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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第85話 A級ポーションと夢の残響

 ◆微光の実験室

 宿の一室。

 窓から差し込む月明かりと、卓上の魔導ランプの光が混じり合い、木目の床に柔らかな影を落としていた。

 リュークは椅子に腰掛け、木箱から調合器具をひとつひとつ並べていく。


 カチャ、カチャ……


 とガラス器具が静かに触れ合う音が部屋に響く。


「……よし、材料は揃ったな」


 ルミエルが小さな籠をそっと机に置いた。

 中には、森で採取した〈赤根草〉、〈樹液〉、そしてわずかに光を反射する小さな水晶片が収められている。


「この〈赤根草〉、普通は加熱した時点で有効成分が飛んじゃうのよね。でもあなたのやり方だと——」


「“量子揺らぎ”を抑えてるんだ。成分の分解タイミングを、狙ってズラす感じ」


「なるほど、分からない」


「俺も感覚でやってるだけだしな」


 ふたりは小さく笑いながら、器具をセットしていく。

 リュークが加熱皿に手をかざすと、魔法陣が


 ピチ……


 と音を立てて静かに起動した。

 器の底から青白い熱が


 ジュウ……


 と立ち上がる。


「……よし、今」


 合図と同時に、ルミエルが〈樹液〉を注いだ。

 透明な液体が触れた瞬間、


 シュゥ……


 と細かな蒸気が立ち、色が一瞬だけ銀色に変わる。


「変わった……今の光、前よりも長く残った」


 液体はそのまま深い赤へと落ち着いていく。


「安定してる。前回より純度高いかも」


 リュークは小さく頷きながら、慎重にポーション瓶へ液体を移した。


 コポ……


 という音とともに瓶が満たされ、彼は静かに栓を締める。

 小さく息を吐き、目を細めながら視界を切り替える。


「——〈鑑定〉」


 その瞬間、脳裏に情報が流れ込んで来る。


【回復ポーション:A級】

 高純度の魔力伝導素材により、肉体の治癒力を短時間で最大限まで引き上げる。

 使用後10秒以内に体表の傷・軽度骨折・疲労毒素を回復。

 魔力感応性:高/安定性:良好/副作用:なし

 調合者名:リューク・サーガハート(記録不明)


「……A級、出た。今回は間違いない」


 リュークがポーションを確認しながら、静かに言う。


「ほんとにすごいわね。あの素材でここまでの完成度……」


 ルミエルが感嘆するようにポーションを持ち上げ、光に透かして眺める。

 澄んだ液体は、わずかに淡い金色の光をたたえていた。


「素材はただの触媒。組み合わせ方と、構造の“意図”さえ掴めれば、結果は変わる」


「そういうの、あなたの記憶に関係あるのかな?」


 ルミエルの問いに、リュークはわずかに間を置いた。


「……分からない。でも……知ってるはずなんだ。俺は」


 その声には、確信と同時に、わずかな迷いも混ざっていた。

 ポーションを作っている最中、手は迷いなく動いた。

 配分、温度、反応の順序――頭では理解していないのに、なぜか“手が知っていた”。


(……理屈は説明できない。でも、なぜか“こうすれば成功する”って確信がある)


「……知識だけじゃない。“感覚”まで染み込んでるみたいなんだ」


 言葉にしてみても、自分で完全に納得しているわけではない。

 記憶を開放した“はず”なのに、それはまるで他人の経験を借りているような感覚だった。


(俺が知ってるのか? それとも“知ってた誰か”が、俺の中にいるのか?)


