構えを整え、再び前方へと意識を向ける。


「ここを抜けて、合流できる道を探すぞ!」


 三人は短く頷き合うと、通路の奥へと走り出した。

 その背後では、クラックルの体が、まるで力尽きた人形のように沈黙していた。



 次回:視えざる層の顕現

 予告:繰り返される構造、重なる記憶の残響。塔が囁く“異常”の中で、リュークは新たな視界を開く。

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