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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第84話 森影を越えて

 祠を後にし、リュークたちは森の帰路へと足を進めていた。

 空はすでに西に傾き、木漏れ日は赤く染まり始めている。

 祠で得た記憶の余韻が、まだ胸に残っていた。


「……まだ、言葉にならないね」


 ルミエルが小さく呟く。


「でも……思い出せてよかったと思う。あんな風に、はっきりと“何か”を見たのは初めてだった」


 リュークは頷いたまま、周囲を警戒していた。


「……油断するな。森は、出るまでが遠足だ」


 その言葉の直後だった。


 ——ザシュッ。


 茂みが大きく揺れた。


「っ……またかよ」


 リュークが短剣に手をかけるのと同時に、ルミエルが魔力を集中させる。

 黒い獣影が、ズズッと音を立てて茂みから這い出てくる。

 体長は人間ほど。複数の脚を持ち、粘液質の甲殻に覆われた魔物——クロークラッシャー。


「突っ込んでくる! シャドウファング、右だ!」


 影狼が即座に指示に従い、地を蹴って


 ダンッ


 と駆けた。

 ルミエルが詠唱に入る。


「光素収束——〈ライト・ショット〉!」


 放たれた光弾が


 バシュッ


 と音を立て、敵の眼前で炸裂。

 クロークラッシャーが


「ギャアアッ」


 と仰け反る。

 リュークが駆け抜ける。


(甲殻の隙間、脚の接合部が狙い目……!)


 地を滑るように身を低くし、重心を乗せて短剣を突き立てた。


 ッ!

