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【メモリーバンク】異端者扱いされた俺が“量子の魔法”を使ったら世界が変わる――記憶もスキルも無かったけど最強になって行く。  作者: カイワレ大根
第5章

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第83話 祠に託された記憶の断片

 視界の奥で、風景がゆっくりと“色あせて”いく。

 それは、まるで“時間が巻き戻されている”ような感覚だった。


 苔むした石壁、ひび割れた神聖文字、崩れかけた屋根と、かすれた紋章――

 以前、村の外れで目にした“封印の祠”に、どこかよく似ている。


 あの祠は、古い林道の先、地図にも記されていない場所にぽつんと佇んでいた。

 崩れかけた柱が並び、屋根は半分ほど落ちていて、入り口にはかすかに“封”の気配が残っていた。


 誰も近づこうとせず、村の人々も存在を知らないようだったが――

 それでも、近くに立ったとき、言葉では言い表せない“なにか”を感じた。


 足を踏み入れることはなかったが、視線を向けたとき、胸の奥がわずかにざわついたのを覚えている。


(……あのときの祠と、似ている。でも、これは……)


 けれど、今のこれは、その祠よりもさらに“昔”の姿に思えた。

 風景は整い、草の丈は短く、木々の並び方も――どこか、今とは違っていた。


(……これ、昔の景色?)

 目の前には、苔むした石段。


 カサ……


 と風に揺れた草が擦れる音が微かに耳に届く。


 そして、その石段の前に立っていたのは――

 白い衣をまとった少女と、どこか幼さの残る少年。


 少年は、ほんの少しだけ今の自分に似ている気がした。

 少女の隣には、一頭の黒い狼。

 シャドウファングだ。けれど、今よりも体格が少し小さく、瞳の色にもどこか無垢な光が宿っていた。


 少年はためらいなく、狼にそっと手を差し出していた。

 ぎこちなさもなく、自然で――まるで、ずっと前から知っていた相手に向けるような穏やかな仕草だった。


「……お前は、あの場所の“守り手”だったのか?」


 その声が誰のものかは分からなかった。

 けれど、不思議とその言葉は、今のリュークの心にも


 ズシリ


 と重なって響いた。

 そのとき、古びた祠の扉が、


 ギィ……


 と長く軋む音を立てて、わずかに開いた。

 中に見えたのは、崩れかけた魔法陣。

 周囲の石が


 パラ……ッ


 と落ちる音が重なる。

 そして、その中心には――

 何かを封じ込めるように設計された“記憶の装置”が、静かに置かれていた。


 彼ら――少年と少女は、その中心へと歩み寄り、何かを“託して”いた。


「これで、また出会える。たとえ全部を忘れても」


 その言葉とともに、風景はゆっくりと薄れていく。


 サァ……


 と音もなく空気の色が戻り、現実の祠が視界に重なった。



 ◆ルミエルの反応

 開放のあと、祠の空気がわずかに変わっていた。

 張りつめた緊張がほどけたはずなのに、胸の奥にはまだどこか引っかかるようなざわめきが残っている。


「……ねぇ、さっきの記憶……私、あの場所にいた気がする」


 ルミエルが、かすかに震える声でそう言った。

 足元の落ち葉が


 カサ……


 と音を立てて揺れる。


「祠……見たことある。夢の中で。でも……夢じゃなかったんだよね」


 リュークは黙ってうなずいた。

 ルミエルの言葉が、胸の奥深くに


 ズシ……


 と沈んでいく。


「たぶん……私たち、忘れてるだけで、あの場所で何かを……」

「……また行かないといけない気がする。もう一度」


 ルミエルの瞳が、迷いと覚悟の間で揺れていた。

 その横顔を見ながら、リュークも無意識にポケットの金貨袋に触れる。


 チャリ……


 と小さな音が指先に返る。


 ◆祠の中の記憶 シャドウファング。

 そして、あのとき俺たちが“託した何か”


「……また、あの村に行くことになる。トレント村に」


 その言葉に呼応するように、祠の奥で


 ウォン……


 とシャドウファングが一鳴きした。

 低く、けれど確かな声。

 まるで――彼だけが、すべてを忘れずに覚えていたかのようだった。




 祠の外、沈黙の時間

 色を取り戻しつつある風景の中で、リュークはしばらく動けずに立ち尽くしていた。


 目の前に広がる静けさは、すべてが終わったあとの静寂ではない。

 むしろ――これから何かが始まるような、そんな気配を含んでいた。

 隣で、ルミエルがぽつりとつぶやく。



「……あの影……わたし、どこかで見た気がする。でも……思い出せないの」


 リュークは彼女を見ず、まっすぐに祠を見上げた。


「たぶん俺たち……ここで、何か大切なことをしたんだと思う」


「そして……あの村の祠にも、何かが繋がってる」


 指先がわずかに震える。

 胸の奥に浮かんだ記憶の断片と、あの“過去の光景”。


 それが意味するものは、まだはっきりとは掴めない。

 けれど――確かに、この場所に何かを残してきた気がする。


 あるいは、誰かから“何か”を託されたのかもしれない。

 ルミエルは黙ったまま、そっと祠に手を伸ばした。


 カサ……


 と袖が風に揺れ、木肌に触れる音が微かに響く。

 その仕草はどこか祈るようで、懐かしさに満ちていた。

 リュークは振り返らずに、低くつぶやいた。


「……この場所、また来ることになる。今のままじゃ終わらない」



「うん。わたしも、そう思う」


 森に、風が戻ってくる。


 ザァ……


 という葉擦れとともに、小鳥のさえずりが


 チチ……


 と混ざった。

 リュークとルミエルは、ゆっくりと歩き出す。

 祠に背を向けて、森の奥へと消えていく。

 二人とも、振り返ることはなかった。


 だがその瞬間――

 誰もいないはずの祠の奥で、


 ゴリ……


 と、何かが微かに動いた。

 ほんのわずか。けれど確かに。


 静かな影が、ゆらりと揺れる。

 まるで、長い眠りから目を覚ますように――。


 次回:森影を越えて

 予告:祠の余韻を抱えたまま、リュークたちの前に現れる新たな魔物。戦いと静寂の狭間で、彼らの過去と未来が交錯していく。


読んでいただき、本当にありがとうございます。


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