 部屋に、静かな余韻が満ちる。

 夜はまだ深いが、ふたりの意識は明日の旅路へと向かっていた。

 ただリュークの胸の奥には、成功の喜びとは異なる、拭いきれない“奇妙な手応え”が残っていた。



 ◆記憶の干渉

 ——夢の中。

 音が、しない。

 まるで、世界が“録音されていない”かのような、完全な静寂。

 足音も風も、空気の震えすらない。


 リュークは、見知らぬ街の路地を歩いていた。

 石畳は濡れており、


 ピチャ……


 と水たまりを踏んだはずの足元も、音を返さない。

 空には星がなく、雲すら見えない――ただ、暗い。

 見覚えのない建物、人影のない街並み。

 けれど、なぜか懐かしさが胸の奥に滲んでいた。


(……ここ、知ってる……)


 思わず歩みを止める。

 その視線の先、路地の終わりに一つの背中があった。


 それは、自分によく似ていた。

 身長、髪の色、歩き方――だが、どこかが違う。


 その“リューク”は、迷いなく歩いている。

 黒いマントをまとい、手には見たことのない細長い杖を持っていた。

 杖の先端が


 チカ……チカ……


 と蒼白い光を不規則に明滅させている。

 その瞬間、視界の右端に、揺れるような“記号”が浮かび上がった。


【記憶干渉検出:異時間座標に類似意識体を確認】

 観測安定率:42%

 記憶連結パターン:不定形/収束未完了



(……今の、なに……?)

 そのときだった。

 夢のリュークが、ゆっくりと振り返った。


 ——目が合う。

 銀色の瞳。

 まるで何かを見透かすように、微かに笑っていた。


「お前は……」


 声を出そうとした瞬間――

 ——ゴォッ!

 風が、突風のように吹き抜けた。

 濡れた石畳の水が


 ザザッ


 と巻き上がり、景色が一気に霞む。

 その風に混ざるように、誰かの声が響いた。


「まだ、辿り着いていない。“あの扉”の先で、待っている」


 ——そして、夢は崩れた。

 リュークは跳ね起きる。


 ハァッ……!


 汗ばんだ額に手を当て、荒い呼吸を整える。

 体の奥に残る異様な冷たさと、夢の重さが抜けきらない。


「……今のは、記憶……だったのか?」


 窓の外はまだ夜のまま。

 だが、空気が――ほんの少し、変わっていた。


 宿の夜は、驚くほど静かだった。

 風は止み、街のざわめきすら遠く、外灯の光が


 ぼんやり


 と窓辺を照らしている。

 ルミエルは、目を覚ましていた。

 寝返りを打つと、向かいのベッドに眠るリュークの寝息が、かすかに耳に届いた。


 ……そのはずだった。


「……まだ、たどり着いてない……扉の、先で……」


 微かに。けれど、確かに。

 掠れるような――それでいて、胸を打つような声。

 誰かに呼びかけるような、苦しげな寝言だった。


 ルミエルは上体を起こし、静かに彼の寝顔を見つめる。

 布団が


 カサ……


 とわずかに揺れる音が、夜気に紛れる。


 リュークの額には、うっすらと汗が滲んでいた。

 眉間には、見たことのないほど深い皺が刻まれている。


「……夢……?」


 思わず、そうつぶやいた声も震えていた。

 彼の発した言葉に、ルミエルの胸の奥がざわりと波打つ。


 その“響き”は、懐かしく――それでいて、どこか怖かった。

 言葉にならない不安が、静かに広がっていく。


 彼の声には、“何かを見た”者の気配があった。

 かつて知っていたものを、もう一度取り戻そうとしているような――

 そんな重みと、焦燥と。


(また……記憶、なの?)


 ルミエルはそっとベッドを抜け出し、リュークの毛布をかけ直す。

 彼の髪が額に貼り付き、「はぁ……」と浅い息が漏れた。


 その手に一瞬、温もりと冷たさが同時に伝わってきた気がした。

 彼をそっと見送ったあと、自分の寝台に戻る。

 だが、まぶたを閉じても――その声の余韻だけが耳に残り続けていた。


「……リューク。あなたは、一体、どこへ向かっているの……?」


 その夜、ルミエルはしばらく眠れなかった。

 聞こえないはずの声が、いつまでも、胸の奥に揺れていた。



 次回:混ざり合う記憶、使えない答え

 予告:夢に見た“扉の声”が残響する朝。リュークの脳裏には、意味の分からない数式と理論が押し寄せる。だがそれは、問いを欠いたままの“答え”にすぎなかった――。

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