 ——ブシュッ。


 刃が肉を裂き、粘性のある黒い血が跳ねた。

 手応えとともに、刃が骨に当たって止まる


 ゴリッ


 という鈍い反響が手首に残る。

 クロークラッシャーが怒りの咆哮を上げ、


 バキンッ


 と尾を振り回す。

 シャドウファングがしなやかに跳び上がり、その一撃をかわしつつ敵の背後へ。

 ルミエルが空中に魔法陣を展開。


「偏光展開——〈プリズム・ブレイク〉!」


 幾重にも折り重なった光が


 ギラリ


 と砕け、敵の視界を撹乱する。

 その一瞬の隙を逃さず、リュークが渾身の力を込めた一撃を振り下ろす。


 ——グシャリ。


 骨を砕く鈍音とともに、クロークラッシャーが絶叫し、膝を折って崩れ落ちた。

 脚が痙攣し、甲殻が小刻みに震える。


「……終わったな」


 リュークが短剣を拭きながら呟いた。

 クロークラッシャーの巨体が


 ドサッ


 と地に沈み、その重みが静寂を呼び戻す。

 そのとき、視界に更新されたステータスが浮かんだ。


【ステータス更新】

【リューク】LV.9 → LV.10

 HP:220 → 240

 MP:160 → 203

 筋力:30 → 33

 敏捷性:35 → 39

 耐久力:25 → 27

 魔力:45 → 51



「……上がった」


 リュークは静かに、自身の変化を受け止めるように目を細めた。

 視界に浮かぶステータス以上に――

 手のひらや足元に残る感覚、呼吸の通り方、戦った直後の重さ。


 そうした“手応え”こそが、何より信じるに足る実感だった。

 ルミエルは胸に手を当て、ふぅっとひと息ついたあと、ゆっくりと周囲に目を向けた。


「日が傾いてきたわね……でも、あと少しだけなら時間もありそう」



「何か探すのか?」


 リュークの問いに、彼女は小さく頷く。


「うん。ポーション用の材料、あと一種類だけ……この辺りにあるはずなの」


 森を吹き抜ける風が、木々の葉を

 サラ……


 と揺らす。

 リュークは軽く肩をすくめ、冗談めかしつつも真剣な目で言った。


「いいだろう。……ただし油断するなよ。さっきみたいな奴が、まだ潜んでるかもしれない」


「分かってる」


 ルミエルは慎重な足取りで木陰へ向かい、光の射す一帯に腰を下ろすと、そっと草むらに手を伸ばした。


「……これ。赤根草。森の奥にだけ生える種類で、回復薬の主成分になるの」


 シャッ


 と小気味よい音とともに、根ごと抜き取った薬草の根本が赤く染まっていた。

 さらに少し離れた古木の幹に歩み寄り、節の裂け目に指先を当てる。


 カリ……カリ……


 と表面を優しくこすり、透明な樹液を器に落としていく。


「樹液は保存にも使えるわ。これで、数本分にはなると思う」


 リュークのもとに戻ったルミエルは、小さな草籠をそっと差し出した。


「揃ったよ。戻ったら、すぐ試せると思う」



「助かる。……戦いのあとに、こうして備えがあるのは、ありがたいな」


 リュークは穏やかに言いながら、視線を森の奥へと向ける。

 そこには、まだ言葉にできない“ざわめき”があった。


 祠で感じた記憶の残響。

 けれど今は――それよりも、目の前にある

 生きるための確かさが優先される。

 素材と実感を手に入れた彼らは、森を後にし、夕暮れの中を街へと歩き出した。


 静かな足音だけが、草を


 ザッ……ザッ……


 と踏む音とともに、道に続いていた。



 ◆記憶を語る夜

 街の輪郭が見えてきたのは、太陽が地平線に沈みかけた頃だった。

 石畳の通りには


 カン……


 と灯されたランタンの音が響き、人々のざわめきと、夕餉の香りがほのかに漂ってくる。

 宿へ戻った三人は、簡素な一室に腰を下ろしていた。

 テーブルの上には、ルミエルが集めた素材と、空のガラス瓶。


 だが、それ以上に――沈黙が、空気を満たしていた。

 窓から入り込む冷たい風が


 サラ……


 とカーテンを揺らす中、リュークがぽつりと口を開いた。


「……なあ、ルミエル。今日、祠で見たもの……」


 言いかけて、言葉を探すように間を置く。


「俺たち、あの場所で……一緒にいたよな? 過去の俺と、ルミエルと、シャドウファング」


 ルミエルは、手を止めてじっと膝の上に視線を落とした。


「……うん。私も、そう思った。夢だとは思えなかった。

 空気の匂いも、光の加減も……全部、知ってる気がした」

「でも、それ以上は思い出せない」


 彼女の声がわずかに震えた。


「……怖いのよ。思い出したら、何かが変わってしまいそうで」


 その言葉に、部屋の空気が


 ピキ……


 と凍るような緊張を孕んだ。

 リュークのそばにいたシャドウファングが、すっと立ち上がり、そっと足元に座り込む。

 爪が


 コツ……


 と床をかすめる音が静けさを裂いた。


「この子も……何か感じてるよな。祠での反応も」


 リュークは静かにその頭を撫でながら、言葉を継いだ。


「俺たちは、何か大事なものを託してきたのかもしれない。……あの場所に」


 ルミエルが、ゆっくりと顔を上げる。

 その瞳には、恐れと、それでも知りたいという意志が入り混じっていた。


「また……行こう。今度は、“思い出す”ために」


 リュークはうなずいた。


「次に行く時は、もっと深く踏み込もう。あの祠には、まだ“何か”がある」


 窓の外、街の灯りが


 トン……


 と灯り始める。

 柔らかく、そして確かに瞬きながら、夜の帳がゆっくりと降りていく。

 そして彼らの“失われた過去”もまた、静かに――明かされる瞬間を、じっと待っていた。



 ◆交差する眼差し

 夜の街。

 石畳の路地には、魔導灯の淡い光が滲んでいた。


 リュークは、宿の裏手にある静かな中庭で、ひとり夜空を見上げていた。

 空には星が滲み、冷たい風が


 ヒュゥ……


 と頬を撫でていく。


「……いい夜だ」


 ふと背後から、落ち着いた声が響いた。


「よく会うな、ヴァルト」


 リュークは振り返らずに答える。


「君の背中は、遠くからでも分かる」


 石の階段に腰を下ろしたヴァルトが、笑みともため息ともつかぬ声を漏らした。


「街には、変わった風が吹いている。君たちが来てから、特に」


「それは俺たちのせいか?」


「可能性の話だ。……この街での時間は、どうだ?」


「まあ、悪くない。静かに考えるには向いてる」


「ふむ。なら、もう少し留まってもいいだろうな」


 二人の間に、短くも深い沈黙が流れる。

 街の片隅で、どこかの家の扉が


 ギィ……


 と軋む音が微かに聞こえた。

 やがて、リュークが口を開いた。


「ヴァルト、お前……何を見てる?」


「何って?」


「……いや。なんでもない」


 ヴァルトはわずかに目を細めたが、それ以上は詮索しなかった。


「君が何も語らないのなら、それでいい。私は“話すべき時”まで、ただ見る」


「……俺も、今はまだ言葉にできるものがない」


「それでいい。言葉にならないうちは、無理に語らなくていい」


 風が吹き抜け、屋根瓦が


 カラン……


 と乾いた音を立てる。


「……ルミエルは元気か?」


「疲れてる。でも、無理はしていない。たぶん、少しずつ思い出してる」


「そうか。それなら良い」


 ヴァルトはゆっくりと立ち上がり、マントの裾をはらう


 パサ……


 という音が、静けさに溶けていく。


「……私は明日から、街の外で少し調べ物をする。君に関係あるかは分からないが、何かあれば声をかけてくれ」


「分かった」


「では、また」


 それだけ告げて、ヴァルトは背を向けたまま、足音を残して去っていった。


 コツ……コツ……


 と石畳を歩く音が、遠くに小さくなっていく。

 リュークはその背中をしばらく見送っていたが、やがてふっと息を吐き、再び空を仰いだ。


「……何も言わなくても、向こうは気づいてる」


 だけど今は、それを口にする時じゃない。

 この静かな街で、リュークはそっと目を閉じた。


 次回:A級ポーションと夢の残響

 予告:調合の成功、静かな夜。そして夢に現れた“もう一人のリューク”

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